もう一人の放浪都市楽師あがたさんと由一「山形市街図」の建築たち(古い建築写真館付)【三位一体節後2】

 今度の日曜日(6月17日)は三位一体節後第2日曜日。


 カンタータは、

 ライプツィヒ第1年巻の、BWV75に引き続いて気合いは入りまくりの、BWV76
 2年目、BWV2

 の2曲です。

 
 過去記事はこちら


 <三位一体節後第2日曜>

    始まりはいつも Overture(BWV2、76他)
    (参考資料) コラールカンタータ年巻 「始まりの4曲」 一覧
    三位一体節後第2日曜日(BWV2、76)



 音楽と建築、絵画と建築



 時空を超えて、都市のさまざまなシーンに出現し、歴史的建築物等と音楽のコラボレーションを繰り広げる、放浪楽師、あるいは都市楽師、ジョングルール・ボン・ミュジシャンのことをこの前ご紹介しましたが、
 考えてみれば、先日、感動的な40周年記念ツアーを開催したあがた森魚さんも、常に都市の深層に溶け込み、やはり古き良き歴史的建築物を始めとする建築とのコラヴォレーションを行い続けてきたアーティストです。
 古いホール、昭和キネマの街並み、人影も絶えた12月末の夜の、都心オフィス街地下、皇居のお濠に架かる橋の上、そしてプラネタリウム、
 これまで聴いてきたあがたさんのライブを振り返ると、必ずどこか懐かしい建築や街の風景が鮮やかに蘇ってきます。


 この前は、ジョングルールの記事をまとめたので、
 今回は、あがたさんの、究極の音楽×建築コラボとも言えるライブの主な記事を、以下にまとめておくことにします。


 12月30日、夜のオフィス街に集う~あがた森魚スペシャルコンサート

 あがた森魚ライブ~今度の舞台は昭和キネマの街なのだ。(青梅宿アートフェスティバル)

 「海底2万マイル」に憧れて・あがた森魚とZIPANG BOYZ號の一夜 @ 九段会館

 RAMLA Autumn Festa 2009 あがた森魚スペシャルライブ @ みやこ橋

 おめでとう、そしてありがとう、あがた森魚さん!40周年記念ツアー 


 音楽におけるライブの重要性は、ことあるごとに繰り返し書いてきましたが、そのライブを構成する要素として、会場、場面、情景、ということも、はかりしれないほど大きな意味を持っているわけです。
 この前のヘンゲルブロックの来日ツアーで、2つのコンサートで、わたしが受けた印象がまるで異なっていたのは、曲目や演奏のためだけではないような気がします。



 音楽と建築。

 わたしは音楽を愛するように、建築を愛していますが、それらがうまく化学反応を起こした時、そこには予想だにしなかった感動さえ生まれます。

 エリック・ドルフィーの有名な言葉通り、音楽は一瞬で消え去るものですが、建築は「凍れる音楽」の例え通り、そこに存在し続けるものです。
 決してとらえることができない音楽が、揺るぎない建築の中に溶け入る。共鳴する。
 しかしながら、その建築にしても、決して確固たるものではなく、悠久の時の中では、いつかは崩れゆく運命にある、
 うまく言えませんが、そのあたりの大きな連鎖、流れが、わたしには特別魅力的に感じられるのかもしれません。



 そんないつかは滅びゆく運命にある建築ですが、それを永遠に画面の中に刻み込もうとした画家がいます。


 これもついこの前、ちょこっと記事を書いた、高橋由一です。

 記事はこちら↓

 近代洋画の開拓者 高橋由一 @ 東京藝術大学美術館


 高橋由一は日本における近代洋画のパイオニアとしてあまりにも有名ですが、
 洋画という「方法」を選択したがゆえに、明治維新後の急激な西洋化反動によって不遇な晩年を過ごしたこの画家が、その洋画の技術を追究して成し遂げようとしたことは、むしろ、日本特有の美しいもの、いずれ失われてしまうであろう愛すべき日本の姿を、何とかして後世に残すことに他ならなかった、ということ、
 それゆえに、実は、由一こそ、何段階も進化を飛び越えたリアリズム絵画の創始者と言っていいのではないか、ということ、
 などを、その時に書きました。

