今月のCD~オルゲルビュッヒライン・アンサンブル盤、カラヤン&グールド共演盤+三位一体節

 今週の東京は、冬に逆戻りしてしまったかのような寒い日が続いた後、急にまた暑くなったりして、みなさん、体調など崩してないとよろしいのですが。
 世界に目を向ければ、恐ろしい災害が立て続けに起こって、一日も早い復興をただただ願うばかりです。


 今度の日曜日(5月18日)は、三位一体節。

 カンタータは、
 初期(1715年)の、BWV165
 2年目、ツィーグラー・シリーズ最終曲、BWV176
 後期(1726 or 27?)のテキスト・カンタータ(コラール・カンタータ年巻補完作)の大傑作、BWV129
 の3曲です。

 なお、BWV194はじめ、他にも何曲か、三位一体節に上演されたカンタータも多いようです。


 昨年の記事は、こちら

 BWV165BWV129などについて、多少くわしく書いていますね。


 このBWV129を始めとする「テキスト・カンタータ」は、わたしが勝手に、「カンタータの奥の院」と呼んでいるうちのひとつ、
 とてつもない傑作群です。

 つまり、
 訪れる人はあまりいないが、とても重要な場所、すばらしい場所、
 と、いうこと。

 テキスト・カンタータ、などといっても、なんのこっちゃ、と思われる方が多いと思いますので、
 ちょうど、暦の区切りですし、来週は、この「テキスト・カンタータ」について、ちょっと書いてみよう、
 などと思っています。


 と、やっかいなことを、先送りしたところで、(ほんとは間に合わなかった)
 今回は、少し早いですが、「今月のCD」シリーズ。



  *    *    *



 1、オルゲルビュッヒライン・待望のアンサンブル盤


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 オルゲルビュッヒラインへの思いのたけについては、映画「ソラリス」の思い出とともに、以前、記事に書かせていただきましたが、

 最近、カンタータの基本であるコラールに対する関心が強まり、また、たこすけさんのチェロによる、BWV610の各声部の見透しの良い演奏を聴いたりして、以前にも増して、オルゲルビュッヒラインに深く深くはまりこんでおります。

 青年バッハの魂の曲集。バッハの原点。 
 教会順にさまざまな編曲が施されたコラールが並ぶ、という意味でも、
 正に、カンタータの原型。ミニ・カンタータ集。

 聴けば聴くほど新たな発見があり、あのインヴェンションと並ぶ、汲めど尽きせぬ泉のような曲集だと思うわけですが、
 そんな中、タイムリーなことに、ちょうどわたしが熱望していたような、オルゲルビュッヒラインの超名盤が登場したので、ご紹介いたします。


 オルゲルビュッヒライン

        アンサンブル・マレ・ノストルム

          アンドレア・デ・カルロ(ディレクター&ガンバ)
          セリーヌ・シェーン(ソプラノ)
          シモン・ボーモン(ボーイ・ソプラノ)
          レオナルド・ガルシア・アラルコン(ポルタティーフ・オルガン)
          マーティン・ツェラー(バロック・チェロ)
          モニカ・パストゥルニク(アーチリュート)
          その他、大勢

        (M・A RECORDINGS)

 詳細は、こちら。  
   

 演奏者のクレジットをご覧いただければわかるように、オルガン演奏でなく、
 ヴォーカル(orポルタティーフ・オルガン)+ガンバやリュートなどによるアンサンブル編曲版です。

 CDをかけると、まず、響きのあまりの美しさに息を飲みます。
 わたしは大げさで、いつもびっくりしてるみたいですが、この美しさには、ほんとうにびっくりします。
 
 ヴォーカルやポルタティーフ・オルガン(携帯用パイプオルガン)によって、概ねゆったりとしたテンポで、清らかにコラールが奏され、ガンバやリュートのやわらかな対旋律や通奏低音が、それをやさしく包み込みます。

 オルガン演奏によるオルゲルビュッヒラインは、コラールのメロディーを知っていないと、曲の構造が把握しにくい場合があるのですが、この演奏だと、バッハが書いたあらゆる声部、あらゆる音、その奇跡的なからみあいのすべてが、まるで手に取るように伝わってきます。しかも、あふれんばかりの抒情と清冽な美をともなって。

