ちょっと、ウンチクのページ・パート2~ムジカ・ポエティカ?

 時々コメントをいただくたこすけさんのブログにて、
 バッハの「音型論」について、参考となる本等をリストアップする約束をさせていただいたので、かんたんにまとめておきます。


 たこすけさんが文中で、「音型論」と書いてらっしゃる、
 音型やフレーズ、リズム、型式などの音楽の諸要素が、何らかの特定のことがらをあらわす、
 と、いう考え方は、
 実は、「ムジカポエティカ」(音楽言語、あるいは修辞学)という概念です。


 古くは、A.シュバイツァーが、その著書、「バッハ」の中で、
 さまざまな音型に、きわめて直感的な意味付けを行なっているのがよく知られています。
(この翻訳本は、よく図書館などにあります。杉山好ほか訳、白水社刊、上中下3冊) 

 その後、A.シェーリング、A.シュミッツ等の研究によって、
 バロック音楽の統合者、バッハが、
 実は、(当然ではありますが)バロック時代に支配的だった「ムジカ・ポエティカ」の概念の統合者でもあった、
 と、いうことが、実証され、
 実際にカンタータを始めとする宗教曲、さらには器楽曲全般において、
 バッハが使用した音楽言語の数々が、体系的に整理されるにいたりました。

 これによると、器楽曲も、ある意味宗教的側面を有することになり、
 バッハにおいては、宗教曲と器楽曲の垣根が無い、というのは、この点からも言えることなのです。


 シェーリングの研究そのものを、実際に読むのはたいへんですが、
 磯山雅先生の著書、「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」(東京書籍)の中に、ポイントをとてもわかりやすくまとめてくださっている部分があります。
(第Ⅶ章 音楽による修辞学)

 また、樋口隆一先生は、著書「バッハ カンタータ研究」(音楽の友社)の中で、
 特に独立した章を設けて、
 シュバイツァーやシェーリングの論旨を、具体例とともに紹介してくださってます。 
(第6章 詩と音楽)

 さらに、その後、音楽の表象は、楽譜を構成する数学的要素や、図形的要素にまで及んでいる、という説が、次々と発表されて、
 その究極の例としては、L.プラウチェの「フーガの技法」論が有名です。
 これについても、磯山先生が、著書「J.S.バッハ」(講談社現代新書)の中で、
 極論かもしれないが決して無視できないもの、という前提で、ご紹介してくださってます。
(6 数と象徴)

 以上、書籍は、比較的有名で、入手しやすいものだけあげました。
 従って、もしかしたら、ごらんになったものばかりかもしれませんが、一応、ご参考までに、と、いうことで。


 さて、先日、NEC古楽レクチャーに行ったことは、すでに書きました
 その時に、過去のレクチャーの内容をまとめた小冊子をいただいたのですが、
 その中に、上記に関することで、とてもおもしろいものがありました。

 NEC EARLY MUSIC LECTURE VOL.21
 「青少年のためのバッハ入門 2」 ~2時間でわかる! インヴェンション解体講座~

 と、いうものです。

 この資料では、
 「ムジカポエティカ」の概念をひととおり俯瞰した上で、
 あの「インヴェンション」が、
 音楽的な楽想を十分に展開するための手引きだけにとどまらず、
 その楽想が本来持っている特定のアフェクト(=内容、または情念)をきちんと表現、展開するための手引きなのだ、
 ということを、具体例をあげてくわしく解説しています。

 インヴェンション、と、いうと、ピアノの練習曲、のイメージが強かったため、これはたいへん興味深かったのですが、
 と、なると、ほとんど同時期にまとめられた、無伴奏チェロ組曲、などについても、
 当然、同様なことが言える、と考えて良いわけです。

 従って、上にあげた各資料の内容を把握した上で、無伴奏などにあてはめてみると、とてもおもしろいのではないでしょうか。

 なお、古楽レクチャーのレポートについては、バックナンバーを無料で進呈してくださるようで、
 次のページの中ほどに、問い合わせ先が書いてあります。

 こちら(NECのHP)


