ふたつの薬師寺展~お気に入りの仏像・特別編 + 満開のユリノキ、ねむの木の庭

 何度も書きましたが、奈良で一番見たいのは、復元が完成した薬師寺の大伽藍です。

 ただ、春に奈良に行った時は、ちょうど入れ違いで薬師寺の日光・月光菩薩が東京に行った直後で、
 せっかく見るのなら、伽藍内に仏像もすべてそろった、より「完全なる姿」を見たいと思い、今回はあえて薬師寺には行きませんでした。

 それで、せっかく東京に来てくれているのだから、と、今回、薬師寺展に行ってまいりました。



 国宝 薬師寺展 at 東京国立博物館・平成館 ~6月8日(日)まで



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 わたしにとって、何よりもうれしかったのは、薬師寺で最も愛する仏像、

 聖観音菩薩立像

 までが、いっしょに来てくれた、ということです。


 会場にはいって、二つ目の部屋の最奥に、聖観音菩薩は立っていました。


 このような展覧会などで、次元を超えた作品があると、そちらの方から強烈な風みたいなものが吹いてくるように感じることがあります。そのあたりがぼーっと光っているような気がする。
 そして、ふらふらとその作品の前に立つと、あまりの感動に、立っていられないほどのめまいを感じる。

 これまで、
 ルソーの「夢」「滝」
 カンディンスキーの「空色」、(なんと3度も登場、こちらこちらこちら))
 フリードリヒの「バルト海の眺め」、(どこに貼ったか発見できず)
 などなど、そうしたことは何度もありましたが、

 この聖観音像も、正に、同じような体験をしました。しかも、とびっきり強烈な。


 この聖観音像、とにかく美しい。
 大きさは、それほどでもなく、だいたい等身大(かなり長身の男性くらい)でしょうか。

 薬師寺の諸仏の中では、最も凛々しく気高い顔、
 腰をひねった形の日光・月光両菩薩と異なり、単にまっすぐ立っているだけなのに、柔らかささえ感じられるまでに美しい、極限までに均整の取れた体躯、
 その全身を、風かまたは香りのようにやさしく取り囲む、高度な幾何学模様をそのまま立体化したかのような、見事な天衣(肩から全身にたらされた帯状の布)、
 どこか人魚を連想させる、完全に左右対称に突き出たヒレ状の裾(くん=スカート状の衣)のデザイン、
 光り輝く白毫(実際に大きな石がはめこまれている)、
 全身にくまなく施された、これもまた光り輝くかのように精緻な装飾・・・・、

 そして、それらがひとつになった全身の印象は、やはり、裙の衣文や天衣の、やわらかでやさしい造形の効果もあって、咲いたばかりの清々しい花を思わせる。


 この像の制作時期については大論争があるようです。
 その古風とも言える顔立ち、上記ヒレ状の衣の裾のひろがりを始めとする様式化されたデザインなど、
 古の飛鳥仏の特徴を有しながら、装飾等の精緻さは日光・月光のそれよりもはるかに勝り、作られた時代が意外と新しいことを示しているような気がする。
 してみれば、この仏像も、以前書いた興福寺千手観音像と同じく、あらゆる様式の統合の結果誕生したものと言えるのかもしれず、そのようなモニュメンタルな風格も漂わせています。


 この飛鳥~天平仏の最高傑作とも言える像を、目の前で、あらゆる角度から、じっくりと見ることができました。



 この超絶的な像を見た後では、さすがの日光・月光両菩薩も、大づくりに感じられてしまいましたが、それでも、大きいならではの迫力に満ちた美しさは、やはり圧巻。
 しかし、両脇侍がこれだけ大きく、すさまじい存在感なのだから、本尊の薬師如来は、正に、「大仏」、だな。



 以上、3像とも、あらゆる角度から、心ゆくまで見ることができます。
 1センチくらいまで近づいて、あの奇跡的に美しく滑らかな金銅の表面にも、気の遠くなるような長い年月が刻み付けた細かい傷があるのを、見ることもできます。
 また、少し離れた高い位置から、全体を俯瞰することもできるようになっています。

