青春の鎌倉再訪記’08初夏~お気に入りの仏像 鎌倉駅周辺編・紫陽花と鶯の国の、宋朝様土紋仏たち・後編

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 岩手・宮城内陸地震で被害に合われた方に、心よりお見舞い申し上げます。



 さて、鎌倉の仏像の記事を、まだまだ続けます。
 前編に続いて、後編、午後の部です。



 岩屋小路を抜けると、そこはもう、扇ガ谷。
 観光客でごったがえす八幡宮や小町通りから、まだ5分くらいしか歩いていないのに、
 しっとりと落ち着いた、静かな谷戸です。



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 この扇ガ谷を少しだけ登ったところに、
 午後の目的地、また、今回の訪問の一番の目的地でもある、

 浄光明寺

 があります。

 住宅街の一角にある小さなお寺ですが、午前中に行った来迎寺と同様、頼朝公ゆかりの古寺。
 実は、鎌倉には、北条執権や上杉管領がらみのお寺ばかり残っていて、頼朝公ゆかりのお寺はほんのわずかしかないのですが、そのすべてがわたしは大好きです。

 この何気ない小さなお寺に、鎌倉の至宝、わたしが鎌倉でもっとも愛する仏像、阿弥陀三尊像があります。
 来迎寺に続く、もう一つの、宋朝様土紋仏。

 前回の訪問では、タッチの差で拝観できなかったのですが、今回、ようやく再会することができました!



 境内の奥まったところ、樹々のおい茂る崖に囲まれた、小高い丘の上の広場に、代表的な鎌倉建築、阿弥陀堂があります。
 特徴的な花頭窓が素朴で美しい。
 現在は、浄智寺と同じ、三世仏坐像が安置されています。薄暗くてあまりよく見えませんが、これも堂々としたりっぱな仏像。
 阿弥陀堂全体をやさしく抱くかのように枝を伸ばしているマキの巨木は、樹齢750年以上と言われ、鎌倉の創建以来、このお寺の歴史を見つめ続けてきたもの。 


▽ 浄光明寺阿弥陀堂。
  お堂全体を包み込むかのように枝を伸ばしているのが、マキ。

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 その向かって左隣に、阿弥陀三尊の収蔵庫。

 収蔵庫の扉が開いていると、この広場に立ったとたん、そちらの方からすさまじいオーラのようなものが放たれているように感じられます。
 ほんとうにまぶしく感じられるのです。

 傍らの受付所で収蔵庫の拝観料を払い、収蔵庫の扉の前にふらふらと歩み寄ると、

 それほど広くはない収蔵庫の内部空間全体を、圧するかのように鎮座している、

 阿弥陀三尊像

 の、大きさ、美しさに、しばらく茫然と立ち尽くしてしまいます。 

 
 本尊、阿弥陀如来坐像は、座った体の高さだけで1メートル50センチ近くはある巨像。

 如来であるにもかかわらず、
 華麗極まりない宝冠を頂き、
 長い爪のしなやかな指で上品中生印を結び、(胸の前で両手でOKマーク)
 法衣にはほぼ全体にわたって夥しい土紋装飾が施された、
 ある意味、異形の仏像です。
 法衣の肩の辺りなどに、多少宋朝風の影響が見られる気もしますが、全体の作りは、まことに堂々たる運慶様の鎌倉仏。
 表情や体全体に漂う、超然として厳格な佇まいには、思わず襟を正してしまいます。

