グールド・始まりと終わり~ゴールドベルクでなく、平均律の話

 バッハでは、カンタータのほかには、鍵盤曲が好きです。

 中でも、平均律の第2巻は、ミサやコラール集と並び、バッハが晩年に行った、自作を後世に託そうという編纂活動の一環として、かけがえのない価値を持つもので、
 聴けば聴くほどひきつけられ、その魅力はけっしてつきることがありません。
 常に身近において愛聴しています。

 平均律第2巻は、どれも名作、傑作ばかりですが、その中でどれが一番好きか、と言われたら、さんざん悩んだ末に、あの古様式対位法を駆使した、ロム・アルメがテーマのホ長調フーガ(第9番)と、晩年特有の超絶対位法が炸裂する変ロ短調フーガ(第22番)をあげるでしょう。

 平均律の名演をあげるのはとても難しいのですが、この2曲のフーガに関しては、他をよせつけずに聳え立つたいへんな名演があります。

 それは、グレン・グールドが弾いたものです。

 といっても、有名な全曲盤のものではなく、最晩年のものです。

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 最近ようやく、最晩年のゴールドベルクの映像がDVD化され、話題になりましたが、
 以前発売されていたビデオには、同時期の一連のセッションで、平均率やインヴェンション、パルティータなどを弾いた映像も、いっしょに収録されていました。
 いずれも、ピアノを弾きながら興味深い解説をした上で、あらためて全曲を通して演奏しているのですが、そのどれもが、もう涙が出るほどの名演ばかり、
 特に、上にあげた2曲の平均律フーガは、これまでに聴いたことが無い、そして、これからもけっして聴くことができないであろう圧倒的な名演でした。

 まさに、バッハを、いや、西洋伝統音楽を代表する名曲の、これ以上は無いほどの理想的な名演奏、だと思います。

 この演奏について何か説明しようとしても、文章の無力さを痛感するばかりです。
 まあ、聴いていただくしかないのですが、
 ひとつだけ、書けるとしたら、テンポに関してでしょうか。 

 全曲盤では、両フーガとも、まるで疾走するかのような快速調でした。
 これはこれで十分魅力的なのですが、
 それに対して、この晩年の演奏は、ものすごくゆっくりです。
 まるで倍とも思えるテンポ。
 そのテンポで、各声部が、実にていねいに奏でられます。まるで、まったく異なる4人が、心からの歌を歌っているかのよう。
 そしてその歌がひとつになって、大きな大きな音楽になる・・・・。


 さて、上記ゴールドベルクは、グールドのほとんど最後の録音として知られているものです。
 一方、グールドのデヴュー盤も、ゴールドベルク。
 つまり、みなさんよくご存知のように、
 グールドの演奏家としてのキャリアは、ゴールドベルクで始まり、ゴールドベルク終わったわけです。
(ゴールドベルクが、アリアで始まり、アリアで終わるように)

 ところが、驚いたことに、実は、グールド、
 そのデヴュー時の一連のセッションで、いっしょに、上記ふたつのフーガについても、録音しているのです!
(よほど、グールドも、これらの曲が好きだったのでしょう)

 つまり、グールドのキャリアは、この平均律の2つのフーガで始まり、同フーガで終わった、とも言える、ということ。

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 この、ファースト・セッションと、ラスト・セッション、
 ゴールドベルクの方は、内容はともかく、テンポ等、外見上まったく異なるものになってますね。
 ところが、おもしろいことに、ふたつのフーガに関しては、なんと、テンポを始めとして、何から何まで、ほんとうによく似ているのです。

 中間の正規盤だけがやや特殊で、このふたつのフーガに対する基本姿勢は、生涯を通じて貫かれていた、ということでしょうか。

 25年の時空を超えた演奏。

 ラスト・セッションのような、底知れぬ深みは無いかもしれませんが、わたしは、このファースト・セッションの演奏も大好きです。


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