夏の扉を開け放つ。とっておきのブルックナー&ヘンデル、他~音楽DVD特集【三位一体節後第6日曜日】

 今度の日曜日、7月11日は、三位一体節後第6日曜日。


 カンタータは、BWV170BWV9

 どちらも、後期を代表する名曲です。


 東京地方、梅雨明けはまだ。
 いや、それどころか、今年も、全国的、いや世界的とも言える深刻な天候不順が続いていますが、

 アルトの名作、BWV170などを聴くと、いよいよ夏の扉が大きく開かれるのを見る思いがします。せめて気分だけでもさわやかになりたいもの。


 過去記事は、こちら。↓


 <三位一体節後第6日曜>

  きらめく夏の、名作カンタータ・たまにはきちんと曲目解説(BWV170、9)



  *    *    *    *    *    *



 今年上半期のCD紹介、途中ですが、
 今回はちょっと趣向を変えて、DVD特集。初めてかな?

 BWV170にちなんで、何となく夏らしいものを中心に。



 まずは、ブルックナーから。

 ブルックナーの交響曲は、意外と夏に合います。
 特に、4番、7番、あたりは、すっきりとしてさわやかな部分も多く、今のような季節にいいかもしれません。

 そんな第4番と第7番の、若く輝かしい力に満ちた演奏を収録した、すばらしいDVDがリリースされました。
 この機会にぜひ。


 ブルックナー 交響曲第4番、第7番

    ティーレマン、ミュンヘン・フィル


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 昨年のハイティンクも、今年のティーレマンも行かれなかったので、
 早速購入して、穴が開くほど観ました。


 以下、映像を観た印象。

 ティーレマン、巨体の割に、童顔。そこそこの歳のはずですが、少年のような顔をしている。

 だけど、指揮を始めると、目は、猛禽類のような力強い目に一変する。
 昔、同じミュンヘンにいた、カール・リヒターと同じ目。純真だが、恐ろしい、常に心の真実を語ろうとする目。

 指揮自体の動きは、まるでどこかの巨匠指揮者みたいに極端に少ない。少ないけど、一つ一つの動きはものすごく大きい。これも某大巨匠と同じ。ミュンヘンの伝統なのか?

 全体的に、突如として音楽のメインの進行リズムとまったく異なるリズムで身体を動かす場面が頻出。
 時として、ずれてるんじゃない?ひょっとしてリズム音痴?と思えてしまうくらいだが、
 これは、ブルックナーならではのことで、実際に音楽が進行しているのとまったく異なるリズムで、対位旋律や動機が重なってくることが多いため、その「対位リズム」を強調しようとしているのだ。

 わたしは、「ブルックナー・サウンド」などという実体のよくわからないものより、この「対位リズム」をはじめとする天啓に満ちた対位法の妙こそが、ブルックナーの醍醐味だと思うが、その点、ティーレマンが生粋の「ブルックナー指揮者」だということは、一見しただけでわかる、というわけだ。


 その他、たくさん書きたいことがあるが、特にすばらしい点を、もう一つ。

 それは全曲の終わらせ方。
 すさまじい気迫でオケに気合いを注入し、音楽はどこまでも盛り上がってゆくが、自分自身は常に冷静で、淡々と、と言ってもいいくらい。
 やがて、コーダ。圧倒的な最後の和音。
 興奮気味に手を振り下ろして曲を終わらす指揮者も多いが、ティーレマン、音を長く、慈しむように伸ばし、それが鳴り終わってもなお、手を高く差し伸べたまま、まるで、響きのすべてが空中に消えてなくなるその一部始終までをも、指揮しているかのよう。

 完全な静寂が戻ってから、やっと手をさげ、しばらく祈るようにした後、ようやく力を抜き、笑顔を見せる。
 ここで、大拍手、大歓声が湧き起こる。
 理想的なエンディング。彼は、正にこの時、空間のすべてを支配しているのだ。
 これこそが「指揮者」という特別な存在の、本来のあるべき姿なのだろう。

 はじめ、登場した時は、髪をびしっと七・三に分けて、いかにも「クラスのまじめ君」という感じだったが、
 いくら動きが少ないとは言え、曲が終わる頃には、髪は乱れて、なぜか見事なおかっぱになり、
 「いつもふざけてるクラスの人気者」、といった風情になっていた。

 盛大な拍手に応えながら、髪をペタペタとなでつけ、必死に原状復旧を図ろうとしている姿には、思わず微笑ましくなった。


 演奏(音楽そのもの)について書くスペースはほとんどないけれど、これはもう、言うまでもなく、名演。
 コンポのデッキで、音だけも聴いてみたのだが、これまで聴いた、あらゆる4番、7番と並ぶような、たいへんな名演だと思う。
 音だけ聴いてみると、響きが例えようも無くたおやかで美しいことに驚嘆する。

