続々・最近聴いたCDから~バッハとコルトレーン?ジャズ・カンタータ登場【三位一体節後第17日曜日】

 CDのご紹介、さらに続きます。
 おしまいは、バッハ+ジャズ。



 BACH COLTRANE


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 CDショップで、寂寥感あふれる美しいジャケットに思わず惹きつけられました。
 ジャケットには、大きくBACH と書いてある。
 何の曲かとよく見てみると、かぶせて Coltrane の文字が。
 Coltrane って、あのコルトレーン?
 恐っ・・・・!
 なんじゃ、こりゃーっ、という感じで、近寄らないようにしたのですが、気がついたら購入しておりました。
 何か呪術的な力にあやつられたか。
 やはり、ジャケットのあまりにも美しかったのと、さらにマショーのモテット全集他の古楽CDによって心から信頼している ZIGZAG レーベルということもあったのでしょう。


 タイトルは BACH COLTRANE ですが、コルトレーンが直接参加してるわけではなく、本録音プロジェクトの中心は、フランスのジャズサックス奏者、ラファエル・アンベール。
 よほど、バッハとコルトレーンが好きで好きでたまらないんでしょう。まあ、気持ちは痛いほどわかる。わたしの場合はコルトレーンじゃないけど。

 最近、実は、ジャズ風アプローチのバッハのCDがやたら多いのですが、このCDが根本的にちがうのは、ジャズ、クラシックのどちらかサイドによる演奏者だけでなく、
 アンベールさんをはじめとするジャズサイドのミュージシャンと、オルガニストのアンドレ・ロッシ、マンフレッド四重奏団、という正統的クラシック・ミュージシャンが、がっちりとコラボしているということ。
 すなわち、バッハの曲に関しては、ロッシ+マンフレッドが、コンチェルトから、鍵盤曲、声楽曲、はてはフーガの技法にいたるバッハの音楽をきちっと譜面どおりに演奏して、その上に、サックス(一部バスクラ)のアンベールさん+ベース、パーカッションのリズム隊が、即興をかぶせる、という方式をとっているのです。
 つまり、グノーのアヴェマリア方式。(笑)

 以前ブレイクした、ヤン・ガルバレクとヒリヤードアンサンブルのECMのシリーズを思い浮かべますが(まあ、結局アイディアは同じだな)、グレゴリオ聖歌や中世のポリフォニーなどとちがい、バッハのように、複雑で最高度に完成されていて、しかもよく知られている作品でこれをやってしまったのだから、大胆不敵。何を考えているのか。

 実際、即興がじゃまに思える瞬間もあることはあるんですが、まあ、けっこうがんばっていて、聴き応え十分です。

 そして、タイトルが、バッハ=コルトレーンとなってるのは、バッハの曲の間に、コルトレーンのスピリチュアルな曲が何曲か入っているためで、これによって、アルバム全体に、一応妙な統一性が生まれています。
 アンベールさんにとっては、こちらが本領か。
 バッハの曲では、さすがに、恐る恐る、というか、妙にかしこまった感じ、さらには必死感があるのですが、
 コルトレーンの曲では、ちょっと昔懐かしい?フリートーンで、のびのびと思いっきり吹きまくってます。
 ここではもちろん、逆に、クラシック部隊も参加させられていて、こちらもなかなかおもしろい。


 さて、バッハの曲の中に、カンタータが2曲入っていて、これらには、即興がまったく加えられず、きちんと楽譜どおり演奏されています。
 そして、皮肉なことではありますが、この2曲が、たいへんな名演。
 このアルバムのハイライトと言えるでしょう。

 まず、BWV44の終結コラール。(*)
 あの、マタイなどでも名高い、イザークの「インスブルックよ、さようなら」に基づく旋律(BWV392)です。
 アルバムのラストに置かれていて、せつなくも美しいコラールを、クラシック部隊がていねいに演奏し、混沌とした全体をしめくくります。

 そして、何と言ってもすごいのが、真ん中に置かれた、BWV170のあの夢見るように美しい冒頭アリア。

 弦とオルガンのクラシック部隊の中に、アンベールさんが加わり、オーボエパートをこれ以上ないくらいきちんと演奏しています。
 これが陶然とするほど美しい。
 こういうのを、ずっと聴きたかったんだ!

