青春の鎌倉再訪記’08初夏~お気に入りの仏像 鎌倉駅周辺編・紫陽花と鶯の国の、宋朝様土紋仏たち・前編

 思い出の鎌倉を訪ねる旅。

 昔よく利用したガイドブックに紹介されているコースをもとに、今の鎌倉を歩いてみよう、ということで、昨年から始めましたが、今回は、その第3回目。


 ガイドブックは、これ。

 カラー版・鎌倉の散歩道  富岡畦草著、写真  (山と渓谷社)
 

 今年は、春の奈良・京都旅行、先日の2つの薬師寺展、と、たくさんのよい仏像に接して、「お気に入りの仏像」の記事を書いてきましたが、鎌倉にも、(国宝こそ大仏様しかありませんが)それらにけっして負けないような、鎌倉ならではの個性を持ったすぐれた仏像がたくさんあります。

 今回は、奈良・京都の時と同じように、駅から気軽に行くことのできる、鎌倉のすばらしい仏像を訪ねて、それらをご紹介することにしました。


 鎌倉で美しい仏像と言えば、
 やはり、あの高徳院阿弥陀如来像(大仏)や、東慶寺の水月観音像、などをあげられる方が多いと思いますし、
 仏像の宝庫と言えば、
 真っ先に、覚園寺円応寺などが思い浮かびます。


 でも、わたしが、もっとも鎌倉らしく、もっとも美しいと思う仏像は、別にあります。

 来迎寺(西御門) 如意輪観音坐像

 そして、

 浄光明寺 阿弥陀三尊像


 来迎寺も浄光明寺も、それほど知られていない小さなお寺ですが、
 どちらの仏像も、鎌倉ならではの土紋(土文)の装飾の施された、宋風のエキゾチックな容姿がとびぬけて美しい、絶世の美男(美女?)の仏像、鎌倉仏教美術を代表する名作です。
 しかも、両寺院とも駅から近く、気軽に訪れることができるのがうれしい。


 今回は、この両方を見てしまおう、というコース。
 したがって、今回に限っては、上記ガイドブックの、第3章と、第11章をミックスしたような変則コースです。
 西御門と扇ガ谷、八幡宮の東側と西側にのびる2つの谷戸の奥に、豊富な文化財を抱いて静かに佇む、小さいながらも美しい古寺を、ゆっくりと訪ねます。
 駅から見て、まったく逆方向で、あまり効率的ではないですが、どちらも駅から近いから、問題なし。


 また、ちゃんとガイドになるようにしましたので、地図を参照しながらご覧になってください。



 行ったのは、梅雨入り以降、初めて晴れ間ののぞいた先週末、6月7日(土)。

 浄光明寺など、梅雨時、少しでも雨が降ると、湿気上の対策から文化財を公開しない寺院等もあり、また、これから鎌倉は紫陽花で大騒ぎになるので、今がチャンスとばかりに行ってきました。


 晴れましたが、それほど暑くなく、風のさわやかな絶好の行楽日和。

 今くらいの梅雨入り前後は、1年のうちで最も緑が元気で、美しい時期だと思いますが、
 ちょうど鎌倉の街も、街全体が、瑞々しい緑に覆いつくされていて、目にも鮮やか。

 何だか、緑の勢いがちがう、というか、元気で、活き活きとして、もうはちきれんばかり。

 季節の花、花菖蒲は、今がさかり。
 紫陽花は、まだ少し早いですが、玉はしっかりとできていて、中には鮮やかに色づいているものも。
 明月院や成就院(極楽寺坂切り通し)がもちろん有名ですが、鎌倉は気候が紫陽花によっぽど適しているのか、わざわざ明月院などまで行かなくても、町中のいたるところで紫陽花を見ることができます。

 わたしが今回訪れた、西御門、扇ガ谷のあたりでも、色濃い緑の中、常にどこかで紫陽花の虹色の花を見ることができる、という状態で、
 そんな今の季節ならでは、の豊かな自然の中で、じっくりと、仏像を拝観することができました。


 前回、タッチの差で間に合わず、拝観できなかった、わたしが鎌倉で最も愛する浄光明寺の阿弥陀三尊像と、ついに再会した!



