今月の美術展等~江戸浮世絵と孤高の北欧絵画【宗教改革記念日、三位一体節後第24日曜日】

 日曜日の前に、まず、あした、10月31日(金)が、宗教改革記念日。

 カンタータは、
 BWV80
(コラールカンタータですが、第2年巻とは一概には言えない。生涯にわたって何度も改作)
 後期のBWV79129
 の3曲です。

 すべて、たいへんな名曲。

 同日の過去記事は以下のとおり。(連載)

 BWV80についての詳細から、ガーディナーのSDG盤のご紹介
 さらには、「バッハの最後のカンタータは?」()に続く計4回は、
 バッハの最晩年とバッハ親子をめぐる連続ものになってます。
 昨年も言いましたが、相当気合を入れて書いたので、時間と体力のある方は、ぜひ、見てくださいね。



 そして、今度の日曜日(11月2日)は、三位一体節後第24日曜日。

 カンタータは、

 第1年巻のBWV60
 第2年巻(コラール・カンタータ)のBWV26

 の2曲です。

 同日の過去記事は、こちらこちら


 アルバン・ベルクが白鳥の歌にそのコラールを引用したことで知られるBWV60
 もはやこの世のものとも思えぬ響きを持ったコラール・カンタータのBWV26
 聴き応えのある曲が並んでいます。



  *    *    *    *    *    *



 さて、芸術の秋、ということで、今月は、これまで書いてきた以外にも、いくつか、展覧会等に行きました。
 今日は、印象に残ったもののメモ。



 10月13日(月・祝)


 ボストン美術館 浮世絵名品展  at 江戸東京博物館

  (~11月30日(日)まで)


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 春信から、歌麿、写楽、北斎、広重、国芳まで、おなじみの浮世絵の名品がズラッと並んでいて、順番に見るだけで、江戸中期から幕末にいたる浮世絵の大まかな流れを、俯瞰することができます。
 特筆すべきは、保存状態の良さ。
 今回の浮世絵展は、ただの浮世絵展と違って、海外でものすごーく大切にされていた作品の里帰り展なので、
 とにかく色が鮮烈、細部の刷り込みもそのまま残っていて、これまでの浮世絵のイメージを覆すかのような美しくカラフルな作品が多く、原色の江戸の世界にどっぷりつかれます。
 何て、幸せ。 


 中でも、やはり、春信がすばらしかった。
 その名のとおり、まるで春風のような、やわらかなライン、やさしくあたたかい色調、着物や家具、調度品など、細部にまで丁寧に描きこまれたデザインの繊細さ、そのすべてが、時をはるかに越えて、江戸の美しさを実感させてくれます。
 それにしても、春信の絵を見ていると、杉浦日向子さんの漫画を思い出してしまう。
 数ある浮世絵の中でも、やはり春信がお気に入りだったんだな、と思いました。
 そういう意味で、日向子さんこそ、春信のよいところをしっかりと受け継いだ「直弟子」といってよいのかもしれない。


 tonaさんのブログで、紫式部ゆかりの近江の石山寺を訪れた記事を読んだところでしたが、
 紫式部が源氏物語の構想を得たと言われる「近江八景」の「石山寺秋月」を見立てた絵もあり、感激してしまった。

 こちら

 鏡が月、その周囲のいたるところに波模様。さらに窓の外には薄がゆれています。
 江戸時代の好事家は、これを見て、石山寺秋月の情景を思い浮かべて楽しんだのだ。何て風流。


 また、当時、上等な装束を着こなした粋なカップルが、なぜか編み笠と尺八をぶらさげて、虚無僧をきどるのがはやっていたそうで、(伊達虚無僧)その絵がやたらおかしかった。→こちら
 この絵など、古の江戸の風物が、目の前に鮮やかに広がるかのようです。


 北斎や広重は、おなじみの見慣れたものばかりでしたが、色彩のあざやかさに、びっくり。
 こんなにもカラフルだったのか!
 まるで、初めて観る絵のように、心に迫ってきました。
 必見。これだけでも価値があります。


 また、保存のよい作品で見ると、国芳のとんでもないうまさがよく伝わってきた。北斎や広重に比しても決して遜色の無いどころか、さすがに少し時代が後ならではの洗練さが見られる。

