ゴールデン・スランバーの風。ド・ビリー、圧巻!至福のR.シュトラウス体験~「アラベラ」@ 新国立劇場

 5月28日(水) 18:30~


 リヒャルト・シュトラウス生誕150周年

 新国立劇場 R.シュトラウス 「アラベッラ」 (アラベラ)

  ベルトラン・ド・ビリー指揮、東京フィルハーモニー交響楽団

  演出:フィリップ・アルロー 音楽監督:尾高忠明


 
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 前回ちらっと書いたように、ド・ビリー&東京フィルの英雄ナイト(エロイカ&「英雄の生涯」)に行けなくなってしまったかわりに、同じくド・ビリー&東京フィルの新国立劇場の「アラベラ」の平日・夜の公演に行ってまいりました。

 突っ込みどころ続出の登場人物&ストーリー、
 そして、世間一般がR.シュトラウスに持っている豪華絢爛でゴージャスなイメージからすると、あまりにも精緻で、室内楽的な音楽の数々&ド・ビリーの指揮、
 などなど・・・・、
 もしかしたら一般的な評価は定まりにくい公演なのかもしれませんが、熱烈なR.シュトラウス・ファンとしては、これ以上ありえないほどの至福のひと時を過ごすことができました。

 今年は、R・シュトラウス・イヤー。
 絶対にシュトラウスの生オペラ鑑賞デビューを果たそうと思っていたのですが、最高の形でそれを実現することができました。



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 登場人物のほとんどすべてが、筋金入り、底抜けのおバカ、話はいかにもトホホ・・・・、
 そこに、これでもか、これでもか、と甘くて魅惑的なアイテムが散りばめられ、一見華麗の極み、まるで気合入り過ぎの誕生ケーキみたい。 
 一言で言ってしまえばそんな物語なのだが、そこに付けられた音楽の、何と豊かで美しいことか!
 始めから終わりまで、絢爛たる舞踏会の音楽や恋の歌がぎっしりつまっていて、その他の部分も一瞬たりとも無駄な部分、力を抜いた部分が無く、目の詰まった第一級の音楽が綿々と続くのだ。もとい、実際には何か所か音楽が止んでセリフだけになる部分もあるのだが、それさえ、雄弁な「音楽」として、全体の音楽を盛り上げる。
 ここでは、この音楽こそが主役、圧倒的な力で舞台全体を支配している。正に、「ばらの騎士」の夢、再び!
 しかも、その音楽は、ずっと室内楽的で、以前よりもぐっと研ぎ澄まされ、結晶化してきているのだ。
 随所に、R.シュトラウス晩年特有のあの美しい風が吹き始めている。
 このオペラハウスの台本完成直前にホフマンスタールは亡くなってしまい、ナチスの台頭によって、親しい音楽家達も次々とドイツを去ってゆく。
 シュトラウスのゴールデンスランバーの時代が始まる。
R.シュトラウスの「美しすぎる」最晩年は、このオペラから始まる、と言っていいのかもしれない。


 そして、その音楽のあふれかえるような魅力を、これ以上無いくらいの高い次元で堪能させてくれたド・ビリー!
 トホホなドラマが至高のラブストーリー、ひいては圧倒的な人間ドラマとしてびしびし胸に迫ってくる。いったい自分が何の話に感動してるんだかわけがわからなくって困ってしまうんだけど。
 決して、スペクタルなオペラ(R.シュトラウスの他の人気オペラを含む)にふさわしいような、スケールが大きく、豪快、劇場音楽ならではの多少ハチャメチャで楽しい演奏、というわけではない。そういうのを期待すると、肩透かしを食う。
 かなり室内楽的な、精緻で透明感あふれる演奏。しかし、とにかくよく歌う。心のこもった音が滔々と続く。
 そして、そんな演奏が、このオペラには、とにかくぴったりとはまっているのだ。
 このようなド・ビリーの演奏だからこそ、上記ゴールデンスランバーの美しい風をびしびしと感じることができたのかもしれない。
 以前から、オペラ劇場専属でないオケがピットに入る新国立劇場というのはどんなものか?と勝手に懐疑的な見方をしていたのだが、今回の場合は完全に杞憂だった。

 結果的に、初生ド・ビリーがこの曲で、良かったと思う。
 エロイカはともかく、「英雄の生涯」よりもこの曲の方が絶対に良かった。
 一応、休憩時間に、東フィルのメンバーが、英雄の生涯のフレーズ?らしきものをさかんに奏しているのも聴けたし。
 そして、初生シュトラウス・オパラが初生ド・ビリーのこの曲で、ほんとうによかった!