 どちらも、特にフィナーレがすばらしい。
 4番フィナーレの奥行きの深さはただごとでなく、例えば、コーダの、音がどんどん積み上がってゆく部分の3連音のリズムを、これほど、まるで大地が鳴動するかのように刻み込んだ例は、他に知らない。
 7番フィナーレの、元気一杯、颯爽として躍動感に満ちた表現も、この曲の本来の魅力を思い出させてくれる。
 

 DVDのブルックナーでは、
 朝比奈さんの第8番(N響)、第5番(シカゴ響)、マタチッチの第8番(N響)とともに、必携。


 なお、ティーレマン、今後、ドレスデン歌劇場の音楽監督就任が予定されているとのことで、
 この度、いよいよ、第8番の、ドレスデン・シュターツカペレとのライブ録音がリリースされます。

 新世紀の名盤、ついに誕生か!?


 ティーレマン指揮、第8番のHMVニュース



 ついでに、これは、これまで何度も書いたものだけど、観れば観るほどすごいので、またのせてしまおう。

 この曲も、「夏の交響曲」と呼ばれるだけあって、今の季節にぴったりだし。 


 マーラー 交響曲第3番 (DVD)

    アバド、ルツェルン祝祭O


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 圧巻はやはりフィナーレですが、
 第1楽章、夏の行進曲、真夏がすさまじい勢いで押し寄せてくる感を、今こそ体感しましょう。


 アバド、なんとか元気になってほしい。

 あなたが到達した今現在の境地の、今だけの、ブルックナーが聴いてみたい。



 次に、ヘンデルのとっておきのDVD。


 ヘンデル アティスとガラテア

    ドゥ・ニースほか


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 神話に基づく牧歌劇(マスクだかパストラーレだか)のこの曲も、夏らしいと言えなくもない。


 以前、記事にも書いたライブの正規映像がリリースされました。

 オペラとバレエのコラボみたいな舞台。
 歌手とダンサーのダブルキャストが、重層的な舞台を繰り広げて、おもしろい。
 その中で、アチス役、おなじみドゥ・ニース嬢、ラストなど、歌いながら本職のバレリーナとからみ、本職真っ青な勢いで踊りまくり、すさまじい。
 わたしは、歌手の良し悪しはよくわからないが、この人は、やはりただものではない。
 敬意を評して、上の演奏家のところには、代表してニース嬢の名を書いておきます。
 実際、これは、彼女のための舞台と言っていい。

 それにしても、なんていい曲なんだろう。
 昨年来、記事にはしてないが、オペラも何曲か聴いてきた。
 でも、結局、ほとんど最初に聴いた、この曲の印象は強い。


 ちなみに、このライブ、DVD購入前はラストの映像しか観ていなかったので、恐ろしい海の怪物、ポリフェームスがどんな風に描かれているのか、密かに楽しみにしていたのですが、
 かなりのメタボおじさん(バスのマシュー・ローズさん。失礼!)が、ほとんんど布切れ一枚の半裸の身体におしろいを塗りたくっている、という体(てい)で、ある意味ものすごく恐かった・・・・。


 なお、ヘンデルには、まったく同じ題材を扱った初期のセレナータ、というか、世俗カンタータ、
(いわゆるイタリアン・カンタータの中でも最も規模の大きな曲)

 「アチ、ガラテアとポリフェーモ」

 という作品があるのですが、
(初稿とかいうわけでなく、まったく別の曲です。マスクの方が英語なのに対して、こちらはイタリア語。だから「アチ」となる)
 なんと、この「アチ」の舞台上演版のDVDもリリースされました。
 こちらは、注文していたのが、ようやく来たところ。
 この曲は、CDでもまだ聴いたことがないので(断片的には、アリア集等で聴いているが)、
 早く聴き比べて(観比べて)みたい。

 こちらのポリフェーモ(イタリア語になる)は、どんなかな。


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 「アチ、ガラテアとポリフェーモ」のHMVのページ 


 まったくエイシス(アチ)がらみばかりこんなに聴いてどうするんだ、と、我ながら思いますが、好きなんだからしかたない。



 ヘンデル、これだけでは何なので、もう一枚。


 バロックスター・ヘンデル


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 ヘンデルゆかりの土地を訪ねながら、ヘンデルの生涯をたどる内容。

 ヘンデルの生涯が、立体的に把握できるだけでなく、さまざまな代表曲の、最新の演奏を楽しむことができます。

 第一線で活躍するアーティストたちの、演奏&コメントシーンも多数収録。
 そういう意味でも「バロック・スター」か。
 CDジャケでは、いつもあんなに気合いの入ったメイク&ファッションのピオー姉さんが、
 なぜか近所のスーパーに買い物に行くようなジーンズ&タンクトップ姿で登場。
 それでも腰がぬけるほど見事な歌を聴かせてくれます。

