ヴァイオリン協奏曲聴き比べ~バッハとシベリウス、諏訪内晶子とバティアシュヴィリ

 レントなので、ハイドンやシューマンなどのことも書きたいと思っているのですが、
 この頃、いくらなんでもバッハの記事が少なすぎるので、今回はとりあえずバッハにも関係した話題を。
 ちょっと軽目ですが。



 いくつか冬のバッハにまつまるコメントをいただいたせいか、この冬は、めずらしくバッハのコンチェルトをよく聴きました。
 以前も書きましたが、
 チェンバロ協奏曲第5番 BWV1056 の第2楽章・ラルゴ、(カンタータ156番でもおなじみ)
 2つのヴァイオリンのための協奏曲 BWV1043 の第2楽章・ラルゴ、  
 ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 BWV1060a の第2楽章・アダージョ、など、
 どれもみな、雪景色にピッタリの音楽だと思います。
 「ソリすべり」だとか、「雪の暖炉(またはコタツ)」だとか、そういうニックネームをつけたいくらい。


 バッハのコンチェルトの名盤はそれこそ星の数ほどありますが、
 わたしが個人的に気に入っていて、この冬もよくかけたのは、
 諏訪内晶子さんが弾き振りをした、ヨーロッパ室内管弦楽団の伴奏のCDです。(フィリップス)

 諏訪内さんは、第1回目(3年前)のラ・フォル・ジュルネで、ベートーヴェンのコンチェルトを聴き、その身震いするほど美しく、しかも格調の高いVnの音色に魅せられ、すっかりファンになりました。

 このCDの演奏は、最新の古楽演奏のように鮮烈でもなく、決してものすごい名演、というわけでもありません。
 ただただ誠実に弾き切った演奏です。とびっきりの美しい音色は、もちろんここでも聴くことができますが、時には音がかすれたり、ふるえたりするほど、一音一音に気持ちをこめたていねいな演奏。

 わたしはバッハのコンチェルトなどは、息を飲むような超名演、というよりも、このような演奏の方が好きなのかもしれません。


 このCDには、上にもあげた、
 ヴァイオリンとオーボエのための協奏曲 BWV1060a も収録されています。
 2つのVnのための協奏曲と並ぶ名曲ですね。
 オーボエは、フランスの名手(現在はドイツで活躍)、フランソワ・ルルーが担当していて、もちろん見事な演奏です。
 諏訪内さんとの息もなかなか。


 ところで、このVnとObのための協奏曲についてですが、
 実は、Obがルルー、オケがヨーロッパ室内OというCDが、この他に、もう1枚存在しています。

 こちらは、ルルーがメインのオーボエ協奏曲集
 ルルーが、やはり同じヨーロッパ室内Oを弾き振りしているのです。(ソニー・クラシカル)

 このCDにも、VnとObのための協奏曲が収録されているわけですが、
 こちらでは逆に、Vnの方のゲストが必要になるわけですね。

 ここでVnを担当しているのは、もちろん諏訪内さんではなくて、
 リサ・バティアシュヴィリ(バティアシヴィリ?)さんという女流ヴァイオリニストです。

 この人は、ルルーの奥さんなので、夫婦共演ということになりますが、これがまた、ため息がでてしまうくらい、すばらしい演奏なのです。
 こちらも、モダンオケによるごくごくあたりまえの演奏ですが、じっくりとかみしめるような諏訪内さんと比べて、まるで風や水の流れを思わせる、さらさらと流れるような自然な演奏。
 この1曲だけで、このヴァイオリニストがただものでないことがわかります。
 夫婦共演ということもあるのでしょう。当然息はぴったり。
 まるで、カンタータの最高のデュエットの、最高の演奏を聴く感じ。


 つまり、この以上の2枚のCDで、
 同じ曲、同じ共演者、同じオケというほとんど同条件で、
(厳密には、版、調性等異なりますが、ここではくわしくかきません)
 諏訪内さんとバティアシュヴィリさんのぜいたくな聴きくらべができるわけですが、
 この勝負、とりあえずは、バティアシュヴィリさんが一歩リード、という感じでしょうか。
 まあ、夫婦共演というとてつもなく有利な要素がはあるので、諏訪内さんにはハンデがあるわけですが。