 西洋画みたいな、司馬江漢の風景画もユニーク。

 歌麿の描く人物の口は、全部ハートマークでした。→こちら

 あと、やはり、歌川国政の異端さが際立っていた。


 浮世絵名品展公式HP



  ☆    ☆    ☆



 浅草今昔展  at 江戸東京博物館

  (~11月16日(日)まで)


 江戸博の常設展の方でやっていた企画展です。


 まず、記録や出土品から明らかになっている、浅草寺のあまりの歴史の古さにびっくり。


 また、本堂裏の奥山で行われていた、たくさんの見世物、出し物の展示がとてもおもしろかった。

 まず、驚かされるのは、見世物小屋の多いこと。
 当時の案内図も展示されていたが、広大な境内中、びっしりと見世物小屋で埋め尽くされている。
 聖と俗の混じった、お江戸ならではのおおらかな庶民の生活が偲ばれる。

 そして、その内容の豊富さ。

 曲独楽や水芸など、おなじみのものから始まって、軽業、蝋、ガラス、麦藁などの細工物、
 めずらしい動物、
 あげくのはてには、ぜんまい細工の巨大なからくり人形まで登場し、禁制に触れて、撤去させられたとか。

 あと、浮世絵展などで必ず出てくる、お江戸のアイドル、楊枝屋のお藤さんも、もちろん登場。

 ここにも春信の美しい絵がありました。

 こちら

 ただ、上のボストン美術館のものと比べると、やはり状態は悪い。


 それにしても、浅草寺奥山、何て楽しそうなんだ。
 みんな見てみたい。


 ・・・・と思ってたら、何と、こんなイベントが!
 
 江戸町「浅草奥山風景」 (浅草大観光祭)

 これは、もう、行くしかない。


 浅草今昔展公式HP



▽上記展覧会とは直接関係ないですが、江戸博常設展の、美しい歌舞伎の衣装。 

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  ☆    ☆    ☆
  


 10月23日(水)       


 ハンマースホイ展 静かなる詩情  at 国立西洋美術館

  (~12月7日(日)まで)
 

 北欧の孤高の作家の、日本初の大回顧展。

 まったく聞いたことのない名前でしたが、rbhhさんがご自分のブログに書いてらっしゃるのを読んでから、いったいどんなものか見てみたいと思っていたので、行ってみました。
 その記事を読まなかったら、おそらく見逃していたでしょう。いつもながら感謝。
 
 人物画は、ほとんどが奥さんの後姿ばかりという触れ込みでしたが、意外とこちらを向いている絵も多く、しかも、かなり特徴的な顔のため、見ているうちにすっかり知人みたいになってしまい、後姿の絵を見ても、その顔が思い浮かんで、閉口してしまった。

 それにしても、この人、20年以上にわたって部屋と奥さんを描き続けたわけですが、その間、部屋はまったく同じで、奥さんも黒い服を着続けてたのでしょうか??


 そして、そんな感じで、
 まあ、こんなものか、と思いながら、たどりついた最後の部屋、
 奥さんの後姿さえもが姿を消し、そのかわりに、窓枠の形そのままの光と影などだけが描かれている、
 「誰もいない室内」シリーズが、

 圧巻!

 思わず息を飲んでしまった。


 この人は、部屋そのもの、建物ならば外枠そのもの、
 つまりわたしたちの生活を取り囲む器自体の、時の流れとともにそのまま廃墟につながるような、ある意味空疎な美しさに取り付かれたのでしょう。

 何となく気持ちはわかるような・・・・。


 奥さんを描いた絵では、晩年の多少、カラフルな、温もりのある絵の方に惹かれた。
 始めの頃のモノクロームな作品の方が芸術的緊張は高いのかもしれませんが、やはり、愛する人をあたたかい光の中に置いた絵の方に、わたしは惹かれてしまう。


 上野の森では、ちょうどフェルメール展も開催されています。
 構図や光の感じが、フェルメールとよく似ていると言われているようですが、実物を見る限り、両者は根本的にかけはなれているようです。
 
 フェルメールはあいかわらずの人気ですが、こちらの方は、ゆとりを持って鑑賞できます。
 どちらが好きかと言われれば、強いて言えば、ホイさんの方か。
(わたしはホイさんと呼ぶことにした)
 