 土紋については、前半の来迎寺のところでくわしく書きましたが、
 この阿弥陀如来像こそ、土紋が最もよく保存されている仏像。

 今や原初の土に還りつつある夥しい土紋が、この仏像本来の厳しい姿と一つになって、

 正に、

 「土の仏」

 と呼ぶにふさわしい風格のようなものを漂わせている、名品です。


 さて、そのように、本尊からしてすでに十分すっごいのですが、この三尊像の場合、さらにすっごいのが、

 両脇侍、

 向かって右の観音菩薩、左の勢至菩薩像だと思います。

 本尊に比してかなり小ぶりの像ですが、こちらの方は、完全な宋朝仏。

 宋朝様式の仏像と言えば、東慶寺の水月観音像がよく知られていますが、この水月観音の美しさは、やはり絵画の中から抜け出してきたかのような、あの独特のポーズありきのもの。
 純粋な彫像本来の美しさは、こちらの方がはるかに上なのではないでしょうか。

 ほんとうに、これらの像の美しさを、何に例えればよいのでしょう。

 顔よりも大きいくらいに高く高く複雑に結い上げながら、バランス的にまったく自然で、ただただ華麗さのみを感じさせる宝髺、
 やわらかに顔と体を傾けて、本尊に身も心も寄り添うかのようにしている、その表情、姿勢、
 軽やかにそれぞれの持物をつまむ、今にも動き出しそうなほど表情豊かな手、
 ゆるやかな肩かけから始まり、まるで薄明のように体を包み込む法衣、

 何もかもが、完っ璧です。

 わたしは、(個人的には)特に右側の観音菩薩が美しいと思う。

 その姿は、もはや、ほとんど仏像とは思えないほど。
 生身の女性、しかも、現代の日本女性を、極めて精緻に表現した彫像のようです。
 顔も体も、これ以上ないくらい、リアルで、しかも、モダン。

 なお、この両脇侍に関しては、土紋装飾は、施されなかったようです。
 もっとも、この像には、これ以上の飾りは不要、というか、意味をなさないでしょう。


 このように、本尊と両脇侍には、大きさ、様式等に大きな隔たりがあり、もともと対ではない仏像を組み合わせたのでは、という見方もあると思います。
 しかし、個性の異なるこれらの仏像が一つになることによって、言葉では言い表せないような不思議な一体感、美しさがかもしだされているのも、また事実です。


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 本尊、阿弥陀如来像。(前述の古雑誌の切り抜き)
 クリックすると、
 両脇侍を含む三尊の写真(古いモノクロ写真ですが)
 をご覧いただけます。
 収蔵庫が完成した当初の記録写真らしく、
 阿弥陀如来が宝冠を頂いていないところが貴重。












 また、この点も、来迎寺と同じですが、この収蔵庫には、他に、すぐれた地蔵菩薩像も安置されています。

 まるで隠れるかのように、収蔵庫の左壁際の厨子内に、ちょこんと立っている、

 地蔵菩薩立像


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 小像ながら、精巧な細密描写が美しい、
 ただでさえ見事なお地蔵様ですが、
 錫杖の先が矢の形になっているところが、
 変わっていておもしろい。

 これは、
 足利尊氏の弟、直義が、戦場で窮地に立たされた時、
 小僧に姿を変えた地蔵が矢を拾い集めてそれを救った、
 という伝説にちなんだもので、
 そのためこのお地蔵様、
 矢拾地蔵と呼ばれ、親しまれています。








 * 浄光明寺収蔵庫は、
    木曜日、土曜日、日曜日の、
    AM10:00~12:00、PM1:00~4:00のみ、扉を開きます。
    雨天多湿の日、および、8月中は、拝観中止。
    お気をつけください。




 緑の中に埋もれてしまったかのような、不動堂(左)と鐘楼(右)。
 昨年秋の写真と比べてみてください。

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 浄光明寺は、やぐらや石造文化財の宝庫でもある。
 裏山に登ると、見事な石塔や、やはり伝説のある鎌倉時代!の大きな石造地蔵像(網引地蔵)などがありますが、
 登り口(写真右)が急な上、前日の雨でぬかるんでいたため、断念。また、今度。

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▽ 鎌倉のあちこちで見かけた、柏葉紫陽花。
  浄光明寺境内のものは見事だった。 