 印象に残った個々の音楽、場面等についても、少しだけ、メモしておく。


 第1幕

 幕が開けたとたん、いきなり密度の濃い~音楽が始まり、たわいない状況説明の間も、それは延々と続く。
 この音楽自体すでにすごいのだが、しばらくたって、主人公アラベラが登場した瞬間、突然音楽がふわーーっとふくらんで、劇場全体がまぶしい光に包まれたようになる。おそらく、演出上明るくなったわけではないと思うが、ほんとうにそう感じたのだ。

 続く、有名な姉妹のデュエット。いきなり、最大の聴きどころがやってくる。民謡風の素朴で美しい旋律が心にしみわたる。

 その後、マンドリカ登場。
 このお兄さんがいきなり歌い出すまぬけな自慢話の歌に、シュトラウスがつけた歌は、息を飲むほど壮麗で雄大。正に仰ぎ見んばかり。
 なぜこのシーン、この歌詞でこんな立派な音楽を??

 揺れ動く女心(冷静に考えるとあまりにも勝手なのだが)そのものを表すかのような、陰影の濃い美しさが支配するアラベラのモノローグを経て、颯爽としたワルツが炸裂し、幕。


 第2幕

 のっけから、最大の聴きどころ、パート2。
 アラベラとマンドリカが出会って(しまって?)、いきなり恋に落ちるデュエット。
 こちらも懐かしい民謡風。歌そのものもさることながら、二人の心が一つになった後の、オケの後奏の夢のような美しさ!いったいどんなにすごい、世界の運命を変えるような恋が成就したのか、と思ってしまうほど。


 この後、2幕の中盤からは、フィアッカミッリのどんちゃん騒ぎの場面、金髪の日本人貴族たち(正確には、それぞれ金髪のカツラをかぶった日本人の歌手が粉した3人の貴族たち)が次々と振られてゆく場面、
 そして第3幕にはいってからも、始めから中盤くらいまで、ちょっとまちがえばコント以外の何ものでもないようなドタバタ場面が続く。

 これらのドタバタ場面の長さ(比重の大きさ)、そしてその場面の音楽の、話の内容にあまりにもそぐわないような圧倒的な充実度は、いったいぜんたい何としたことか??
 第1幕のマンドリカの歌なんかも、そういう意味では同様だった。

 その答えは、音楽を聴いているうちに、自然と伝わってきた。

 シュトラウスは、ホフマンスタール、ひいては失われてゆきつつある古き良き時代、もはや二度と帰らないであろう美しき「馬鹿騒ぎ」の時代に、心からの惜別の歌を歌っているのだ。万感の思いを込めて、一音一音かみしめるように音符を書き連ねているのだ。
 もしかしたら、これこそが、「ゴールデンスランバーの風」の悲しいまでの美しさの秘密の一つなのかもしれない。


 そして、音楽は、ついに頂点へと到達する。

 ラストの音楽、このクライマックスの音楽における、この世のものとは思えぬ美しさは何だろう。
 舞台にはしんしんと雪が降り積もり、深海を思わせる青(この青は、全編にわたって舞台を支配していた)がますます深みを増してゆく。
 それに呼応するかのように、音楽は妖しい微光を帯びながら、冴え冴えと透き通り、もはや声も楽器も何の音なのか、いや、音なのか光なのかわからないくらい。
 気が付くと、涙が流れていたが、この涙は果たして何に感動したものなのか、閉幕後はかなりはずかしく、困ってしまった。