 ハンマースホイ展公式HP

  
▽ モダンですっきりと美しい、ル・コルビュジエ設計の本館。
  ホイさんの絵そのもののような色合いの、重いモノクロームの雲が垂れ込めていた。

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そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2008年10月31日 09:35
Noraさん
御無沙汰しております。
PCのトラブルもあってブログの更新もままならず、個人的な事情も重なって失礼しておりましたが、種々の状況も好転の兆しが見えてまいりまして気持ち的に復活です。ブログへのコメントというより近況報告に終始しますが悪しからずお許しくださいね。

ここ何か月かクリスマス・コンサートの準備で忙しい毎日です。
プレトリウスやクレメンス・ノン・パパといったルネサンス期の宗教曲を中心に、各パー2~3人の小さな演奏会。合唱の間にリコーダーやヴァイオリンのソロも入ります。
私はナレーターでの参加。毎回音楽が生まれ、音楽が作られていく場所に同席させて頂くという素敵な経験にその都度胸をどきどきさせています。
Noraさんがお近くでしたらしたらぜひにもおいで頂けますのに、とっても残念。
えっ?おいでになりますか?
もしそんなことが実現しましたなら熱烈歓迎!!(私の夢です。)
2008年10月31日 09:38
そうでしたね。
今日31日は宗教改革記念日、確かプレトリウス作曲の”Ein feste Burg ist unser Gott ”「神はわがやぐら」も有名ですね。
賛美歌「神はわがやぐら」はルターが編曲しているのかしら?
バッハの3曲も聴いてみます♪

おまけのお知らせです
私のブログのURLが変わりました。
またお暇なときにでもおいでいただければ嬉しく思います。

2008年10月31日 23:46
 aostaさん、こんばんは。

> 御無沙汰しております。

 aostaさんのブログ、いつも読ませていただいています。
 それにしても、自分のブログなのに、何も操作できなくなってしまうようなことがあるんですね。
 まあ、何はともあれ、無事、新しいスタートをきられたとのこと。何よりです。

 ところで、コラール「神はわがやぐら」ですが、ルターの方が100年近く前の人なので、プレトリウスの方が編曲した、ということでしょう。
 この有名なコラールは、ルター本人が作曲したものです。

 BWV80は、このコラールを基にしたコラール・カンタータですが、バッハは最晩年にいたるまで手を加え続け、最後には、このコラールを徹底的に展開しつくした、大カンタータに仕上げました。
 バッハがこのコラールをこんなにも大切にしたのは、他ならぬ、ルター自身のコラールだったからに他なりません。
 この思いは息子にまで引き継がれるのですが、そのことについては、上の記事からリンクしている過去記事にも書きましたので、ヒマな時にでもご覧になってください。
2008年10月31日 23:48
 続き。

> バッハの3曲も聴いてみます

 前記したBWV80を筆頭に、宗教改革記念日のカンタータはどれもたいへんな名曲なので、ぜひお聴きになってみてください。

 BWV79はそれほど知られてはいませんが、小ミサ曲の原曲で、もちろん大傑作。
 小ミサ曲BWV236・キリエのあの優しい音楽は、もともとは、ティンパニ連打付きの勇壮な音楽だったのです。(BWV79冒頭合唱)
 ティンパニは、ルターが「九十五ヶ条の論題」を打ち付けている様子をあらわしている、という説もあるようです。 

 BWV129は、三位一体節用の可能性もあるのですが、後期の「テキスト・カンタータ」の傑作です。
 この曲も、すばらしいコラールが基になっています。
2008年11月03日 09:04
「石山寺秋月」初めて知りました。
絵まで拝見できましたが、本当に鏡、薄等で石山寺の秋月を思い起こすとは!!私などは風流のかけらもないです。
ボストンなどアメリカに渡った浮世絵が大切にされているとうことが嬉しいです。
杉浦日向子さんの漫画は読んだことがないですが、春信の直弟子といってよいそうで、新しいことを知りました。
「ハンマースホイ」展は、娘が行きたいと言っていましたので、私も行きたいと思っておりました。ご紹介を参考にさせていただきます。ありがとうございました。
2008年11月03日 22:23
 tonaさん、こんばんは。
 当時の好事家たちは、絵暦交換会というのを開いて、暦が隠された絵や、何かを見立てた絵を持ち寄って、その美しさを競い合い、謎解き等を楽しんだようです。浮世絵は、そのようなところから発達していったというのだから、ほんとに風流ですね。