 そして、その上で、歌を歌っているのが、あの、ジェラール・レーヌ
 もはやすべての余分な力が抜け切っているのに、さまざまな陰影が深く刻み込まれた、例えて言うならば、風のような歌。
 ちょっと比較が極端かもしれませんが、レーヌ、すでに、沖縄の島唄の長老たちに近い域に、いらっしゃるのかもしれない。

 レーヌのBWV54などのすごさは、ウワサには聞いていて、いつか聴きたいものだ、と思ってましたが、そのレーヌの他ならぬBWV170が、こんな形で聴けるとは思わなかった。


 いずれにしても、ジャズがらみのCDで、カンタータがこれだけきちんと演奏された、ということはめずらしく、画期的なのではないか、と思います。

 このCD、演奏の内容そのものについては、ざまざまな感想があるでしょうけれど、とってもうれしいので、
 無条件で、大推薦、ということにしてしまいます。


 以前から、カンタータとジャズに関しては、

 歌+オブリガート楽器+通奏低音  ←→  歌、またはソロ楽器+リズム隊

 というフォーマットや、
 コラールやスタンダードなどの身近なメロディから全体が構築されている点、
 さらには、歌や楽器どおしの親密な結びつき、即興性、などなど、
 さまざまな類似を指摘してまいりました。

 すなわち、カンタータは、18世紀ライプツィヒのジャズなのではないか、というのがわたしの持論です。

 アンベールさんもそれを、曲そのものがすでに内包しているジャズ的要素を十分に感じたからこそ、カンタータに関しては、何も手を加えずに、楽譜どおり演奏したのではないだろうか。
 ・・・・なーんて。


 * なお、上記BWV44のコラールは、曲目一覧、およびライナー解説では、BWV45となっていますが、
   これは明らかに誤りです。
   お気をつけください。
   BWV45の終結コラールは、これまで何度も書いてきたわたしの大好きなコラールで、
   おお、これが聴けるのか、と楽しみにしてたのですが、ちがっていました。
   でも、インスブルックの歌だったので、これはこれでよかった。




 ヴァインベルガーのバッハ・オルガン全集(第21巻・最終巻)BWV1128収録
 

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 以前お知らせしたバッハの新発見新曲(青春時代のオルガンコラール、BWV1128)が、早速録音され、実際に聴けるようになっているので、一応お知らせしておきます。

 この前のBWV1127の時も早かったですが、今度も早かった。
 オルガニストのゲルハルト・ヴァインベルガーが、Cpoレーベルからバッハのオルガン全集をリリースしていましたが、その最終巻に、ぎりぎり間に合う形で収録されたもの。


 最終巻なので、フーガの技法がカップリングされていますが、その演奏を聴く限り、極めてスタンダード、明確かつ誠実・ていねいで実に味わい深い演奏。
 コラールも、しっとりと美しい演奏。曲自体は、新発見と言われなければ、「ただの若いころのコラール」としか思わないかもしれない。

 わたしは、バッハのオルガン曲というと、限られたビック・ネームのものしか聴いたことが泣く、何か最新の良い演奏はないものか、とずっと探していたので、バッハの新曲は、わたしに新しい思わぬ出会いをもたらしてくれました。

 このオルガン全集、せっかくなので、ちょこちょこ他の演奏も聴いていきたいと思っています。



 最後に、ちょっとおもしろい、ジャズCD。
 ちょっと、バッハ&グールドとも関係あります。 



 アート・テイタム Piano Starts Here (Zenph)


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 ちょっと前にグレン・グールドのデビュー盤(古い方のゴールドベルク)で話題になった、Zenph シリーズの第2弾は、なんと超絶ジャズピアノの巨人、アート・テイタムでした。

 アート・テイタムには、一時期凝っていたことがあります。
 あのトスカニーニやホロヴィッツも一目置いていたと言われる、クラシックも含め、史上最強のヴィルトゥオ-ソの称号をほしいままにした、ジャズ・ピアノの開祖。
 「神の手」と呼ばれたその両手から放たれる音楽は、豪華絢爛。鋼のようなリズムに乗って、右手と左手が完全なインプロビゼーションを繰広げる様は、正に圧巻。
 いや、実際に聴いていると、もっとたくさんの自由な意志を持った手が存在しているとしか思えなくなってくる。
 そしてそのすべての手が極上の音楽を奏でる。
 奔流のように沸き出で続ける美しい音の洪水に身も心も任せてしまうのは、何物にも変えがたい快感。

 ただ、やはり、どの演奏もさすがに録音が古く、ちょっと霧のヴェールがかかったようにぼんやりしていて、かゆいところに手が届かない感があるのが残念ではありました。


 そんなテイタムの代表的名演が、今回、Zenph シリーズ化。

 このZenph ソフトによる復元演奏、グールドの時はあまりにも怪しげだったので手を出しませんでしたが、今回、期待半分、不安半分で、果たしてどんなものか試しに聴いてみました。

 結果は、もうびっくり。
 すべての霧が晴れ渡り、目の前でテイタムがばりばり弾きまくっているかのよう。
 まったく人工臭が無く、不自然でありません。

 厚ぼったかった音のすべてがクリアになって透明感が増し、モノクロームだった音の洪水が、七色にきらめく色彩に彩られた!