 その意味における、由一の最大の成果は、不遇だった晩年の東北スケッチで、その頂点に位置するのが、大作、「山形市街図」です。



 山形市街図


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 道路の正面奥、ど真ん中に建っているのが、山形県庁舎。
 道路の向って右側、手前より、警察本署、山形師範学校、付属小学校、
 向って左側、手前より、山形警察署、活版所、南村山郡役所、勧業博物館、勧業製糸場と並ぶ。
 すべて山形県初代県令三島通庸による都市計画事業によって建設された建物で、
 由一は、三島の依頼で、この絵を始めとする膨大な明治初期の東北の風景を記録した作品を残した。


 なんという奇妙な、しかし美しいファンタジーにあふれた情景でしょう。
 でも、これは現実に存在した風景なのです。

 実は、これとほぼ同じ風景を撮った写真が存在するのですが、(由一は、この写真を参考にこの絵を描きました)その写真はすでに色あせ、ぼやけて、ただの古ぼけた風景にしか見えません。
 ところが、この写真では、建物の一つ一つが、鮮やかに生きている。極めて生き生きと、個性的に輝いている。
 しかも、それらの建物は、洋風とも和風ともつかない、それまで地球上に存在しなかった、そしてその後も二度と登場することが無かった、珍妙だが、得も言われぬ不思議な魅力にあふれた文字通りの擬洋風建築たち。
 それらの建物が、通りの周囲をびっしりと埋め尽くし、その通りを行き交うのは、これまた江戸とも近代明治ともつかぬ、妙ないでたちの人たち。(不自然なまでにチマチマとして小人みたいに見えるところがまた奇妙。)
 正に、擬洋風パラダイス!
 時代の狭間のほんの一瞬だけ、地球上に奇跡のように出現したこの夢幻のような情景-そしていつかは滅びゆく場景を、由一は、これ以上無いくらい鮮烈に、写真よりもはるかに迫真的に、画面に刻み込んでいるのです。
 これこそが、由一が目指したものに他なりません。

 ここでは、いったい、どのような音楽が奏でられ、流れていたことでしょう。


 余談ですが、写真をもとに渾身の気合を込めて描かれた点で共通するためか、
 この由一の絵などは、あのルソーの絵になんとなく雰囲気が似ているのが面白いと思います。(下にのせた、宮城県庁や橋の絵もそう)
 人物等の縮尺が明らかに変なところも共通していますが、やはり何よりも、風景のタッチに込めた気合いのようなものが、相通じている。
 ルソーもまた、自分の愛するものを、ひっしに画面に刻み込もうとしたのです。



 もちろん、この風景は、今はもう存在しません。
 さしもの明治文明開化の大建築たちも、その大部分は時代の流れの彼方に消え去ってしまいました。
 しかし、今もなお、形を変えて残っている建物もあります。

 ここでは、この風景の中の建物たちが、現在どうなっているのか、かんたんにご紹介しましょう。


 * 以下の写真は、20年程前、
   わたしが、東日本の建築を訪ねて写真を撮りまくっていた頃のものです。
   従って、現在の状態と大きく異なる可能性があります。

 
 旧山形県庁舎

 絵にあるそのままの位置、つまり、道路のつきあたりの正面に、今も建っていますが、絵と比べれば一目瞭然のように、残念ながら建物自体は建て替えられています。
 絵に描かれている、六角屋根が個性的な、究極の擬洋風建築ともいうべき初代県庁舎は、1911年の大火によって焼失、代わって、今度は堅牢な二代目県庁舎が建築されました。
 一見石造に見えるが、レンガ造りの躯体に花崗岩を貼りつけた手の込んだ造り。
 こちらは擬洋風などではなく、まごうことなき本格ルネッサンス建築。
 高層ビルディングの現在の三代目庁舎が他地区に建設された後も、この二代目庁舎は保存され、現在は文翔館(山形県郷土館)として、地元の人から愛され続けています。

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 右、議事堂部分。こちらはあからさまなレンガ造り。

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 旧山形師範学校(現山形県立博物館教育史料室)

 こちらは他地区(この絵の場所の少し東側)に移転。その際に建物も新築されました。
 つまりまったく異なる建物なのですが、塔屋や屋根の感じなど、絵にある初代師範学校と、実によく似ているのがうれしい。

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 なお、同敷地内には、とびっきり魅力的な擬洋風建築、

 旧山形師範学校音楽練習室(現山形北高等学校講堂)

 があるのですが、写真がどうしても見つからなかった。残念。今度また撮りに行くか。


 その他の建物がどうなったのかについては、わたしの手元の資料ではわかりません。
 おそらく現存しないものと思われますが、
 現在も山形市内外の他地区に存在している同種の建築、旧西村山郡役所、旧東村山郡役所、旧鶴岡警察署庁舎などによって、その姿を偲ぶことができます。