 日光・月光両菩薩のちょうど間、つまり本尊の薬師如来がいつも鎮座している位置から、両菩薩をながめることもできた!
 両菩薩様、ちょっと見るとそっくりですが、こうしてようく見てみると、まったくちがうぞ。
 見れば見るほど、新しい発見がある。


 このような機会は、めったにありません。
 ほんとうに、よくぞいらしてくださった、の一言。

 わたしが行った時は、入館まで一時間弱待ち。(平日)
 入場制限をしているため、入館してしまえば、意外とゆったりと見ることができます。

 これから、期日終了に向けて、ますます混むかと思いますが、 
 まだ、行かれていない方は、
 絶対に、行くべき、だと思います。



 その他にも、

 ものすごくかわいい、休ヶ岡八幡宮の狛犬、(吽形の方が断然かわいい)
 夢のように美しい東塔の水煙(レプリカ)、
 ハートマークがモダンな三彩多嘴壺
 そして、教科書でも有名な吉祥天画像
 などなど、見所がもりだくさん。



▽ このちらしをクリックし、さらに拡大すると、裏のくわしい説明を見ることができます。
  上に書いた、聖観音菩薩立像の写真ものっていますので、ぜひご覧ください。

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▽ 特徴的な大建築、国立東京博物館本館と、満開のユリノキの巨木。
  左奥が薬師寺展の会場、平成館。閉館間際だというのに、すごい人。

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▽ 帰り道の上野の森。
  日が長くなった。

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  *    *    *



 もうひとつの 薬師寺展 at 薬師寺東京別院 ~6月8日(日)まで。上記展と同時開催。



 上記、日光・月光菩薩を含む薬師三尊像は、薬師寺の本堂でもある金堂の本尊。
 聖観音菩薩像は、復元された大伽藍とは別に、東側に建つ東院堂の本尊です。
 薬師寺には、大きな仏像では、その他、講堂の本尊、弥勒三尊像などもありますが、
 それ以外にも、実に個性的で魅力あふれる仏像がたくさん伝わっています。

 これらのほとんどは、重要文化財にも指定されている、歴史的価値もある仏像ばかりなのですが、東京、奈良、大阪など、各地の博物館に寄託されているため、たとえ薬師寺に行ったとしても見ることはできませんでした。

 それが、何と・・・・!

 今回、五反田の薬師寺東京別院で、上記「国宝 薬師寺展」に合わせて行われている、
 「もう一つの薬師寺展」
 に、それらの主要な仏像がすべて集められ、これらをいっぺんに拝観することができます。

 こちらも、まさに「めったにない機会」。

 なお、国立博物館の会場で、特別割引券をもらえます。



▽ 薬師寺東京別院入り口正面にある、東塔水煙のレプリカ。
  上野で展示されていたレプリカ(原寸大)よりも一回り小さいが、美しさはそのまま。
  両側に置かれた生け花の清々しさがぴったり。
  生け花展も開催中。各仏像の前などに、生け花が置かれている。

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 古代の金銅仏をそのまま木造にしたような、どっしりとした造型の十一面観音像(下のちらし左)、
 近づいてよく見ると、乾漆の上に残る極彩色の彩色が美しく、造像時の壮麗な姿が偲ばれる、もう一体の十一面観音像(下のちらし右)、
 完璧なまでに写実的な姿が、研ぎ澄まされたかのような美を感じさせる、弥勒菩薩像
 雲にのって、前かがみでふんわりと飛んでくるようすをあらわした姿勢がおもしろい地蔵菩薩像
 小さいながらも、いっしょうけんめいにらみを利かせている姿がかわいらしい毘沙門天像
 その他、下のパンフ表紙にうつっている3像が展示されていて、
 見応え十分。


 仏像以外にも、
 有名な大津皇子坐像
 文様の描かれた東塔の天井板
 東塔内陣の天竜八部衆塑像
 仏画
 などなど、展示物多数。

  

