連綿と連なる宗教声楽曲の山脈~最近聴いたCD合唱曲編

 受難節中のCDご紹介。


 昨年クリスマスにアップしたバッハ編に続き、
 バッハ以降の「クラシック音楽」、ドイツ=オーストリアの合唱作品の連なり。

 わたしが普段親しんでいるのは、もちろんバッハと、それ以外ではルネッサンス初期、中世の声楽曲ということになりますが、その高峰の連なりを、さらに時代を下って進んでゆこうと思います。

 これまでに、メンデルスゾーンやシューマンの合唱曲全集をご紹介してきましたが、今回はそれ以外。


 一般的に「クラシック音楽」と言うとどうしても古典派以降が中心となりますが、これらの合唱曲に耳を傾けると、古典派以降の大作曲家が、遠く中世やルネッサンスから脈々と連なる大きな流れの中に確かに存在しているのだということを、リアルに実感することができます。
 そして、これらの音楽を聴くことは、その音楽の流れの大いなる源流、バッハの宗教曲(当然マタイやロ短調ミサ以外の膨大な作品群)やさらにはルネッサンスや中世の音楽へと遡ってゆく冒険の、またと無いきっかけになることでしょう。

 20世紀の終わりごろ、一大古楽ブームが巻き起こって、わたしたちはわくわくしながらそのかけがえの無い冒険を楽しみました。
 今や古楽は一つの文化として定着した感があり、一部の熱狂的なファンの間ではますます盛り上がりを見せてはいますが、その中心はすっかりバロック時代に収斂してしまっているような気がします。

 日本においては合唱曲、声楽曲と言うとどうしても器楽曲の影に隠れがち。
 以下の合唱曲等がもっともっと愛好され、さらにはそれらのルーツ、バロックにとどまらず、その先の魅惑の花園にまで興味を持たれる方が少しでも増えることを願ってやみません。
 


 ベートーヴェン ミサ・ソレムニス

  ハイティンク&バイエルン放送交響楽団、バイエルン放送合唱団

  (合唱指揮:ペーター・ダイクストラ)


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 レオンハルト、アバドに続き、ブーレーズ、アーノンクールと、これまでクラシック音楽界を牽引してきた老巨匠が次々と去ってゆく。(アーノンクールは引退)

 * 3月7日、追記

 アーノンクールさんの訃報が届きました。この記事をアップした3月5日にお亡くなりになったそうです。
 心よりご冥福をお祈りいたします。


 そんな中、元気に活躍を続けてくれているのがハイティンク、

 そんなハイティンクが、85歳(昨年の録音当時)にして初めて、満を持して、ベートーヴェンの超大作ミサ・ソレムニスを録音した。

 ハイティンク、今や最も安心してその音楽に身をまかせることができる指揮者だと思う。
 その演奏は見上げんばかりに豊かで大きい。しかも、例えようもなくあたたかい。このまっすぐに筋の通った誠実さからくるあたたかさこそが、他の幾多の巨匠と言われる指揮者とハイティンクとの決定的な違い。

 この演奏においては、合唱指揮のペーター・ダイクストラの果たす役割も忘れてはならない。
 クラシック音楽界の慣例として、このような場合単純に「ハイティンク指揮」の一言ですませてしまうが、これだけ合唱のウエイトが大きい大曲の場合、ハイティンクとダイクストラの完全な共演、あるいは協奏曲やデュオに倣って競演と言ってしかるべきだと思う。
 何て美しく、そして力強い合唱だろう!そこにハイティンクの指揮する深い呼吸の器楽がからむと、その響きはこの超絶的な大曲に最もふさわしい壮麗さを帯びて、わたしたちの心を包みこむ。

 このような演奏で聴くと、このベートーヴェンの曲が、デュファイのミサや大バッハのロ短調ミサ曲の後に確かに連なる音楽であることを確かなものとして実感することができる。
 そしてなんとも言えず幸福な気持ちになれる。
 ここでは、大ミサの伝統を継ぐ者としてのベートーヴェンの理想が、これ以上ないほど見事に果たされている。

 ベートーヴェン、そしてハイティンク、ダイクストラ、3人の音楽家が同じ高みを目指して成し遂げられた、記念碑的な名演。



 ベートーヴェンのお次は、ブラームスVSブルックナー、合唱曲の競演!


