お気に入りのアリア5・ロマン風マリア~マリアの訪問の祝日、三位一体節後第4日曜(BWV10、24他)

 またまた、祝祭日が重なります。

 ちょっとあわただしいですが、がんばっていきます。



▽ スルバランの「無原罪の御宿り」。
  わたしの一番好きなマリアの絵。ムリーリョに大きな影響を与えた。
  背景にやしの木や帆船が見られます。

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 まず、今日、7月1日(日)が、三位一体節後第4日曜。

 カンタータは、
 初期のBWV185と、第1年巻のBWV24
 第2年巻のコラールカンタータはありませんが、
 後年補完したコラール・テキスト・カンタータの名品、BWV177があります。


 さらに明日、7月2日(月)は、お待ちかね、マリアのエリサベト訪問の祝日でもあります。

 カンタータは、何といっても、みなさんお待ちかね、

 名コラール、「主よ、人の望みの喜びよ」で知られる
 BWV147 「心と口と行いと生きざま」ですが、
 (ヴァイマールからライプツィヒにかけて作曲)

 第2年巻、コラールカンタータの名作中の名作、

 BWV10 「我が心は主をあがめ」も、忘れてはなりません。

 コラールカンタータ年巻開始を高らかに宣言した4曲に続いて、バッハはいきなり、コラールカンタータの最高峰とも言うべき傑作を書いたことになります。

 ・・・・でも、まあ、いいです。
 わたしの言うことなど気にせずに、みなさん、BWV147を心ゆくまでお楽しみください。(笑)

 なお、BWV147BWV10ともに、これまで何度も記事にしてきました。
 BWV147は、これこれこれBWV10これ、など。
 詳細はそちらをご参照ください。



 マリアの画家と言えば、スペインのムリーリョ。
 「無原罪の御宿り」は何度ものせましたので、今日はその他のマリアの絵を。

▽ 「ロザリオの聖母子」

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 BWV10は、決してハデな曲ではないですが、
 聴けば聴くほど心にしみてくるような、真の名曲だと思います。

 洗礼者ヨハネを宿しているエリザベトを訪問したマリアが、感動とともに口にした賛歌、
 マニフィカト、
 そのドイツ語版を、そのまま歌詞にするこの曲は、より、この祝日にふさわしいものです。

 そして何よりも、そんなマリアの心の祈りが、どれだけすばらしい音楽で飾られていることか!


 シュープラーコラール集で知られる第5曲のコラール付デュエットもよいですが、やはり聴きどころは、第2曲のソプラノアリア。

 このアリアも、もちろんこれまでくりかえし登場させてきましたが、
 やはり、わたしにとっては特別な曲なので、あらためて、「お気に入りのアリア」としてのご紹介、と、いうことにさせていただきたいと思います。

 とにかく、
 すべての運命をいさぎよく受け入れて、風の中に凛として立っているような、毅然した感じが、とても好きです。

 まだ聴いたことのない方は、とにかく一度聴いてみてください。
 ほんとうに、この曲には、どれだけ勇気づけられたかわかりません。



▽ 「聖家族」

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 このBWV10のソプラノアリアも、名曲だけに、名演に恵まれています。

 このアリアに関しても、以前聴き比べをしました。

 わたしは、演奏の感想を文章にするのが苦手なので、
(その時に聴いている演奏がとてもよく聴こえてしまい、どれもよく書いてしまう)
 また、演奏時間の比較から。


 コープマン・・・・・5:24
 BCJ..・・・・・・・・6:06
 リリング・・・・・・・6:46
 リヒター・・・・・・・7:02
 ロッチュ・・・・・・・7:12
 レオンハルト.・・・7:30
 ヴェルナー・・・・・8:05


 ただし、この曲に関しては、
 テンポによって、曲の根幹的な部分にかかわる印象が変化することは無いようですね。


 この聴き比べで、あらためて気に入った(すっかり見直してしまった)のは、一番短いコープマンと一番長いヴェルナーでしたが、どちらからも、わたしがこの曲に求める、凛とした美しさが、きちんと伝わってきました。