 ライナーに、録音にあたっては、カンタータとの関連性を十分に考慮した、というようなことがかかれてますが、正に、これまで聴いたことの無い、カンタータのとびっきり魅力的な楽章を、49曲(何種類か録音している曲があるため)聴くかのよう。


 オルゲルビュッヒライン、ちょっととっつきにくい曲集ですが、その入門に、これ以上ふさわしいCDはないでしょう。
 このCDを聴いた後に、オルガン演奏を聴けば、かけがえのない大きな収穫を得られるはずです。

 バッハが、この曲集の表紙に心からの願いを持って書き記した言葉・・・・。
 「隣人には、これによって学習する機会があらんことを。」
 楽譜も読めず、当然演奏もできないわたしにも、その機会があたえられたような気がします。

 もちろん、一生聴き続けていくのにもふさわしいCD。


 くりかえし聴くにつれ、オルゲルビュッヒラインの、ほんとうのすごさがびしびしと伝わってきます。
 まったく、バッハという人は、なんという音楽を書いてしまったのでしょう!

  
 演奏しているアンサンブル・マレ・ノストルム、錚々たるメンバー。
 あのリテェルカール・コンソートやコンチェルト・イタリアーノのCDなどで目にしたことのある名前もあります。
 ソプラノのセリーヌ・シェーンの歌声が、まっすぐで美しい。
 リーダーのアンドレア・デ・カルロは、もとジャズ・ベーシストのガンバ奏者。このCDで手動パイプオルガンを弾いている天才チェンバロ奏者、レオナルド・ガルシア・アラルコンとのデュオでも知られます。
 演奏がすばらしいのも、当然と言えるでしょう。


 バッハ・ファン、必聴!
 でも、ちょっと高い。


 * セリーヌ・シェーンさんについては、数年前のラ・フォル・ジュルネで、
   リチェルカール・コンソートのハイドンを聴いた時、その歌声にすっかり魅せられました。
   今年もリチェルカール・コンソートの一員としてやってきて、
   古楽伴奏でシューベルトの歌曲を聴かせてくれましたが、早々にソールドアウトになって聴けませんでした。
   残念。でも、思いがけず、こんなにすばらしい歌声が聴けてよかった。



 2、カラヤン&グールド、2大スター共演盤


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 カラヤン生誕100周年、ということで、何かカラヤンのCDを買おう、と思っていたところ、
 まるでこちらの気持ちを見透かすかのように、こんなCDがリリースされたので、思わず飛びついてしまいました。


 ベートーヴェン ピアノ協奏曲第3番
 シベリウス 交響曲第5番

 (1957年5月 ライブ録音)

        グレン・グールド、カラヤン指揮ベルリンフィル
        (ソニー・クラシカル)


 グールドとの共演のベートーベンは、以前からよく知られたものですが、正規版では初リリースとのこと。
 音がよくなっているということで、ピアノ・コンチェルトに関しては、十分鑑賞できる水準だと思います。
 演奏は、すでに随所にグールド節が見られます。対位法的な部分や、2楽章の歌などは、グールドならでは。
 ただ、基本的には、ごくごくまっとうで、立派な演奏。もちろん名演で、個性的でもありますが、ただ、わたしは、言われなければ、グールドだとはわからないかもしれない。

 カラヤンの伴奏も、いつもどおりで、立派。
 グールド?誰それ?と言った感じなのでしょうか。
 でも、二人とも何の奇もてらいも無く堂々と演奏しているので、カラヤンとグールド、この超ど級ビックネーム同士の組み合わせにしては、二人の息は、妙にぴったり。
 そういう意味で、あの大名演、ストコフスキーとの5番にいたる途中段階のような演奏と言えるかもしれません。