 いつものように直通の湘南新宿ラインに乗って、1時間。
 朝ゆっくりと出発して、11時くらいには、もう鎌倉駅に着。
 まだ紫陽花には早いせいか、昨年の紅葉の時ほどの大混雑ではない。



 バスがちょうど出るところだったので、まっすぐ西御門へ。
 「岐れ道」で下車し、頼朝公のお墓(法華堂跡)の方へ、北上。


▽ 法華堂跡への道。
  緑が、本当にあざやか!右側は紫陽花。

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 つきあたりの頼朝公のお墓+白旗神社にお参り。
 ここを西側に行くと、鎌倉宮をはさんで、覚園寺や端泉寺。
 そちらに向かう観光客は大勢いますが、ここでは、東側の、八幡宮のすぐ裏手を真北にのびる谷戸を登っていきます。
 こちらの方に来る人は、皆無。
 ひっそりと静まり返った谷戸をしばらく行った左側、小高い丘の中腹に、はじめの目的地、来迎寺があります。

 以下、拝観を終えるまで、なんと、参拝客はわたしたちだけでした。


▽ 西御門の谷戸。来迎寺に続く道。右は、路傍に咲いていた、スモーク・ツリー?

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 来迎寺。 
 以前は、いかにも素朴な山寺、といった雰囲気でしたが、(はたしていつだったか・・・・)
 今やすっかり整備されて、こじんまりとしてはいるものの、明るくさわやかなイメージになっていて、見違えてしまった。


▽ 来迎寺の明るく美しい参道。ここにも紫陽花が。

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▽ 緑に囲まれた、素朴な本堂

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 ふだん、本堂は施錠されていますが、本堂正面にあるインターホンで庫裏に申し出ると、本堂内に入れてくださり、畳に座って仏像を拝む形で、拝観することができる。

 覚園寺などは、くわしい解説付で、広大な境内にちらばる膨大な文化財を次々と順番に案内してくれるのですが、それだと初めての場合はいいのですが、自分のペースで、ゆっくりと仏像等を拝観することができません。
 それに対して、ここでは、気のすむまでじっくりと、仏像と対峙できるのがすばらしい。



 お目当ての如意輪観音は、本堂中央の本尊・阿弥陀如来像の、向かって右側の逗子の中。

 その前に正座すると、すぐ右側の壁には大きな窓があり、堂内には明るい光が差し込んでいます。
 窓から見えるのは、境内を囲む崖の、一面の緑、緑、緑。もう、まぶしいほどの鮮やかな緑。

 聴こえてくるのは、鶯を始めとする野鳥の声。すぐそこで鳴いているように、大きく響き渡っています。
 それにしても、なんてたくさんの鶯が、歌を歌い交わしていることか。

 堂内にもかかわらず、自然と直接結びついた、明るく開放的な空間。
 しかも、わたしたちの他に誰もいない貸切状態。

 そこで、鎌倉屈指の仏像の名品と向き合う至福。


 如意輪観音半跏像


 もともとは、源頼朝ゆかりの法華堂(元頼朝の持仏堂。さきほどの頼朝公の墓付近にあった)の本尊である、由緒正しい仏像。

 如意輪観音ですから、妖艶な姿をしていますし、宋朝様式のエキゾチズムあふれる宝髪や衣などが、その妖艶さをさらに際立たせていますが、
 やさしく微笑む表情は、武士の都の仏らしく清らかにひきしまり、かつては華美を極めたであろう土紋の痕跡も、今や質実剛健ともいえるような素朴な雰囲気をかもしだす大きな要因となっています。

 土紋(土文とも書く)は、土をこねて粘土状にしたものを衣類等にびっしりとはりつけて(乾くと落雁みたくなる)、それに彩色を施した、特に一定の時代の鎌倉地方にだけ見られるめずらしい装飾方法で、
 当初は、極めて立体的で、華やかな効果があったものと想像されます。
 ただ、土ですから、すぐにかけ落ちて、もちろん色も薄れ、ほとんどの仏像から土紋は失われてしまいましたが、
 ほんの数体だけ、奇跡的に土紋の残る仏像が、鎌倉には存在しています。
 それらの土紋は、今や、当初の「土」の姿に限りなく近づいて、
 ただでさえ凛とした佇まいの鎌倉仏の名品を、正に、鎌倉仏にこそふさわしい、「土の仏」と呼びたくなるような姿にしているわけです。

 華麗な如意輪観音の名品は多々ありますが、宋風の、異国情緒たっぷりのうっとりとするような姿に、清楚で素朴な雰囲気をも併せ持った、稀有な例、
 名品中の名品と言えるのではないでしょうか。


▽ お寺でもらったパンフの写真。
  クリックすると、カラーの写真をご覧いただけます。

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 * カラーの写真は、古書店で入手した、30年以上前の雑誌(交通公社発行)の切抜きです。
   現在よりも土紋が残っているような気がします。

   (なお、このシリーズで使用している写真は、すべてそれと同様の古いものか、
    直接いただいたお寺のパンフにのっていたものに限っていますが、
    もし問題があれば削除いたします)    