 「ムジカポエティカ」については、
 わたしとしても、とても興味があり、
 それも含めた様々な表象関係をまとまたり、また、自分でも新たな表象や符号を探したりして、一人喜んでいます。
 バッハの膨大な作品は、それが意図されたものか否かは別にして、
 探せば探すほど次から次へと暗号のようなものが見つかり、へたなミステリよりもおもしろいくらいです。


 でも、わたしの個人的な考えとしては、
 このような表象関係等は、知っていれば、まあ、それはそれで面白いのですが、
 音楽鑑賞という側面からすると、必ずしも必要ない、というか、むしろじゃまになることもあるのでは、とも思います。

 しかしながら、演奏という側面からすると、
 バッハが、一部の音型に特定の意味をも持たせているのは、ある程度まちがいのないことではあるので、
(それを演奏に生かすかどうかは別にして)
 最低限の表象については、把握しておいた方がいいのでは、とも思います。

 ただ、これは、とてもデリケートな問題で、
 実際に演奏する方(あるいは教える方)によって考えもまちまちなので、
 自分のところで、こっそりと書かせていただきました。
 ですから、読む方も、こんなことがあるんだ、程度の気持ちで読んでくださるとうれしいです。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2007年05月21日 20:53
Noraさん、こんばんわ。
わざわざ記事をまとめていただいたようで本当にありがとうございます。

紹介していただいたもので読んだことがあったのは磯山先生の本のみでした。その他の本、ゆっくり読んでいきたいと思います。
早速シュバイツァーの本は図書館で手に入れました。

「ムジカポエティカ」の位置づけについてはNoraさんの意見に共感します。
バッハが即興演奏の達人だったことを考えると、何らかの音型が使われる時もその前後の音やリズムの流れと切り離してそれだけを「深読み」してもダメではないかなと思います。象徴的な意味づけとともに音楽そのものの流れを大事にしている、というか・・・
上手く言葉に出来ないのですが、私はバッハに”バランス感覚”というべきものを強く感じるのですが、それをふまえてこちらもとらえる必要があると思います。

いずれにせよ、生きる楽しみがまた一つ増えました。
ありがとうございます。

2007年05月22日 09:38
 おはようございます。
 ていねいなコメントをいただき、こちらこそありがとうございます。

> 私はバッハに”バランス感覚”というべきものを強く感じるのですが、

 ほんとにおっしゃるとおりですね。これは、逆に言えば、たくさんの要素や情報がぎっしりとつまってる、ということでもあると思います。
(例えそれが無伴奏の曲でも)
 それらをすべて表現することなど不可能ですから、演奏する方はたいへんですね。何を表現するか、どのあたりにポイントを置くかを、考えなければなりません。(と、人ごとのように言う)
 だから、バッハに限っては、どんな名盤でも、完全、ということはあり得ないような気もします。
 また、演奏によって、こんなにもちがう曲のように聴こえる作曲家はいませんし、どんな演奏でも、必ず何かしら心に響く部分があります。
 わたしたち「お気楽リスナー」としては、こんなに楽しいことは無いのですが、たこすけさん側からすれば、たいへんですね。(笑)
2007年06月07日 02:09
レクチャー Vol.21 非常に興味があります。
問い合わせてみます。
ありがとうございました。
<(_ _)>
2007年06月07日 12:48
 おはようございます。いつもお世話になってます。
 レクチャーのレポートは、膨大な内容をむりやり2時間のレクチャーにまとめたものを、さらにむりやり小冊子にまとめたものなので、なかなかわかりにくい部分もあると思います。
(わたしもいろいろ調べながらでないと、ちょっと理解不可能でした)
 でも、他のレポートの中には、バロックの演奏家の方が講演したものなど、Papalinさんのお役に立ちそうなものもあったかと思いますので、せっかくですから、それらもあわせてぜひ。

 なお、この場で恐縮ですが、BWV639のテンポについて。
 わたしは演奏に関してはまったくわからないのですが、わたしにとっての標準的なテンポは、以前試聴コーナーを御紹介したヴァルヒャのオルガン版くらいでしょうか。
 今の新しい演奏は、これより若干きびきびして、早めのものが多いようです。
 逆にピアノ編曲版には、倍近いテンポのゆったりとしたものもあります。
 結局わからないので、Papalinさんの御判断におまかせするしかありません。
 その方が、お待ちする楽しみが増えるような気も。(笑)

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