 と、いうわけで、ヘンデル入門に最適。
 ただし、日本語字幕が、おもいっきり断片的かつ意味不明なところが多い。



 一応、バッハも一枚。

 グレン・グールド・バッハ・コレクション


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 今年前半は、けっこうこれを観た。

 グールドは、平均率第2巻のホ長調と変ロ長調のフーガがよほど好きだったんでしょう。
 わたしも、大大大好きです。
 この編集DVDでも、何種類か聴くことができ、どれもたいへんな名演だけど、
 これまで何度も書いてきた、あの神がかった最晩年の演奏は、やはり含まれていません。
 この演奏のDVD化、熱烈祈願!



 嘉手刈林昌追善公演 白雲の如に・・・

    登川誠仁 ほか


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 夏と言えば、沖縄、島唄。

 青空に力強く盛り上がる入道雲を思わせるようなジャケットの、島唄のDVDをご紹介しましょう。

 没後10年。しかし、ますますその存在感は大きくなるばかりの嘉手刈林昌。
 まさに、このDVDのジャケットのごとく、わたしたちのはるか上空、青空に聳え立っている観がある。


 没後10年記念のこのライブ、
 
 現代の沖縄島唄界を代表する錚々たる方々が一堂に会して、仲がいいんだか悪いんだか、息が合ってるんだか合ってないんだかわからない、ゆる~い舞台をくりひろげている。
 これらの方々に共通するのは、(たとえそれが「犬猿の仲」と言っていいようなライバル関係だったにせよ)今は亡き島唄の巨人、嘉手刈林昌と深い係わりがあった、ということ。

 これだけのメンバーなので、さすがに聴き応えありますが、どれも林昌の十八番だった歌ばかりなので、どうしてもこれが林昌だったら・・・・、と思ってしまう。
 今さらながら、林昌の大きさがしのばれるとともに、かけがえのないものがもう存在していないのだ、というさみしさにとらわれます。


 その中にあって、セイ小さんの徹底したマイペースぶりはさすが。
 愛弟子はじめ君も登場、先日聴いたライブで感銘を受けた、この師弟ならではの、「現代音楽風」不協和音すれすれの即興かけあいも、しっかりと映像に記録されています。

 やはり、林昌と正面から渡り合えるのは、この人くらいでしょう。

 こちらのページの一番おしまいにのせたCDジャケットをぜひご覧ください。

 恐ろしい・・・・。
 何だか二人とも、「向こう」に行ってしまったようなすごい絵ですが、
 セイ小さんは、まだまだ当分の間は、こちらで「自由な」歌を聴かせてくださるとのこと。 



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 宇宙の中における地球の美しさを、たっぷり堪能できるDVD。
 はやぶさの帰還で、すっかり宇宙モードになった心に、かけがえのない地球の美しさが自然にしみこんでくる。


 折しも今週は、七夕でした。
 七夕の日、東京は今年もまだ梅雨空で、星はまったく見えなかったけれど、
 星の世界に思いを馳せて。



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「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2010年07月09日 17:54
すごいじゃないですか、こんなに見て(聴いて)!!!
Noraさん、守備範囲広いですよね、私はブルックナーとかはダメですね~(^ ^;)
沖縄も何となく好きですが、ちゃんとCDやDVDで聴いたことはまだないです。
普段着(笑)のピオー姉さん(妹か?)も、面白そうですね。
この中で何か一つ選ぶとしたら、「アティス~」かなあ・・・例のヌードっぽい踊りのですよね。
歌も踊りも両方同時に堪能しようとすると、結構忙しくて大変かも!?
2010年07月11日 02:29
 REIKOさん、こんばんは。

> すごいじゃないですか、こんなに見て
 守備範囲広いですよね、

 一応、去年から今年前半の長い期間に観て、気に入ったものです。それに、一見守備範囲が広いようでいて、いつも、ほとんど同じものばかり聴いているような・・・・。(笑)

 「バロックスター」は、ピオーのインパクトが強すぎて書きませんでしたが、カーティスやらマルコン、ルセ、シェーファー、ダニエルズなど、わらわら出てきて、なかなか豪華版でした。ハンブルクだかどこかの、すごい仕掛けのオペラ座の映像も、ちょっと歌舞伎を思わせておもしろかったです。

> 例のヌードっぽい踊りのですよね

 REIKOさんのブログの記事などを拝見すると、最近のオペラなどは、凝った、というか、かなりひねった現代風の演出が多いようですね。
 まあ、バレエとの融合というのは、この曲の場合にはぴったりな気もしますけど、何もポリフェームスのおじさんまで(ほぼ)ヌードになる必要は無いように思うんですが・・・・。 

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