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 さて、以上で、今日の目的はすべて無事達せられたわけですが、
 まだ少し早いので、扇ガ谷の奥に続く梅ガ谷の、さらに一番奥深いところにひっそりと佇む、海蔵寺まで足をのばすことにしました。
 海蔵寺は、場所が不便なのでそれほどメジャーではないですが、昨年訪れた光則寺とならぶ、花のお寺。
 不便なだけあって、自然も多く、熱烈なファンも多い。



 梅ヶ谷・海蔵寺への道。
 谷の奥に行くにつれ、さらに緑が濃くなる。

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 海蔵寺入口。
 左の写真、路に覆いかぶさってるのは、すべてもみじ。
 こりゃ、秋はえらいことになるな。

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 緑と花に埋もれた境内。この門など、もう、完全に緑に埋没してしまってる。

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 仏殿(薬師堂)。

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 このお堂の本尊もおもしろいので、ご紹介します。


 薬師如来三尊像(啼き薬師)


 非常に精緻なつくりの美しい三尊像ではありますが、一見しただけでは、江戸期くらいに作られたと思われる、ごくごく普通の仏像です。

 でも、この仏像、実はとても変わっていて、
 胸全体が扉になっていて、開くと大きな仏面が現れるのです。
 この仏面は、鎌倉期のものと思われる、おだやかな表情の見事なもの。

 毎夜、裏山から赤児の啼き声が聞こえるので、彫ってみたところ、立派な薬師如来の仏面が出現、
 新たに薬師如来像をつくり(つまりこの像)、そのおなかに収めて祀った、
 と、いう伝説から、
 「啼き薬師」の別名があります。

 おなかの仏面は、61年に1度だけ開帳されるそうで、わたしはもちろん見たことありませんが、
 写真で見る限り、胸にぽっかりと開いた空間の中で、巨大な仏面が静かに微笑んでいるその姿は、実にめずらしく、
 この仏像、鎌倉でももっとも特異な仏像と言っていいのではないでしょうか。
 

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 なお、この三尊の両側には、ちゃんと、素朴でかわいい十二神将像がずらっと並び、にらみをきかせています。
 (写真をクリックして拡大すると、一部ごらんいただけます)
 小さいですが、よく見るとそれぞれ味があります。



 本堂と鐘楼。

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 庭園。

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 庫裏。
 二階建ての茅葺造がめずらしく、意匠も細部にいたるまでとても美しい。
 昨年見た浄智寺の庫裏と並ぶ、民家風の素朴な庫裏の代表例。

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 庫裏の周辺を始め、境内のいたるところに、さまざまな花々が、大切に育てられている。

 花菖蒲はちょうど見ごろ。

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 ここにも、さまざまな種類の紫陽花が。

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 瑞々しい緑があふれ、花菖蒲や紫陽花を始めとする花々が咲き誇る境内に、
 午前中、来迎寺の境内で聞こえていた鶯の鳴き声が、いつのまにか、また響きわたっています。


 今の鎌倉は、ほんとうに、紫陽花とウグイスの国。


 そして、それに加えて、谷の奥深くのこのあたりは、正に、石と水の国でもあります。


 
 海蔵寺周辺の、見事なやぐらの数々。
 緑と土と闇の空間の織り成す、鎌倉ならではの造型。
 ここのやぐらも、ほんとうに、すごい。

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 それにしても、たまに紅葉?している樹がある。なぜだろ。



 境内の一角にある底脱の井。

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 そして、海蔵寺といえば、石と水、やぐらと井戸がひとつになった、十六の井。

 見学料を払い、お寺の裏山の方に回り、石のトンネル(写真左)を抜けたところに、十六の井があります。
 暗くてほとんど見えませんが、巨大なほぼ正方形のやぐらの正面に石仏、
 床面に4×4=16個の美しいすり鉢上の穴があり、どこから湧くのか、常に満々と清水をたたえています。
 まるで古代遺跡みたい?