 特に、後半におまけで納められているバイノーラル・ステレオ・バージョンの方は、生演奏を聴いているかのような臨場感。


 これまで何度も書いてきたように、ジャズ、クラシックを問わず、わたしが最も愛するピアニストは、バド・パウエルです。
 アート・テイタムは、バドの直系の祖先で、バドにもっとも影響を与えたピアニストとよく言われますが、
 同じ超絶技巧の持ち主ながら、バドのピアノが、例えて言えば、ドビュッシーのように陰影が濃く、不思議な詩情を漂わせているのに対して、一方のテイタムの方は、例えばラヴェルのような明晰さが持ち味。
 どちらかというと、類稀なエンターティナーの超一流の芸、みたいなところがあります。
 それが、Zenph シリーズにピッタリだったといえるのかも。

 そういう意味では正に的を射た人選といえるでしょう。

 これは、グールドも聴いた方がいいかな。
 でも、グールドはやはりちがう気がする。一見機械的だけど、実はいつも、その対極に立っていたから。



 さて、そんなわけで、グールドとちがって、こちらの方は、(悪い意味でなく)ある意味、精密機械に通じるところもあるテイタムですが、
 晩年には、往年の神がかったテクニックは衰えた反面、思いっきり詩情あふれる録音も残してくれました。


 THE TATUM GROUP MASTERPIECES

 ART TATUM=BEN WEBSTER QUARTET



 このように、ジャズ創世記に最前線で活躍した伝説的ジャイアンツが、かなり後年になって、モダンジャズのフォーマットで、あるいはその当時のバリバリのアーティストたちなどと組んで、残した録音はけっこうありますが、このテイタムのものも含めて、どれもこれも、思いっきり肩の力が抜けた、限りなく自由の境地の、かけがえのない名演ばかりだと思います。


 同じくスウィング・ピアノの巨人、アール・ハインズの、

 HERE COMES


 そして、ハインズ、とくれば、やはりデューク・エリントン、
 エリントンはどれもすごいのですが、とっても怖いこの二人が、まるでおとなしい優等生のように感じられる、代表的な2枚、

 ELLINGTON&COLTRANE

 MONEY JUNGLE (with Charles Mingus)


 ここにあげた、スィングの巨人たちのモダンジャズ、
 何だか、このごろ小難しいこと言ってる小僧が増えたが、こうすりゃいいんだろ?
 そんな豪快な笑い声が聞こえてきそう。