(わたしは、クラシック音楽界の事情に疎く、最近の状況をあまり知りませんので、見当はずれのことを書いていたら、ごめんなさい。
 以前、プレヴィンとムターの話もありましたし。
 まあ、上のバッハを録音した時点では、まちがいなく夫婦だったようです)

 いずれにしても、このCDのたった1曲の演奏によって、バティアシュヴィリ、という名前は、わたしの脳裏に刻み込まれました。



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 さて、少し前にシベリウスのシンフォニーの記事を書きましたが、
 シベリウスで、シンフォニーに次ぐ名曲として、真っ先にあげなくてはならないのは、やはり、あの、ヴァイオリン協奏曲でしょう。

 シベリウスのVn協奏曲の名盤としては、わたしは、こちらの方は、極めつきの最高の名盤として、自信を持って諏訪内さんのCDをあげたいと思います。

 それこそ北欧の風のように澄み切ったVnの音色、研ぎ澄まされた表現、その身のすべてを捧げてしまったかのような曲への献身、何もかもがすばらしい。

 そして、このCD、すばらしいのは諏訪内さんだけではありません。
 伴奏が、ずば抜けている。
 諏訪内さんの演奏をやさしく包み込むような伴奏。

 サカリ・オラモ指揮、バーミンガム市交響楽団。

 オラモはあまり目立たない指揮者ですが、正統的、筋金入り「北欧トーン」を奏でることができる数少ない一人。
 その演奏は、限りなく透明ながら、どことなく、素朴さや滋味を感じさせ、わたしの大好きな指揮者です。

 すでに、イギリスのバーミンガム市交響楽団を指揮した全集があり、これもすばらしい全集なのですが、最近は、音楽監督に就任したフィンランド放送交響楽団を演奏した新譜もリリースされ始めて、期待が高まっているところです。
 これまでの演奏に、さらに厳しい面、激しい面も加わり、その芸術は更なる進化を遂げているとのこと。

 オラモ、このように、交響曲や交響詩もいいのですが、特にコンチェルトの伴奏などをさせたら、それこそ右に出る者はいない、と言えるのではないでしょうか。

 このCDにおけるオラモの存在は、果てしなく重要です。


 そして、なんと・・・・、!

 他ならぬこのオラモ指揮の伴奏で、バティアシュヴィリさんがヴァイオリンを弾いた、シベリウス・ヴァイオリン協奏曲のCDが存在するのです。
(ソニークラシカル)

 オケは、こちらはフィンランド交響楽団で異なるものの、
 こうなると、まるで、諏訪内さんと張り合ってるかのよう。
 またも、同条件による真っ向対決です。
 偶然でしょうけれど。


 このCD、残念ながら、まだ聴けていません。

 大好きなオラモが指揮。しかもバティアシュヴィリさんの大曲、ということで、
 今年に入って早速注文したのですが、まだ入荷していないのです。
 昨年末にすでにリリース済みのはずなのですが。
 ソニークラシカルの新譜、ということで、すぐ聴けると思ったのですが、
 どうやらドイツ国内限定リリースのようで、経路とか、いろいろややこしいみたい。

 バティアシュヴィリさんは、まだ日本ではそれほど知られてなくて、未知数なところが多いのですが、
 バッハの名演が耳に焼き付いていますし、しかも、オラモさんの最新盤。
 否が応にも期待が高まります。
 
