ドラマ「冬構え」、小説「鴨川ホルモー」と薬師寺金堂中尊宣字形須弥座、ほか【三位一体節後第17日曜日】

 すごいドラマを観てしまった。

 先週の土曜日の朝、NHKアーカイブスでやっていた

 「冬構え」

        (1985年、山田太一)

      
 笠智衆演じる老人が、東北を一人旅する「ロード・ムービー」。
 (映画じゃないけど、ロード・ムービーとしか言いようがない。)

 老人や熟年のおじさんが主人公のロード・ムービーと言えば、デビッド・リンチの「ストレイト・ストーリー」を筆頭に、「月曜日に乾杯」や「バテュニョールおじさん」など、たくさん忘れられない作品があるが、この「冬構え」、テーマはどの作品にも増して深刻ながら、物語の面白さなど、なかなか。

 何よりも、あの穏やかで泰然自若とした佇まいの笠智衆の姿と(実は言い知れぬ孤独と悲しみを抱えているのだが)、次々と映し出される東北の名所の、美しい晩秋の風景を観るだけでも、価値がある。というか、その一点にこそ、はかり知れない価値がある。

 驚いたのは、 
 小津安二郎がどれだけ頼んでも、「熊本の男は泣かない」と言って、小津映画では最後まで一度も涙を見せる演技はしなかった笠智衆が見せた、一世一代の慟哭の涙。
(作品上必要かどうか、などは別にして、ただただびっくりした)

 二人の老人がさびしく静かに微笑みあうラストシーン、それまで一度たりとも笑わなかった藤原釜足が見せる笑顔の、何というやさしさ、力強さ!

 まったく行き場が無いような、どうしようもないような状況でも、思いもかけないところに、ぼんやりと逃げ場が見えてくることもある、ということか。



  ☆    ☆    ☆



 TVドラマと言えば、

 昨年、わたしを、ほんとうに久しぶりに、再び奈良に誘ってくれた、TVドラマ、「鹿男あをによし」

 その原作者で、天才奇才の誉れ高い万城目学さん(まきめ・まなぶ、ウルトラQの万城目(まんじょうめ)博士と同じ字だが、読み方が異なる)の処女作が、

 「鴨川ホルモー」

 今日は、その「鴨川ホルモー」についてちょっと書きたいと思います。



 すでに傑作として評価が定まっている作品を何でまた今さら、と思われるかもしれませんが、
 実は、来る10月8日に、ついに映画「鴨川ホルモー」のDVDレンタルが開始されるのです。

 「浪花の華」などでお気に入りの栗山千明さんが凡ちゃん役だということもあり、早速レンタルして観ようと思うのですが、
 「鹿男あをによし」の時、ドラマを観た後で原作を読んだら、あまりにもドラマがよくできていて、原作の世界観を見事に表していながら微妙に異なる点もあって、それらが混ぜこぜになり、原作を読んでいてわけがわからなくなってしまった、という苦い経験があるため、
 今回は、DVDを観る前に、原作を読むことにしました。



 わたしは本を読むのが遅い方なので、ちょっと早めに読み始めたのですが、あまりのおもしろさに夢中になって、ほとんど一瞬で読了。

 うわさ通りの作品でした。
 小説を読んで、こんなに笑ったのはひさしぶり。


 「鴨川ホルモー」を中心にした伝奇小説の体ですが、
(早くも意味不明だと思いますが、どうしても意味を知りたい方は、原作を読んでください。わたしの口からはちょっと・・・・)
 これは、完全に、ものすご~~くスタンダードな、恋愛青春小説。
 誰もが身に覚えのあるような、一途な、一途過ぎて傍から見たらまぬけ以外の何物でもない恋愛感情、
 本人からすると、何よりも重大で深刻なのですが、実は空回りにすぎない恋愛感情、
 まあ、かんたんに言うと、「片思い」、を、
 ストレートに、そして美しく描ききった、実に見事な恋愛小説です。