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 帰り道の扇ガ谷の路。
 このあたりの小川は、ホタルも見られ、「ホタルを大切にしましょう」という看板が立っている。
 ホタルの小川(左)と、川沿いに咲くホタルブクロ(右)。
 正に、ホタルの小路。

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 そう言えば、この日(6月7日)の夜に、八幡宮源平池で、「ホタル祭り」が行なわれたようです。
 時間の関係で、行きませんでした。残念。



 小町通りで飲んだ、ゆず&蜂蜜ドリンク。ベンチで座って飲める。さっぱりしていておいしかった。
 右は、有名な紫芋おかしの専門店、いも吉館(いもよしやかた)。
 ソフトクリームと羊羹を食べたが、ここのは、あとからじわわーーっと、紫いも本来のおいしさが伝わってくる。
 超絶美味。

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 夕方、江ノ電に乗って、稲村ガ崎まで海を見に行く。
 
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 快晴なら、ちょうど江ノ島の橋の上辺りに、富士山が見えるのだけど・・・・。

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 海の見えるカフェでまたまた休憩。

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 帰りは、江ノ電の線路に沿って、山伝いの小路を、極楽寺まで歩く。

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 極楽寺駅、以前とまったく変わらず、ひなびた感じですが、改札にはちゃんと、PASMOの機械がつけられてました。

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 【参考地図】


 扇ガ谷と梅ヶ谷

 例によって、ハタはまったく意味ありません。









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カンタータ日記・奥の院

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カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2008年06月20日 21:57
今回は見られてよかったですね。
ということは私も間接的に拝観したわけで、ありがとうございます。
学生(中学生でしたっけ)の頃から歩いて研究されていたから、本当に詳しいし、仏像鑑賞もさすがです。
ただぼーと見ているtonaとは大違い。

海蔵寺は好きで2回行きました。もう懐かしいです。
ピンクのお花はキョウカノコでしょうか。あるいはシモツケでしょうか。
きれいですね。
菖蒲も丁度見頃だったのでしょうか。
2008年06月21日 20:12
 tonaさん、こんばんは。
 海蔵寺、光則寺ほど有名でないですが、それに負けない花のお寺で、すばらしいですね。
 付近のやぐらも見事ですし。(笑)
 以前tonaさんからいただいたコメントに書いてあったのを思い出し、今回は足をのばしてみたのですが、花菖蒲をはじめ、ちょうど、いろいろな花が見頃で、大正解でした。ありがとうございます。

 ピンクの花は、検索してみたら、キョウカノコのようです。
 わからなかったのでそのままにしておいたのですが、また教えていただきました。これは、やわらかな色の、見ていて心がやすまる花ですね。
 紫陽花も、それほど数は多くないのですが、いろいろな種類のものがあり、おもしろかったです。
2009年08月30日 00:11
こんばんは。「浄光明寺」で検索して来ました。

実は、浄光明寺が8月中は拝観停止だと知らずに27日に行ってしまいました。
Nora さんの日記に行く前にたどり着いていれば、空振りをすることがなかったのですが・・・

しかし、阿弥陀如来像や両脇の菩薩像の説明を読んだら、近いうちににまた行きたくなりました。

私もバッハのカンタータが好きです。
2009年08月30日 18:02
 tokiさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

> 27日に行ってしまいました

 それは残念でしたね。
 でもすばらしい仏像なので、ぜひまた機会を見つけてごらんになってくださいね。
 本文にも書いたように、この仏像は何と言っても土紋に特長があるのですが、拝観をかなり制限しているのもそのデリケートさのせいもあるのでしょう。実際、かなり昔に見た時よりも土紋が減っているような気がしました。
 ただ、お寺としては、基本的にはできるだけ多くの方に仏像に親しんでもらいたいようで、拝観できる日だったらゆっくりと観ることができます。

 ちなみに8月に拝観できないお寺はけっこうあって、覚園寺なんかもそうだったような気がします。お盆のせいもあるのかな。

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