 諏訪内さんのあの演奏を超えるのは、並大抵のことではないと思いますが、
 グルジア出身のバティアシヴィリさんの孤高の血が炸裂するか。
 果たして、どうなることか。

 また、結果は別途書きたいと思います。
         


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この記事へのコメント

2008年02月24日 22:07
こんにちは。
諏訪内晶子さんのシベリウスはまさに「完璧で端正」な演奏ですね。
一音たりともおろそかにすることなく、心を込めて弾いています。
型破りな表現とか、あふれる情熱を期待するとちょっと肩透かしですが、
演奏者の個性を必要以上に表面に出さず、
「音楽自身に語らせる」ことを心がけておられるのでしょうか。
もちろんバックのオラモ/バーミンガムも素晴らしいと思います。
Nacky
2008年02月24日 23:16
Noraさま
こんばんは。
私もチェンバロ第5番と2つのヴァイオリン、そしてヴァイオリンとオーボエのための協奏曲の第2楽章に共通して惹かれるものを感じていました。そもそも、バッハには器楽曲、しかもチュンバロ第5番の第3楽章から入門したものですから、他の器楽の独奏曲やソナタ等に入る前にひたすらこれらの協奏曲を聴いていました。
最初に手にしたレコードは、それぞれキプニス、アーノンクール、そしてレーデルでした。
諏訪内晶子さんにも惹かれますね。。。
2008年02月25日 20:34
 木曽のあばら屋さん、こんばんは。
 わたしも、諏訪内さんの一番の魅力は、常にもとの音楽を大切に、ものすごく丁寧に弾いていることではないか、と思います。
 バッハのコンチェルトなど、あまりじっくりと弾いているので、ちょっと聴くと技術的にはそれほどでもないのかな、と思えてしまいますが、シベリウスのCD等を聴いてみると、それがとんでもないまちがいだということがわかります。
 いずれにしても、今後がとても楽しみな人ですね。
2008年02月25日 20:46
 Nackyさん、こんばんは。

> 最初に手にしたレコードは、それぞれキプニス、アーノンクール、そしてレーデルでした。

 さすがNackyさん、はじめから、じつにバラエティ豊かで、幅広いですね。
 キプニスやレーデル、なつかしいですね。特にレーデルは、ブランデンブルクやフーガの技法などよく聴きました。
 これらのコンチェルトは、古楽でもモダン楽器でも、新しい演奏でも古い演奏でも、チェンバロ版でも復元版でも、いつ何を聴いても、心に響いてくる気がします。
 もういいかげん聴きなれた気がしてたのですが、今回、改めて聴いたら、また引き込まれてしまった。
S君
2008年02月27日 14:59
こんにちはNoraさん。僕の方は事務所の引っ越しで大忙しです。腰が痛いです。

さて、諏訪内さんのバッハ、良いですねー。Noraさんの記事に触発されて、このところは通勤中にMDで聴いていました。諏訪内さんの音は透明で混じり気がありません。まるで彼女の美しい瞳のようです。そこに、ひたむきで心が震えるようなヴィブラートが付けられるので、とても魅力的ですね。

驚いたのはドッペルコンチェルト第3楽章のカデンツです。今までこの曲では聴いたことのないような長くて立派なカデンツが付いています。カデンツの内容もバロックを超えて、ちょっとロマンティックな雰囲気が漂っています。聴いていると不思議な空間にワープしそうです。

最近のモダン奏者のバッハ演奏と言えば、学問的にも問題がないようにという配慮か、こじんまりと萎縮しかかったような演奏が多い中、諏訪内さんのチャレンジ精神は大いに心強いです。
S君
2008年02月27日 15:09
シベリウスのヴァイオリン協奏曲、昔はクレーメルで愛聴していましたが、今度、カヴァコス/ヴァンスカのオリジナル版を借りるつもりです。楽しみです。そのうち、諏訪内さんのも聴きたいと思っています。

シベリウスといえば、3番についてはアシュケナージ、フィルハーモニア盤が昔から一番好きでした。今回も聴き直して、最初の短調に転調する前のトランペットの強奏からして、脳天にジーンとしみこむようなインパクトがあります。アシュケナージの3番は最初から最後まで感性が納得し、とことん共感できる演奏です。