 その他。


 すでに書いたように、全体に青を基調とした舞台の美しさが際立っていた。

 さすがはオペラ専用劇場。わたしがこれまで観てきたオペラよりもずっと大きな舞台で、その舞台いっぱいに使った2種類の大階段セットが豪華だった。
 ただ、舞台が巨大な分、小道具や、本筋とは別にあちこちで繰り広げられる小芝居等、けっこう気を使って演出されているのに、どうしてもまばら感がぬぐえず、そこが残念。例えば階段に敷き詰められる花なんか。
 また舞台が広すぎて一度に俯瞰するのがたいへんで、そのさらに外側高くに流れる日本語訳を同時に見るのにかなり苦労した。


 配役は、みんなおおむねメージ通り、極めて自然に物語の世界に入り込むことができた。
 特に、ズデンカちゃん(アニヤ=ニーナ・バーマンさん)がかわいくてよかった。この話、どう考えても、ズデンカちゃんが主役だと思う。
 拍手も主役並みに大きかった。

 主な登場金物の中では、マンドリカ(ヴォルフガング・コッホさん)が、かなりメタボで暑苦しく、登場した時は、モテモテの美女、アラベラが一目で恋に落ちるにはどうかとも思ったが、物語が進行し、マンドリカのキャラ・性格が明らかになってくると、これはこれでぴったりなのだという気がしてきた。
 もともと、アラベラ(アンナ・ガブラーさん)の性格や行動も、尋常ではないところがあるし。

 日本人キャストも、がんばっていた。
 特に、フィアッカミッリ(安井陽子さん)。
 まったくどうしようもないお父さん(妻屋秀和さん)も、貫禄の演技。
 それから、「3人の貴族」、3人のマンドリカの家来、みんな、味わい深くてよかった。



 エントランスから席までご案内。


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 休憩時間は、25分ずつたっぷり、休憩席もけっこう多い。(建物の内外)

 マックのFIFAワールドカップ公式バーガーの、ドイツバーガー(ポークシュニッツェル)というのを食べた。


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 以上、最高の初R.シュトラウスオペラ体験、初生ド・ビリー体験でした。

 やっぱり、シュトラウスは良い。いろんな意味で。

 そして、学ラン?にメガネという出で立ち。よく映画等に出てくる少年博士然としたド・ビリー、
 思った通りの、というか、想像をはるかに上回る実力の持ち主だということを、思い知らされた。



 さて、次は、いよいよ、ネゼ=セガン。

 先日、たまたまEテレのらららクラシックで、当日のプログラムの1曲、チャイコフスキーのVn協奏曲をやっていて、これまたたまたま、当日そのVn協奏曲を弾く諏訪内晶子さんが、スタジオでのダイジェスト版演奏にもかかわらず、すさまじく気合の入った堂々たる名演を炸裂させていた。
 以前生で聴いた時よりもはるかにスケールが増したようで、圧倒されてしまった。
 と、いうわけで、久しぶりの生・諏訪内さんも、たまらなく楽しみ。



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 このオペラがわたしに教えてくれたこと。


 どんなにアホな状況、あるいは、どんなに救いようの無い修羅場でも、耳をすましてみれば、そこには必ず妙なる音楽が響き続けているのだ!?



 追記:


 NHKBSプレミアム・プレミアムシアター


 6月23日(月)<6月22日(日)の深夜>午前0時~4時

 R.シュトラウス生誕150年記念

 ◇ドキュメンタリー 「リヒャルト・シュトラウスとそのヒロインたち」

 ◇’14ザルツブルグイースター音楽祭ライブ 歌劇「アラベラ」 (ティーレマン指揮)



 上記プログラムにて、ティーレマン指揮、ドレスデン国立歌劇場の、最新の「アラベラ」を観ることができます。(出演、ルネ・フレミング&ブリギッテ・ファスベンダーほか)

 こちらは、「ばらの騎士」や「影の無い女」に通じるような、真っ向勝負の濃密な名演になっていそうな予感。
 聴き比べが楽しみ。




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