▽ ちらし
  左右とも、十一面観音像。(上文参照) 

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▽ パンフ表紙

  中央が、さらにもう一体の十一面観音像で、こちらは柔らかな姿が印象的。
  上の2体とほぼ同じ大きさで、堂々とした3体の十一面観音が、ずらっと並ぶ様子は壮観でした。
  右、文殊菩薩像、左、吉祥天像。ともに、小像ながら、名品。

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 五反田駅すぐそばの、池田山へ登っていく坂道。
 山、そのものだな。こりゃ。
 これを登り切って少し行ったあたりに、薬師寺東京別院がある。

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 先日読んだ NIKKEI MAGAZINE(5月号)に、

 「東京10名山」

 という記事があり、この池田山もそのうちのひとつだそう。

 考えてみれば、愛宕山、飛鳥山、おとめ山、箱根山、道灌山、志村城山、など、登ったことがある山の方が多いので、この際、東京10名山、全山制覇を目指すか。
 ほんとうの山登りは苦手ですが、これなら、何とか。



 池田山と言えば、高級住宅地。美しい洋館も多い。
 その中の、憩いの場所が、ここ。


 ねむの木の庭。(旧正田邸跡地)

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 美智子様の短歌にちなんだ植物が大切に育てられ、それらの植物を見ながら、短歌+植物の解説を読むことができる。

 浜菊、まったく咲いていませんでしたが、美しい短歌を読んで、この花は、ぜひ見てみたくなりました。

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 ブルーサルビア

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 ルピナス

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  *    *    *



 ところで、仏像ファン必携の週刊百科シリーズ、

 週刊 原寸大 日本の仏像 講談社

 が、毎週、絶賛?発行中でしたが、今週、いよいよ、最終巻が発行されます。

 昨年の今頃、第1巻 興福寺からスタートしたこのシリーズ、

 最終巻、トリをつとめるのは、もちろん、広隆寺

 当然弥勒菩薩像がメインになるとは思いますが、先日の仏像の記事で熱くご紹介した、不空羂索観音像や千手観音像なども、掲載されているのではないか、と思います。
 興味のある方は、ぜひ ご覧になってください。

 薬師寺日光・月光菩薩は、完璧なプロポーションと謳われていますが、同規模の巨像ながら、広隆寺の不空羂索観音像は、一段次元の異なる美しさをたたえていると信じています。
 もちろん、時代もちがうのですが。
 ただ、この観音様、顔だけが妙に黒いです。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2008年05月30日 16:19
Noraさんもいらっしゃったのですね。
1時間もよく待たれました。
もうひつの薬師寺展もですね。
聖観音菩薩立像素晴らしかったです。
Noraさんがすべて書いてくださったので、またあの会場にいるような気になりました。
Noraさんは音楽だけでなく、絵もお描きになるし、お寺や仏像がお好きでかなり勉強をされているのですね。
その造詣の深さに脱帽です。
そして植物でしょう。いやいや、他にも建築やアジア風の食べ物からパスタまで良くご存知だし、まだまだ一杯趣味がおありで、その上お勤めもされていらっしゃって、凄いです。私などは勤めていたときは家との往復を繰り返すだけの人生でした。
私の年になったら学者さんかもね。
これからもいろいろNoraさんに学びたいです。
2008年05月31日 20:51
 tonaさん、こんばんは。
 聖観音像、ほんとに美しかったですね。こちらはほとんどマスコミにもとりあげられないので、ついひいき目に書いてしまいましたが、日光・月光両菩薩像ももちろんすばらしくて、ほんとうに1時間待ちなどなんでもないような展覧会でした。
 仏像やお寺は音楽と同じくらい好きかもしれません。何といっても、わたしたちの国、日本が世界に誇れる文化ですから。
 それから、江戸の文化も。(笑)

 わたしは、何でも好きですが、けっこう飽きっぽくてすべて中途半端です。
 tonaさんのように、元気にどこへでも出かけて、自分の目でいろいろなものを見てきちんとした感想を持つことができたら、と思っています。

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