 特にヴェルナーは、ゆったりとしたテンポで、すべての声部をくっきりと描ききり、バッハの書いた音符がストレートに伝わってきて、すばらしいと感じました。

 ロッチュは、演奏時間は長めですが、弾むようなリズムが鮮やかで、むしろコープマンやBCJなど、新しい古楽器演奏に近いものを感じさせます。
 ロッチェは後期になればなるほど、演奏に古楽の方法論をうまく取り入れ、それを自分自身の個性として確立させた人なので、その結果なのかもしれません。

 ちなみに、わたしがいつも聴いてるのは、レオンハルト盤。
 演奏はもちろん、立派の一言。
 少年の歌唱も、ひたむきな感じが、それなりに良いのですが、やはりこの曲の場合は、女声の方があってるかも。


 そして、この曲の最高の演奏。
 それは、リリングとリヒターの、対極的な演奏だと思います。

 このアリアは、あの復活節の舞曲アリア、BWV134のデュエットに似てるところがあるので、リリング盤が悪いはずありません。
 リリングの演奏は、心をこめて楽譜にある音を鳴らしきった、相変わらず誠実極まりないもの。
 その伴奏に乗って、アイリーン・オジェーが美しくもひたむきな歌を聴かせ、そのすべてがひしひしと胸に迫ってきます。
 リリングもすごいですが、
 やはり、オジェーはすごい!
 オジェーの歌が思う存分聴けるというだけで、リリング全集はかけがえのない価値があります。

 それに対して、リヒターは、超弩級のロマン的演奏。
 他の誰もまねできない「リヒター節」が炸裂!
 天馬空を行くような、分厚い弦のオブリガートが迫力。

 そして、エディット・マティスの歌も、まるで大天使のような威厳にあふれています。

 リリング=オジェーの自然体に対して、
 リヒター=マティスのロマンティシズムということになりますが、
 わたしにとっては、どちらも無くてはならない演奏です。



▽ 「受胎告知」
  ちがう祝日ですが。

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 冒頭ご紹介した、三位一体節後第四日曜日用のカンタータ、
 BWV24の冒頭アリアも、すばらしいアリアですので、
 ここであわせてご紹介しておきましょう。
 この曲にも、ちょうど、リヒターならではのたいへんな名演がありますし。

 BWV24 「まじりけなき心」

 ライプツィヒデビューにあたって、気合入りまくりで超大作を連続して書き上げた後、ふっと力を抜いて、心のありのままを映しだしたかのような、小規模ながら真摯な、心にしみわたる名品です。

 それを象徴するかのような、
 冒頭のやさしいやさしいアルト・アリア。

 このアリアのテーマは、かつて、ケーテン時代、亡き妻・バルバラを偲んで書いたとされる曲のうちの1曲、Vnソナタ BWV1014の短調のテーマを、
 やわらかな長調に移調したものと言われています。
(まあ、ホントかどうかはわかりません。
 ただ、第1年巻には、パロディとまではいかなくても、ケーテンの器楽曲と同様のモチーフを持つものが多いのは、事実です)



 このアリアについても聴きくらべたので、書いておきましょう。
 圧巻は、先ほど書いたように、リヒター盤。
 演奏時間はズラズラ書いてもしつこいので、ポイントになるものだけ。


 BCJが3:02、
 コープマンが3:18、
 アーノンクールが3:34、
 それらに対して、
 リヒターが5:00!
 なんと、BCJの倍近く、
 短い曲でこれだけちがう、というのは、これはもう、まったくちがう、ということです。

 この曲の場合は、もう完全に、ちがうイメージの曲としてとらえているんでしょうね。


 このアリアの冒頭は、BCJやコープマンの、踊るようなリズムの演奏に親しんでいたので、初めてリヒターを聴いた時はショックでした。
 悠々とした、すべてを包み込むかのようなストリングス。
 大きな大きな、何物にも負けないやさしさ。