 どれも名盤中の名盤なので、ご存知の方、多いと思いますが、
 もし、どうせ古いんじゃないか、と思って聴いてない方がいたら、すぐに聴いて、びっくりしてください。



  *    *    *



 バッハ関係の新譜情報追加。



 ピアノ曲他鍵盤曲に、けっこう注目盤がリリースされるようです。


 グルダのバッハ・ライブ集


 グリモーのバッハ・トランスクリプション集


 シフのバッハ・ピアノBOX

 これは、値段も演奏も、魅力的。  



 その他、例年どおり、この秋も、カンタータの注目盤のリリースが目白押し。
 よいものがあれば、順次感想等書いていきたいと思っています。



 *    *    *



 忘れておりました。
 今度の日曜日(9月14日)は、三位一体節後第17日曜日。

 カンタータは、
 おそらく第1年巻のBWV148
 第2年巻(コラールカンタータ)のBWV114
 後期のBWV47
 の3曲です。

 同日の過去記事は、こちらこちら



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2008年09月12日 08:33
おはようございます。朝の風の爽やかなこと、バッハの曲も聞こえてきそうなNoraさんのブログです。
レコードとテープ、モーツァルトといくつかののCDでストップしてしまった私にはコメントする資格はありませんね。
ジャズのレコードは夫のが大量にあったのですが、全部捨てました。残念。
バッハがいいなあと思った話です。
6月の旅行以来、ご一緒した方が、もう5カ国の国のビデオ編集したのを送ってくれます。そのとき、教会はレクイエムやバッハの曲をながしてくれます。とてもマッチしていて、荘重な雰囲気を味わいながら見ることが出来ます。素晴らしいのです。男性ですが、エレクトーンの資格も持っていらっしゃるし、ピアノも弾かれるので、音楽の造詣が深い方です。
そんなところで、今バッハに共鳴しています。
my
2008年09月12日 14:17
 Noraさん、こんにちは。バッハや素晴らしいジャズメンたちが、出てきましたね。60年代の若者を代表して書かせて頂きます。コルトレーン・・・< 学生運動 > < ダンモ > < ジャズ喫茶 > の時代ですよ。弟や仲間たちと聴きまくったものです。 「 ソウルトレーン 」 「 ジャイアント・ステップ 」「 ラウンド・ミッドナイト 」。Noraさんの記事を読ませて頂き、ラックから久しぶりに取り出しましたよ。今、私の部屋に 「 至上の愛 」 がかなりのボリュームで流れています。いいですね。実にいいです。最高! ところで、コルトレーン のバッハ・・・早速手に入れませんと。それから チャールス・ミンガス も少し買い込んできませんと・・・素晴らしいエッセイに感謝々です。月に2度位はダンモを書きたいですね。どうも失礼致しました。
2008年09月13日 00:23
 tonaさん、こんばんは。
 日中はまだまだ暑いですが、朝夕はほんとにさわやかになってきました。
 旅行の思い出の映像に、バッハやモーツァルトの音楽、いいですね。そのような編集ができる方は、心から尊敬してしまいます。わたしは、何でも見っぱなし、撮りっぱなし、聴きっぱなしで、それらを少しでもまとめておこうと、このようなブログを書いていますが、これが、せいいっぱいです。

 わたしも、LPはほとんど手離してしまいました。バッハやジャズなどを聴き始めたのは割と最近なので大部分がCDですが、ブルックナーなどは、学生時代コツコツ集めたもので、ほとんどがLPでした。
 ただ、tonaさんのところにコメントさせていただいたように、MD登場以来、これは便利、と、CDもMDに入れてどんどん手離していき、図書館のCDなどもかたっぱしからMDに録音していったので、今は、MDばかり。
 小さいのでごちゃごちゃして何が入ってるのかよくわからないし、MDが風前の灯の現在、真っ青になってるところです。(笑)
2008年09月13日 00:29
 myさん、こんばんは。
 
 BACH COLTRANE というアルバムは、バッハとコルトレーンに心から心酔している(と思われる)アンベールというフランス人SAX奏者が作ったアルバムで、myさんのように、バリバリ実際のコルトレーンを聴いてこられた方には、ちょっと生ぬるいかもしれません。音楽の傾向も、どちらかというと、コルトレーン晩年の、フリーな雰囲気を志向しているようです。
 わたしももともと、クラシック風ジャズのアルバムにはちょっと抵抗があるのですが、これは、アーティストがあまりにも誠実な姿勢で取り組んでるいので、取り上げてみました。
 もしよろしかったら、お聴きになってみてください。

 それにしても、コルトレーン、ドルフィー、ミンガス、
 60年代というのはほんとうにすごいですね。
 クラシックもそうですが、ジャズにおいても、あこがれの黄金時代です。
(テイタムやハインズは、ちょっと古すぎましたね。)
Nacky
2008年09月15日 00:30
Noraさま

この日記を拝読し、恐いもの見たさにCDショップを覗き。。。。。

買ってしまった。。。。_| ̄|○

紙のCDジャケットがいい!!
バッハ以前の音楽はバッハに集約され、
バッハ以降の音楽の源流はバッハにありを実感できる
といったら大袈裟でしょうか??

本当に楽しめる1枚です。
2008年09月16日 21:19
 Nackyさん、買ってしまわれましたか。
 はははは・・・・って、笑ってごまかすしかないですが、結局気に入ってくださったようで、ほっと胸をなでおろしております。
 Nackyさんにはいろいろと教えていただいてるので、お返し(しかえし?)ということで。
 ジャケット、ほんとにいいですよね。
 内容も、まあ、正統派のCDではなく、バッハとコルトレーンということで、スピリチュアルな存在同士を安易に結び付けてるのかな、と思ったのですが、それなりにきちんとしたコンセプトに基づいて、しっかりと作られていて、おっしゃるとおり、バッハの大きさを実感できる1枚だと思います。
 結論としては、やっぱり、バッハはすごい!ということでしょうか。

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