 そうなると、当然のように、なんで、「ホルモー」なのか、という疑問がわいてきます。

 ホルモーとはある競技なのですが、恋愛小説なら、物語の骨子となる競技は、テニスやバスケなどのスポーツ、または、ロボコンでも、俳句でも、何でもいいのでは、
 と、思えてしまいますが、
 よく考えてみると、やはり、ここは、「ホルモー」なのです。
 「ホルモー」でなければならないのです。
 「ホルモー」という、まったく理不尽で無意味だけど、わたしみたいな歴史や伝奇ものが好きな人間からすると、妙にリアリティがある競技?が中心にそえてあるからこそ、
 これが、「ホルモー」というものに、真剣に向き合い、青春を捧げている若者たちの片思いであり、恋だからこそ、
 そのせつなさ、美しさ、が何倍にも際立ち、胸に迫ってくるのです。

 考えてみれば、「ホルモー」みたいに、無意味だけれどなんとなく大切なような気もすることに夢中になるのが、青春時代かもしれません。
 そう考えると、わたしも、何だか「ホルモー」をやってたような気が・・・・。


 それにしても、作者の表現上の強引な力技は圧巻です。
 「ホルモー」という、基本的に1チーム10人という団体競技?を中心にしながら、人物描写は主人公周辺のごくごく限られた数人の登場人物に限られ、
(そのくせ、その数人に関しては、妙に細かく、しつこいほど)
 京都中を巻き込んでの物語なのに、舞台もほんの数箇所だけに絞り込まれている。
 それでいて。「ホルモー」の試合の場面などは、大迫力で、参加している全員の表情までもがはっきりと見える(ような気がする)ところがすごい。

 物語も、たっぷり2年間にわたる大河ドラマ?なのに、ページ数は、わずか300ページにも満たない。
 もっとも、これは、主人公たちが、その間のほとんどすべてを、空虚な片思いに(そして残りのほんのちょっとを、ホルモーに)捧げているので、まあ、こんなものか。
 やっぱり、実際の青春時代も、似たようなもの?



 ところで、わたしが読んだのは、文庫版ですが、なぜか表紙の絵が、「サージェント・ペパーズ」のパロディになっている。しかも、ちょっと中途半端な。
 この作者のことだから、何か、ビートルズに係わることが、作品中に暗示でもされてるのかな、と思って、読み返してみましたが、ちょっと見当がつかない。
 そうしたら、どうも、単行本の表紙が、作者の希望で「アビー・ロード」のパロディになっていて、それにちなんだ、ということみたい。
 これらも含め、万城目学さんの本のイラストは、すべて同じ人が描いているが、(石居麻耶さん)
 どれも、「青春」を感じさせて、郷愁を誘い、すばらしい。
 


 さて、ちょっと話が飛躍しますが、
 この小説を読んで、真っ先に思い出したのは、
 この春に見てきた、薬師寺の有名な金堂中尊薬師如来台座。(国宝・正式には宣字形須弥座)。


▽ 北面・玄武の絵(模写)

画像



 この台座には、四方四神が描かれているばかりか、
(「ホルモー」は、それぞれ四方四神に相当する京都の4つの大学間で競われる。主人公の京大は、東の青竜)
 「ホルモー」の「オニ」みたいなインドの鬼神がたくさん描かれている。
 特に、写真まん中の、まるっこいのが、イメージに近い?

画像


画像



 この台座、金堂内の実物は、懸裳が大きく垂れて、見づらい上に、(特に正面)もちろん撮影禁止ですが、東僧坊に、見事なレプリカがあり、撮影OK。

 せっかくなので、全体をご紹介しましょう。

 かまち上段は、はるか西方のギリシャ文様、下段はペルシャ文様で飾られ、中央の窓からインドの地神(鬼神)がのぞき、下がまちに、中国の四方四神が配されている。
 正に日本がシルクロードの終点であることを象徴する、ワールドワイドな超一級の工芸品。


 南面(正面)

画像
画像


 東面 

画像
画像


 西面

画像
画像

 
 「白虎」が、細長くて、ほとんど「青竜」と変わらないのがおもしろい。

 ところで、不覚にも、北面の「玄武」の面を撮り損ねた。
 しかも、これは背面にあたり、普段は絶対に見ることができません。
 しかたないので、「玄武」は自分で描きました。