ただし最近聴いたエーリンクの3番を聴いて驚きました!非常にアシュケナージと似た解釈だったのです。録音年から言って、これはアシュケナージが勉強したということでしょうね。とはいえ、もちろんアシュケナージ盤の価値には何ら変わりありません。
S君
2008年02月27日 15:20
ヴァンスカとオラモ、それにヤルヴィ(エーテボリ)を聞き比べました。僕はフィンランドの指揮者といえばベルグルンドくらいしか聴いていませんでしたが、いやはや北欧の指揮者(あるいはオケ)の演奏はここ15年くらいで凄いことになっているんですね。

ヴァンスカは精密でみずみずしい音楽を造りますね。細部の仕上げが美しくしかもスケール感が大きい。雄大でクリアなパノラマ写真を見るようです。

オラモは精密であるより全体の溶け合いを大事にしていますね。そして音楽の流れがより自然で推進力があり、リズム感が抜群に良い。特にこれといって大げさなことはしていないのに聴いた後で充実感があります。

ヤルヴィはちょっと前の演奏ですが、深い演奏ですねー。こちらは前2者よりさらに音楽的なスケールが大きいです。グーッと一本太い筋が通ったような演奏です。

あとサラステも聴きましたが、これは流動的で一筆書きのような天才肌の演奏ですね。セーゲルスタムはまだ未聴ですが北欧系の演奏、もっともっと聞いてみたいです。
2008年02月28日 15:42
 おー、ついに引越しですか。腰にはくれぐれも気をつけてください。
 新しい図書館、掘り出し物があるといいですね。

> 北欧の指揮者(あるいはオケ)の演奏はここ15年くらいで凄いことになっているんですね。

 どうです、すごいでしょう。(笑)
 実演はもっとすごいですよ。
 以前は、ベルグルンドぐらいしかCDも無かったので、今でもベルグルンドは別格みたいに言われてますが、今では他のみなさんも、十分同じレヴェルに達してるような気がします。
 ただ、わたしはベルグルンドは実演を聴いたことがなく、もし聴いたら、いっぺんでまいってしまうかも。

 渡邉さんとアシュケナージが気になる、と書きましたが、わたしがちょっと聴いて、いいな、と思ったのは、渡邉さんはヘルシンキ・フィルとのライブ盤、アシュケナージはロイヤル・ストックホルム・フィルとの新全集盤です。
 機会があったら、ぜひS君さんの耳でも確認してみてください。
2008年02月28日 15:53
 アシュケナージ、平均律ですっかり見直しましたが、指揮者としても、なかなかかもしれませんね。
 アシュケナージとエールリンクの関係は、興味深いです。

 それにしても、エールリンクとは、またすごいところに行きましたね。
 わたしは、今度カヤヌスを聴いてみようかと思ってます。
 昔、LPを聴いたような気がしますが、忘れてしまった。

 ところで、シベリウスのVn協奏曲と言えば、ヒラリー・ハーン&サロネンの新譜(DG)がショップに並んでいます。
 バティアシュヴィリ&オラモなんかとちがって、ほっておいても注目を集めるでしょうから、特に何も書きませんでした。
 Vn協奏曲ばっかり聴いてもしかたないので、わたしはとりあえず保留にしますが、S君さん、試しにどうですか?(と、人に聴かそうとする)
 確かハーンちゃんは、この前、バッハの協奏曲集もリリースしましたね。
2008年03月01日 11:57
こんにちは。なかなか更新ができない自分のブログですが、バッハの「マタイ」新譜を手に入れましたので(まだ聞きとおしていませんが)、この記事にトラックバックさせていただきました。何かの参考になりましたら幸いです。
2008年03月01日 16:04
 子守男さん、いつもどうも。
 今回も、貴重な情報&トラックバック、ありがとうございます。
 マタイのOVPPは、マクリーシュのものがすばらしかったので、とても気になります。1942年版、というのも、それほど大きな違いは無いはずですが、これも大いに気になります。
 おかげ様で、今年はひさしぶりに、マタイを聴いてみようか、とちょっとだけ思い始めました。あまり長すぎてなかなか聴く決心がつかないのです。

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