 だけど。

 このCDの価値は、何といっても、若いカラヤン&グールドのジャケットのすばらしさ、
 CDにデータ収録されている当日のパンフ、

 そして、それから、こちらは、世界初出、カラヤンの十八番だった、シベリウス5番のライブでしょう。

 グールドが心から愛していたシベリウスの、グールドも当然聴いたにちがいない、最高級の演奏。

 残念ながら、シベリウスを無条件で楽しむには、録音のレベルがいまいちなので、(こちらの方が録音の状態が悪い?)、以下に書くことは、かなり想像力で補った部分がありますが、
 北の大地の風を呼ぶ、透き通るばかりに美しい弦や木管、
 壮絶なまでに咆哮する金管、
 美しさの限りをつくしている、ということでは、あのスタジオ録音の名演(グラモフォンの古い方)とおなじですが、それにしなやかな若々しさと時には荒々しいまでの力強さが加わった、すばらしい演奏だと思います。

 これは、生で聴いてたら、気を失ってたかも。
 やはり、この人は、真のシベリウス指揮者なのだ。

 グールドの、シベリウスへの熱い(冷たい?)思いを考えると、まるで、グールドへの、カラヤンからのプレゼントみたいだ。

 このすばらしい演奏をグールドも聴いた、という歴史的事実を、文字通り記録(レコード)していることこそが、このCDの価値であり、このCDのすばらしいジャケット写真は、正にそれを象徴しているかのようです。


 シベリウス・ファン、必聴!
 でも、音はあまりよくない。



 その他のCDでは、

 バッハのピアノ曲で、ペライアのパルティータ No.2、3、4が、すごいという噂。
 これは、おそらく、すごいでしょう。

 あと、セルゲイ・シェプキンのゴールドベルク変奏曲がえらく話題になっているようですが、
 いくら昨年のライブがすばらしかったからと言って、10年以上も前の録音がそんなにすごいのかどうか。

 どちらも、とっても気になりますが、とても手がまわりません。

 どなたか聴いた方がいたら、ぜひ感想をうかがいたいところです。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

my
2008年05月17日 20:16
 Noraさん、又々失礼致します。ちょっとnoraさんのコメントと外れてしまいますが、ごめんなさい。実はグールドの ベートーヴェン のシンフォニー <6番全曲> を聴きながら眠ってしまう癖になってしまいました。休まるんですよね。と言うのはバーチャル体験・・・ギャンブラー・・・平日は朝7時から夕方9時、競馬のある土日曜は10時から3時半まで・・・の毎日をギャンブル付けです。勿論、家内公認です。疲れた貧弱な頭脳は休みたいと・・・平日の午後4時からは息抜きの為に再放送の、<水戸黄門> を・・・この年になっても刺激からは抜けられません。今日は階下で我が愚妻と 美空ひばりさん を歌いました。でもグールドのピアノを叩く合間の曲に合わせたリズム、ハミングはいいですよね。ごめんなさい御託を並べてしまいました。楽しい記事楽しみにしております。失礼致しました。
2008年05月18日 00:10
 myさん、こんばんは。お元気そうで何よりです。
 美空ひばりさんですか。奥さんとも仲がよろしいようで、これまた何よりです。
 春競馬、いよいよこれからクライマックスですね。

 グールドの6番、田園、すばらしいですね!myさんもお好きでしたか。
 ほんとうにやすらぎますね。
 以前、記事を書いたような気もしますが、もはや、どこに書いたかわからなくなってしまいました。
 グールドは、バーチャルの中に、確かな真実を求め続けた天才かもしれません。だからこそ、わたしなどは、とってもやすらぐのでしょう。ちょっと、カッコつけて書いてしまいました。
たこすけ
2008年05月19日 09:29
オルゲルビュッヒラインの素敵なCDの紹介、ありがとうございます。
ああ、早く聴いてみたい。
カンタータの紹介、いつもながらに惹かれる文章ですね。
テキスト・カンタータについての記事も楽しみにしています。
2008年05月19日 22:35
 たこすけさん、わざわざどうも。

> ああ、早く聴いてみたい。

 わたしも早くたこすけさんに聴いていただきたいです。
 たこすけさんが録音なさったBWV610なんか、リュートかきならしてます。
 だけど、やはり、ムスメさんにト〇ロは見せてあげないと。
 こうなったら、〇トロの音楽だよ、とか言って、聴かせたらどうでしょう。
 泣くか、あるいは、激怒するな。たぶん。

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