 上にのせた、カメにヘビがからまっている絵がそれです。↑
 北面は、この「玄武」以外は、だいたい南面と同じとお考えください。


 しかし、この「オニ」たち、窓から何体かがこちらをのぞいている、ということは、中にうじゃうじゃといる、ということか。
 ますます、「ホルモー」の「オニ」みたい。



 「鴨川ホルモー」、いずれにしても、DVDが楽しみ。


 「鴨川ホルモー」 続編の「ホルモー六景」と、大阪を舞台にした「プリンセス・トヨトミ」も、発売中。
 速攻で読もう。


 あんまり関係ないけど、同じ頃、「釣りキチ三平」もレンタル開始予定。(笑)



 以上、今日もいくつか、TVドラマのことを書きましたが、 
 前にも書いたように、わたしはけっこうTVドラマ好きで、今でも、毎クール、それほどおもしろくなくても必ず何本かは見続けるのですが、ところが、この頃、特に今年は何だかおもしろくない。

 この夏のドラマで、最後まで見通したのは、「怨み屋本舗 REBOOT」だけ、というありさま。(笑)

 この秋・冬クールには、大いに期待したいと思います。

 特に、洪庵先生が出てくる、「幕末タイムスリップ医学」もの、(あの村上もとかのコミックが原作)

 JIN -仁-

    (TBS系日曜劇場 10月11日(日)夜9:00スタート)

 には、期待。洪庵先生が武田鉄矢というのが、ちょっと・・・・、だけど。

 公式HP



  *    *    *    *    *    *



 最後になってしまいましたが、
 
 今度の日曜日(10月4日)は、三位一体節後第17日曜日。

 カンタータは、
 おそらく第1年巻のBWV148
 第2年巻(コラールカンタータ)BWV114
 後期のBWV47
 の3曲です。

 過去記事は、こちらこちら



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

画像





この記事へのコメント

2009年10月05日 09:40
万城目をこの人の場合、まきめと読むのですか。
ホルモー、初めて知っりました。1000年の歴史ありでびっくりです。
京都の大学で実際にやっているのですね。薬師如来台座をじっくり拝見させていただきましたが、東方の青龍と小説設定の京大の青竜会を並べてくださって、とても面白かったです。
いろいろなことに造詣が深いので、Noraさんから教えていただくことばかりです。追い付いていけませんが。
2009年10月05日 12:37
 tonaさん、こんにちは。
 ごめんなさいーーっ。(冷や汗)
 マキメさんは、歴史ファンタジーを得意とされる方で、「ホルモー」は、京都に古くから潜む小鬼を使役して戦う、というマキメさんの想像上の競技なのです。
 tonaさんのコメントを読み、わたしの記事を読み返してびっくりしました。「ホルモー」の詳細について一言も説明してないばかりか、さも当然実際に存在する競技であるかのように、いつもの知ったかぶりな調子で書いているではありませんか。これでは、「鴨川ホルモー」を未読で、わたしの記事を読んだ多くの方が「ホルモー」を現実の競技だと思うでしょう。
 何人かの方が、京都出身の知人の方に、「ホルモーってどういうの・・・?」などと聞いてらっしゃるんではないかと思うと、真っ青になります。
 これも、ひとえに、現実と空想の区別をつけようとしないわたしの脳と、文章力のなさのせいです。
 今後、十分気をつけようと思いますので、お許しのほどを。

 なお、「ホルモー」はフィクションですが、わたしは、実はこのようなものが実際に伝わっているのではないか、と、密かに信じております。
(まだ懲りてない・笑)
 <(_ _)>
2009年10月06日 16:32
いえいえ、とんでもありません。
何も知らない私こそ勘違いもはなはだしいです。
考えただけでもわかることですよね。
こちらこそ失礼しました。
これに懲りずにまた楽しい記事をお願いいたします。
2009年10月07日 22:40
 tonaさん、ごていねいに、ありがとうございます。かえって申し訳ありません。
 まあ、そもそもの原因は、京大など実在の大学名を出していかにももっともらしい作品に仕立てあげた、マキメさんかもしれません。(笑)
 「ホルモー」はフィクションですが、薬師寺台座を見てもわかるように、四方四神や陰陽五行などの考え方は、日本の古い文化の根底にまで浸透しているので、実際に鬼こそ登場しないものの、「ホルモー」を思わせるような?祭事や行事等は、京都や奈良、そして江戸東京にも、いくらでも残っていると思います。
 そういう視点でお祭りなどを見るのも楽しいかもしれませんね。

この記事へのトラックバック

過去ログ

テーマ別記事