バッハの源流への旅・その2~ミサ「ロム・アルメ」

 前回のグールドに続いて、「ロム・アルメ」つながり、今度は、古楽の話です。

 平均律第2巻、古様式のホ長調フーガのことを書きましたが、
 ホ長調フーガ、と言えば、ロム・アルメ、(=俗謡「戦士たち」)
 ロム・アルメ、と言えば、ルネッサンスのほとんどの作曲家が、ロム・アルメに基づく、それぞれ個性的なミサを書いていますが、
 やはり元祖の、デュファイ、オケゲム、ジョスカン、この3人のものが、燦然と輝いています。
(この3人のロム・アルメを聴き比べることによって、この3人の特徴がとてもよくわかります。)

 今回は、その中の、デュファイと「ロムアルメ」についてです。


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 何度も言うようですが、もし、デュファイのミサを聴いたことがない方がいらっしゃったら、必ず一度聴いてみてください。

 デュファイが自分の作風を確立してから、
つまり、ルネッサンス音楽の幕が開けてからの以下の4曲なら、どれでもかまいません。

 ミサ「セラ・ファセ・パル」
 ミサ「ロム・アルメ」
 ミサ「エッチェ・アンチルラ・ドミニ」
 ミサ「アヴェ・レジナ・チェロールム」

 タイトルは、それぞれのミサのもとになっている歌のタイトルです。当時の流行歌、自作のシャンソン、モテトゥスなどで、誰もが知っているその旋律から、ミサ全曲が構成されているわけです。
 どこか、「コラール・カンタータ」を思い出させますね。

 以上は年代順に並べていますので、
 ミサ「ロム・アルメ」は、一応デュファイの中期の作品ということになります。

 デュファイは、基本的には中世から出発した音楽家ですから、
 その音楽、特に中期のミサは、これまでに無い新しい音楽を創造しよう、という強固な意志の力につらぬかれています。
(デュファイの生涯は、(実はバッハよりも10年も長いのですが)
その始めから終わりまでが、新しい世界を開拓しようという、不断の戦いだったのではないか、とわたしは思っています。)

 ですから、中期のデュファイのミサを聴いていると、どこかややこしい、こみいった印象を受けることがあります。
 不思議な迷宮をさまよっているようだ、と、おっしゃった方もいます。

 たしかに「迷宮」かもしれません。しかし、この「迷宮」は、たえず外へ、外へ、と向かっているのです。

 以前も同じようなことを書きましたが、デュファイの「迷宮」をさまよっていると、突然、壁も天井も何もかもが消え去り、ふっとまぶしい世界がひらけるような瞬間があります。
 それがわたしにはたまりません。これは、他の作曲家には絶対に無いものだと思います。

 たえず中世からルネッサンスに突き抜けようとする、
 したがって、常に、中世とルネッサンスが交錯する。
 それこそが、デュファイの魅力であり、
 後のジョスカンやパレストリーナあたりになると、もはやそのような要素は跡形も無く消え去って、
 ただただ美しいばかりの世界がひろがります。

 デュファイの新しい創造への決意は、
 循環ミサというフォーマットを確立し、
 その定旋律に、よりによって、当時のポピュラーソング(ロム・アルメ)や自作の恋の歌(セラ・ファセ・パル)を使用したことからも、明白だと思います。

 以降、このデュファイの精神、「ロム・アルメ」の精神は、ルネッサンスを通じて生き続けることになります。


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 ロム・アルメ(=俗謡「戦う人」)については、実はあまりわかってはいません。

 コンスタンチノープル陥落や、その後の十字軍との関連が指摘されていますが、ヨーロッパ・キリスト教側の旗頭的意味合いがあったと思われます。
 いずれにしても、当時たいへん人気のあった俗謡だったことはまちがいありません。

 ミサ「ロム・アルメ」は、ジョスカンの2曲を頂点として、(これはほんとうにスゴイ!)
2世紀近くもの長きにわたって、第一線の大家によって作曲され続け、その数は現存するだけでも30数曲におよぶそうです。
 これだけでも、デュファイという存在の、はかりしれない大きさがわかります。

 そして、このロム・アルメ、さらに、その後の西洋音楽全体にも大きな影響をおよぼすことになります。

 モーツァルトの「ジュピター」フィナーレの有名なフーガのテーマや、ベートーヴェンの大フーガのテーマ、ブルックナーの第5や第8など大交響曲の循環テーマなどが、ロム・アルメの残像だということは、以前よく言われていました。
(今はどうなんでしょう)

 また、わたしたちのバッハも例外ではなく、前にあげた平均律第2巻ホ長調フーガをはじめ、(これはそのまんま)
「フーガの技法」や「音楽の捧げもの」のテーマにも、明らかにロム・アルメの影響がみられます。
 バッハは、わたしたちが思っているよりもずっと、ルネッサンスの世界にあこがれていたらしいですし。
(それにしてもこの山型音型は、よっぽど対位法的展開に適しているのでしょう。この事実も、デュファイの天才的な直感を物語っています)

 わたしは、BWV82や、BWV34などの、バッハの代表的名アリア(勝負アリア)の冒頭旋律にも、ロム・アルメがかくされているのでは、と疑ってるのですが、いかがでしょう。

 ジョスカン、パレストリーナといった伝説の名匠たちの系譜に、バッハも、自らの名を連ねようとした、というのは、単純すぎるでしょうか。
 そう言えば、ロ短調ミサ、冒頭キリエの大フーガのテーマ、なんとなく・・・・。

(ちょっとムリがあるかもしれません。
 実際は、バッハはともかく、モーツァルトもベートーヴェンもブルックナーも、ロム・アルメを意識した、と言う確証などありません。
 種明かしをすると、対位法に適したテーマをつくると、どうしても山型音型になってしまう、
(重ねたり、逆さにしたり、延ばしたり、縮めたりするのに最もわかりやすい)
ということですが、それではいかにも夢がないので。)


 このようにミサ「ロム・アルメ」は貴重な作品ですが、デュファイのミサを初めて聴こうという方には、少し難しいかも。
 チャレンジしようとしていることが、多すぎるのです。

 「ス・ラ・ファセ・パル」の方が少し聴きやすいかもしれません。
 定旋律も美しいですし。(自作の大ヒットシャンソン)
 そして、「アヴェ・レジナ・チェロールム」は、最後に到達した、突き抜けた世界です。
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