 本堂内には、他にもすばらしい仏像があります。


 本尊の向かって左側、如意輪観音に相対する位置に安置されているのが、地蔵菩薩坐像

 息を飲むほど美しい地蔵菩薩。
 まずは、やはり宋朝風の極めて写実的な法衣が、目を引きます。
 繊細な衣紋、台座の左右に大きく広げられ、垂下する法衣のひだ。
 奇抜で幾何学的なデザインですが、造形的に見事の一言。
 そして、仏像本体に注目すると、表情といい、体のバランスといい、一点のスキも無いほどの完璧な美しさ。
 お地蔵様と呼ぶには、少し精悍で厳かすぎる気がするくらいの、美男子の仏像です。 


 そして、地蔵菩薩に寄り添うように立っているのが、抜陀婆羅(バッダバラ)尊者像

 一目見たら忘れられないような、個性的で味のある尊者像で、
 以前は、なぜか、「自休さま」(江ノ島の稚児が淵に出てくる悪役?)とされ、あらぬ濡れ衣?を着せられてきましたが、今では、禅宗の尊者像であることが判明し、足腰や目の病にご利益がある像として、広く親しまれています。



 これらのすばらしい仏像を拝観している間、本堂内のあちこちにさりげなく置かれている、実に見事な書の数々が目を引きました。まったく読めませんが。
 案内してくださった女性に、どなたの書か尋ねると、その女性のお母様の書いたものだとのこと。

 何もかも、すばらしい。!



 * なお、鎌倉には、同名の来迎寺というお寺が、もう一つあります。
   こちらは、材木座にある、ミモザの花で知られるお寺。
   もし行かれる場合は、おまちがえないよう。


 

▽ 来迎寺入り口にある八雲神社(祭神:スサノオの命)の庚申像。
  3体とも、たくさんの手をいっぱいにのばしていて、かわいい。

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 けっこう長い間、来迎寺にいたので、これで、午前の散策はおわり。
 なんちゅーのんびりしたスケジュールだろう・・・・。
 すぐとなりの八幡宮・源平池で休憩。


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 池のほとりの鎌倉国宝館でも、円応寺の初江王像を始めとするすばらしい鎌倉仏をたくさん見ることができますが、見始めるとおそらく時を忘れて見入ってしまうため、この日は、パス。


 八幡宮前の豆腐料理屋で昼食をとり、午後の目的地、扇ガ谷方面へ。



 八幡宮から、扇ガ谷へは、岩屋小路が近道。
 大混雑の小町通りから分かれる路ながら、こちらは、ひっそりとしていて風情がある。


▽ 岩屋小路と、この路の名前の由来となった岩屋不動。
  写真ではよくわかりませんが、その名のとおり、やぐらです。右手はお茶屋さんで、休憩ができる。

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▽ 岩屋小路付近を流れる小川と鉄の井。

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 鎌倉は、ほんとうにこのあたりは、水と緑にあふれている。



 午後の部に続く。



 【参考地図】


 西御門と来迎寺

 例によって、ハタはまったく意味ありません。









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カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2008年06月14日 21:39
いいねぇ鎌倉。
街並みって言葉が似合う街の一つですよね。
スモークツリーも鮮やかです。
2008年06月15日 20:24
 Papalinさん、こんばんは。
 鎌倉は、めずらしい植物も多くてほんとうに楽しいです。
 スモークツリーも、やっとほんものを見ることができました。
 写真で見ると、ほんとにピンクの煙みたい。手振れかな?(笑)
2008年06月16日 21:23
こんばんは。
お久しぶりです。
スモークツリーなんですが、ブルガリアに入った途端、沿道がスモークツリーだらけですっかり堪能してきたところです。訳あって写真がありませんが。
今年もいい時期に鎌倉にいらっしゃったのですね。懐かしいですね。
来迎寺というお寺も、そこの如意輪観音様も知りませんでした。
誰もいないところで素晴らしい仏像を眺められて至福の時を過ごされましたね。
2008年06月16日 21:25
↑はtonaでした。失礼しました。
2008年06月17日 10:23
 tonaさん、お帰りなさい!
 お元気でお帰りになられたようで、何よりでした。
 またすばらしい旅行だったようですね。
 ブルガリアのスモーク・ツリーの道ですか。すてきですね。スケールがちがいますねー。
 カメラのことは残念でしたが、このようにお話を聞くと、tonaさんの感動がきちんと伝わってきます。
 どうか「しょぼん」となさらず、また楽しいお話を聞かせてください。
 旅行の記事、ゆっくり読ませていただき、またおじゃまさせていただきます。

PS、
 来迎寺、八幡宮から5~10分くらいのところなので、もし今度お時間があったら、ぜひ行ってみてください。

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