 さて、このようなスケールの大きな表現は、リヒターの独壇場でもあるのですが、
 実は、この聴き比べで、
 古いトマス・カントルのラミン盤を聴いてみて、びっくり。
 5:46!
 リヒターよりも、さらにゆっくり。滔々と歌わせているのです。

 このような表現が、トマスカントルの伝統の中にすでに存在していたのだと、初めて知りました。
 もしかしたら、リヒターの他の名演についても、そのルーツは、案外このあたりにあるのかもしれません。

 わたしは、リヒターの芸術は、
 トマスカントルの伝統に、後年リターが親しく接していた、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュら、巨匠指揮者の直接の影響が混ざり合ったもの、と、考えてきたのですが、
 その確信がさらに強まりました。

 リヒター自身、最も自分が影響を受けた音楽家として、この二人の名をあげていますが、一方、おもしろいことに、フルトヴェングラーも、バッハ演奏において、自分が最も影響を受けたのは、ラミンのさらに前のトマスカントル、カール・シュトラウベだと断言しています。

 このあたりは、実は密接に結びついていて、実はそのすべてが、カール・リヒターという天才に集約されて、ここにあげたような名演の数々が誕生したわけですね。



 おしまいに、
 これも冒頭ご紹介した、三位一体節後第四日曜日用のテキスト・カンタータ、
 BWV177「我なんじに呼ばわる、主イエス・キリストよ」
 これは、中間部にすばらしいアリアが3つも連なる、後期テキスト・カンタータの典型のような名品ですが、
 その第4曲、ヴァイオリンコンチェルト風アリアも、ここにあげておきましょう。



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この記事へのコメント

2007年07月03日 01:05
Noraさん、こんばんは。

マリアの祝日に関係したカンタータは本当に名曲ぞろいですね。
「これとこれとこれ。そして、これ」みんな読み直してみました。
そのどれにもNoraさんの熱い思いが美しい文章で語られていて、再度堪能いたしました。
読んだだけで満足していてはいけませんので。これからBWV10番を聞こうかとCDを用意したところです。ブリリアントのバッハ全集ですが。
Noraさんの紹介を読んでいると、「あれもこれも」聴きたくなってしまいます。

スルバラン、私も好きな画家です。
特にこの「無原罪の御宿り」はその非現実的な背景が、夢見るように不思議な浮遊感と時間感覚が感じられる作品ですね。
余計なおせっかい、とも考えたのですが、この作品は背景が大事!と
思いましたので、URLを添付いたしました。
多分こちらですと背景に描かれている風景はより鮮明に、マリアもより神秘的に見えるのではないかと・・・
2007年07月03日 13:35
 aostaさん。こんにちは。

> 読んだだけで満足していてはいけませんので。

 ほんとにそうです!(少しきびしく)
 ぜひ実際に、聴いてみてくださいね。
(できれば、他の曲、BWV13なんかも)
 そして、感想等、また、なんでも聞かせてくださるとうれしいです。
 aostaさんやみなさんのコメントや記事が、どんなに参考になっていることか!
 実際、わたしは、BWV147などの有名曲はなるべく後回しにするつもりだったのです。
 でも、今回、見直してみたら、ずいぶんBWV147の記事がある。
 けっこう書いてるんだな、と思って、わたしも読み返してみたら、
 そのほとんどが、aostaさんに「インスパイア」されて書かせていただいたものでした。(笑)
2007年07月03日 13:49
> URLを添付いたしました。

 ありがとうございます!とてもうれしいです。

 それにしても、ちがうものですね。
 aostaさんからいただいた絵だと、やわらかなオレンジの雲の濃淡などもきれいにでてます。
 そもそも、色自体、まったくちがっちゃってますね。(笑)

 わたしは、たいてい、展覧会で買った目録をスキャンしてるのですが、
 目録がすでに本物とは異なる上に、わたしのボロ機械でスキャンするので、さらに大きく異なってしまうのでしょう。