 わたしは、杉浦日向子さんの漫画を見て、江戸時代にあこがれるようになりました。春信の絵には、日向子さんの漫画で見た、粋でやさしい世界がそのまま描かれていて、感激しました。ですから、「直弟子」というのは、あくまでもわたしが勝手に言ってることですが、江戸というと、真っ先にこの二人の名前が浮かびます。

 ハンマースホイは、デンマークでは、とてもよく知られた画家のようです。
 日本でこのように主要作品が一堂に会することはあまり無いと思いますので、貴重な機会かもしれません。
 モノトーンの作品が多いので、これからの季節には、ちょっと寒々しいかもしれませんが。(笑)
my
2008年11月06日 10:49
 Noraさん、おはようございます。江戸東京博物館には1度だけ行ったことがあります。それは平成の初めに仕事の一環としてです。職場からバスで行ったのですが、小雨が降っていて寒い日でした。中に入ると大きな日本橋?が架かっていたのを覚えています。歌舞伎の展示もありました。実はその歌舞伎は < 助六 > で團十郎さんを模したものだったと思います。何とNoraさんのこの写真と同じだったんです。(私の記憶に間違いがなければ)ですが。やはり江戸ですから、 < 助六 > ですね。Noraさんのこのブログを拝見させて戴き、あの時のことを思い出してしまいました。
 花道から現われる 助六 と 傾城揚巻 のお写真、ゲットさせて頂いて宜しいでしょうか。本当に楽しい記事です。Noraさん、ならではですね。それでは失礼致します。
2008年11月07日 00:43
 myさん、こんばんは。
 そうです。まず入っていくと、日本橋がかかっていて(あまりにぎやかではないですが)、下のフロアの天下祭りの山車や、歌舞伎の中村座が見下ろせるようになっています。
 myさんがご覧になった時も、同じ人形でしたか。
 歌舞伎の展示が「助六」だと教えていただいて、いろいろと調べてみましたが、江戸っ子たちに大人気の演目で、正月によくやっていたということで、そう思って写真を見ると、いっそう華やかに感じられます。

 歌舞伎は一度見てみたいのですが、なかなか敷居が高く感じられます。
 今度、銀座の歌舞伎座が建て替えになるそうなので、その前に一度は見てみたいと思ってます。
 myさんのブログの記事等を見て勉強したいと思っています。
 なお、写真は、どうぞご自由にお使いください。
koh
2008年11月15日 21:05
こんばんは。ごぶさたしておりましたが、おじゃまいたします。
病気上がりのリハビリを兼ね、「ボストン美術館浮世絵名品展」行って参りました。平日でしたがえらく混雑していて、こんなに多く浮世絵愛好家の方々がいらっしゃるのか、とびっくりしました。泰西名画などと較べると地味な分野だと思っていましたが。

どの作品も魅力的でした(Noraさんおっしゃっているように色が鮮やか)が、やはり春信の美人画と広重の風景画がいちばん好きです。
それと、あまり知らない名前でしたが、歌川国政というひとの役者絵がすごいと感じました。顔の表情の力強さと色使いがすばらしかったですね。
2008年11月16日 23:45
 kohさん、こんばんは。
 kohさんも、ご覧になりましたか!
 わたしが行った時は、混雑もまだそれほどでもなく、ゆっくり1枚1枚鑑賞することができたのですが、やはり、終了日が迫ってくると、どうしても混んでしまうのでしょうね。
 春信などは小さい絵が多いので、細かいところまでご覧になることができていたら、よいのですが。
 
 歌川国政には、わたしもびっくりしました。
 ほとんどデザイン画ですね。写楽よりも個性的かもしれない。
 でも、大衆の求めるブロマイド的な方向性に対応しきれずに、それほど長くは活躍できなかったようです。今こうして国政などを鑑賞できるのも、外国人が大切に保存してくれたおかげかもしれません。

 それでは、だんだん寒くなってきたので、風邪などには十分気をつけてくださいね。

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