 おまけ、絵とは直接関係はありませんが、

 山形、いや日本を代表する、擬洋風建築の名品中の名品、

 旧済生館本館(旧山形県立病院→現山形市郷土館)

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 由一が画いた、その他の「失われた建築」たち。


 宮城県庁門前図

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 酢川にかかる常盤橋

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 左、栃木県庁之図
 右、伊達郡警察署

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▽ 図録の付録に付いていた、実物大「鮭」の前で記念撮影。

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 おしまいに、


 古い建築写真をのせたついでに、
 以前、「建築映画&ドラマ」という記事の中でちょっと触れた、
 
 旧土浦中学校本館(現土浦第一高等学校旧校舎)

 の写真を掲載しておきます。

 これは、日本中でわたしが最も愛する擬洋風建築の一つで、言わば初恋の建築。
 NHKの朝ドラ「おひさま」で、井上真央さん扮する主人公が通う学校として使用されていて、
 ピッカピカの元気な姿を思いがけずTVで観て、感涙しました。

 かつて訪れた時、校舎の周辺では吹奏楽団が練習中で、夕日に照らされる校舎を中心にして、何種類もの管楽器のメロディが交差し、美しいポリフォニーを形成していたのが、今も心に焼き付いています。
 
 これもまた、忘れ得ぬ音楽×建築のコラボ。


 * 一部、当時はやっていたミニミニ一眼で撮ったセピア色の写真が混じっているため、
   みにくい部分があることをおわびします。
 

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 同じくらいの時期に見た、これまた名建築、

 旧桐生高等染織学校本館講堂(現群馬大学工学部同窓記念会館)

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 なお、現在放送中のNHK朝ドラ、「梅ちゃん先生」も、「おひさま」と同じく昭和初期の物語であるため、その舞台として歴史的建築が次々と登場します。

 堀北真希さん扮する主人公が通う医学専門学校として使われていたのは、
 これまた擬洋風建築の大名作、

 旧佐倉高等学校本館(現佐倉高等学校記念館)。

 いつも授業シーンで映っていた階段教室がすばらしかった。


 また、「梅ちゃん先生」のオープニングで使われている印象的な昭和ジオラマは、

 あがたさんのライブのために訪れた青梅で、初めてその作品を観て感動した、ジオラマ作家、山本高樹さんによるものです。
こちらの記事内の「昭和幻燈館」)


 おー、つながった。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

ANNA
2012年06月14日 21:55
Noraさん、こんばんは。

山形には、すばらしい建物がたくさんあるんですね。故郷の隣県でありながら
初めて見る建物も多くて、一枚一枚じっくりと拝見しました。
Noraさんには、日本各地に赴いて撮り貯めた建築物のお写真が
たくさんあるのでしょうね。
高橋由一の作品で、私が知っているのは教科書に載っていた「鮭」の絵画のみ
…なのですけれど、東北の建物も描いていたと知って興味が湧いてきました。
まだ会期に間に合いそうですので、観に行こうと思います。
2012年06月16日 01:27
 ANNAさん、こんばんは。
 東北は、全体的に、すばらしい建築の宝庫だと思います。美しい自然や街の中に、それぞれの地方色豊かな個性的な建築が息づいていて、独特の魅力があります。
 写真はかつて夢中になって撮りためたのですが、整理が悪くてかなり散逸してしまっています。良い写真が見つかり、また機会があれば、のせていきたいと思います。

 高橋由一は、これまでさまざまな展覧会で部分的にその作品を見てきましたが、いずれも妙な存在感があって、気にはなっていました。
 これだけまとまった作品を観たのは、今回の展覧会が初めてでしたが、これによってようやく、どんな人だったのか、ぼんやりとわかってきました。
 とにかくいろいろな意味で個性的な画家で、その全貌を浮かび上がらせた今回の展覧会の意義はとても大きいと思います。(おっしゃるように鮭の絵がやたら有名な由一ですが、なんでまた彼が鮭を描いたのか、ものすごく共感できただけでも大収穫でした)
 三島通庸が、山形、福島、栃木と県令を歴任したことから、由一のスケッチも、幅広く三県全体におよんでいます。(一部宮城県も含まれますよ)
 わたしは明治などの古い写真も大好きなのですが、主に幹線道路沿いのまったく何気ない風景ばかりながら、写真よりもずっと鮮やかに当時の情景を伝える東北シリーズは、いつまで見ていても飽きないほど、魅力的に感じられました。
 

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