 さっそく入れ替えさせていただこうと思ったんですが、
 これ、どなたかのホームページなんでしょうね・・・・。
2007年07月03日 22:52
こんばんは。

>さっそく入れ替えさせていただこうと思ったんですが、
 これ、どなたかのホームページなんでしょうね・・・・。

はい。私が良くお邪魔しているHPからお借りしてきた物です。
以下の文章をお読みいただければ、安心して入れ替えていただけると思います。

<画像についてのドリアンさんの一問一答>

他のホームページで紹介している、著作権切れの絵画の画像を、無断でダウンロードして、使用できます。なぜでしょうか。
回答
この場合も、上記と同様で、いかに、スキャナーで取り込む労力があろうとも、なんの権利も発生しません。「創作性がない」との判断です。

ですから、たとえば、ドリアンのサイトから、誰かが勝手に、絵画の画像をダウンロードして使用しても、ドリアンには何も言う権利はありません。逆もしかりです。

2007年07月03日 22:55
ドリアンさんは著作権についてもしっかりした認識をおもちです。
間違いのない、そしてとても魅力的なサイトです。よろしければNoraさんも一度のぞいて見てください。
2007年07月04日 00:02
 aostaさん、ありがとうございます。
 さっそく替えちゃいました。

 オレンジの雲がとても美しく見えます。
 なんて、やさしい雲なんでしょう・・・・!(涙)

 ドリアンさんのサイト、すごいですね。
 見ているだけで、楽しそう。
 これで、スキャンする手間が省けるような気がします♪
2008年09月23日 18:33
こんばんわ。
今回、シュープラーコラール集のBWV648を録音したのですが、当然BWV10番にもふれるわけで、そうなると当然こちらの記事もリンクはらなくてはいけなくなる(笑)ので、すいませんがリンクをはらせていただきました。さしつかえあればおっしゃってください。
自分の記事の内容の薄さをカバーしてもらっているみたいで、いつもすいません。
2008年09月24日 22:11
 こんばんは。
 さっそくこちらからもリンクさせていただきました。
 あのページも、だんだんとコラール図鑑みたいになってきて、とってもうれしいです。
 それにしても、この曲、いいですね。原曲のBWV10も最高です。
2008年09月27日 06:46
こんにちは。
休日の朝に、BWV10をCD棚から取り出して改めて聴いてみました。本当に良い曲ですね。
我が家にはロッチェ盤しか有りませんが満足しています。上手い下手はともかくも、この曲に限らず私はトーマス教会の少年合唱で聴くのがたまらなく好きなのです。
聞き比べなんてのもやってみたいとは思いますが、カンタータの場合は相当根性が必要ですからね。
2008年09月27日 21:37
 ハルくんさん、休日の朝のカンタータ、いいですね。
 BWV10、わたしは、特にソプラノの長いアリアが大好きです。
 ロッチュ始め、歴代トマスカントルは、それぞれ異なる個性を持ちながら、やはり伝統の筋が一本通っていて、最高、別格だと思います。
 フルトヴェングラーなども、カール・シュトラウベ(リヒターの先生)には一目おいていて、とても仲がよかったそうで、「マタイ」などの演奏に際してはシュトラウベからいろいろなことを学んだ、と、手記に書いていますね。
2008年09月28日 00:38
ギュンター・ラミンになるとスタイルの古さを感じますが、クルト・トーマス、マウエルス・ベルガー、ロッチェ、ビラーみな素晴らしいと思います。リヒターも感動的という点では最高ですね。彼はシュトラウベやラミンのロマンチックなスタイルをあの時代にリフレッシュさせた気がします。
2008年09月28日 12:54
 ハルくんさん、どうも。
 ラミンも、確かに古くてしかも荒削りですが、じっくり聴くと、意外といいですよ。迫力ありますし。
 ここの本文にも書きましたが、リヒターとラミン、BWV24などを聴き比べると、とてもよく似ています。
 若い頃、斬新な表現を打ち立てたリヒターですが、晩年、ラミンなどのロマン的な表現に還っていったことはまちがいなく、リヒターの晩年は、いろいろ言われてますが、わたしはとても好きだったりします。

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