 ブラームス 合唱作品集

  カペッラ・アムステルダム


 ブルックナー モテット集

  ファーガソン&エジンバラ・セント・メアリー大聖堂聖歌隊、RSAMDブラス


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 どちらも純正統的、大人数による残響豊かな録音。これまた心から安心して聴くことができる演奏。滋味あふれる響き。それはこれらの曲の中にもともと内在している大きな要素でもある。
 一つ一つの声部、フレーズがとてもていねいに歌われているので、雰囲気が優先されて、音楽そのものの魅力が損なわれてしまうようなところもない。

 ブルックナーの愛すべきモテットに関しては、これまで革新的な演奏、個性的な演奏等数々ご紹介してきましたが、このような堂々たる「合唱」も、またいいもんだなとつくづく思う。間にはさまれるブラスアンサンブルによる演奏も心にしみる。

 ブラームスの作品番号100番台のモテットはどれも神品。
 こちらのCDには、やはり100番台の間奏曲のピアノ演奏が間にはさまれており、これは心憎い演出。

 2枚とも、聴いても聴いてもあきることない。
 これらのCDは今年ずっと聴いていた。

 ブラームスとブルックナー、対照的な存在として語られがちな二人だが、このような演奏で聴くと、二人とも合唱が大好きなんだな、ということがひしひしと感じられる。
 しかもそれだけでなく、古い音楽をものすごくよく勉強している。というか、マニアックなまでに心酔している。
 もっともブルックナーの場合は、長く教会にいる間に直感的に吸収したのかもしれないが。それだけ、教会に古い音楽の伝統が息づいていたのだろう。



 そして、これ!

 ドヴォルザーク 宗教曲&カンタータ集


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 「ドヴォルザークのカンタータ」というだけで、わくわくしてしまう。
 何を歌っているのか、見当もつかないけど。

 天下御免のスプラフォンレーベルの廉価集成BOX。当然チェコを始めとする東欧を代表する錚々たるアーティストを中心とした布陣。共感あふれる名演揃い。
 スメターチェクやノイマン、コシュラーらは、「我が祖国」やドヴォルザークのシンフォニーばかり演奏しているわけではないのだ。

 ドヴォルザークというと、=チェコ民族音楽と捉えられがちだが、実はこの人の音楽の中には、それまでの音楽史の実に多種多様な要素が集約されらは、ているのがわかる。やはり大変な勉強家なのだ。それがチェコ人であるドヴォルザークという個性のフィルターにかけられ、考え得る限り効果的に、再構成、配置され、超一流のエンターティンメント、あの錚々たる名作群になっているのだが、宗教曲を聴くと、様々な時代の様々な音楽のコダマが、さらに生々しく感じられる。



 最後に「合唱曲」というわけではないが、上記の合唱の流れが行きついた究極の姿。


 マーラー 交響曲第8番 「千人の交響曲」

  インバル指揮、東京都交響楽団


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 交響曲と名付けられているが、始めから終わりまで、まごうことなき合唱曲。
 ウェーベルンの最後のカンタータなどともに(まったく異なる「かたち」ではあるが)、モテットの行きついた極北の姿。
 山脈の果て、ということだろう。ここにもまた、過去の音楽の諸相がしっかりと息づいている。


 演奏は、とんでもない完成度を誇っていて、決定的名盤と言っていいと思う。
 録音もすばらしい。

 このコンサートにはぜひ行きたかったのだが、ぼやぼやしていてチケットがとれなかった。
 CDに耳を傾けると、録音とは思えないほど祝祭的、感動的、会場の盛り上がり、特別な空気感までもがビシビシ伝わってくる。それはそれですばらしいのだが、だからこそなおさら、生が聴けなかったのが悔やまれてしまう。
 このような演奏が、日本で、しかも日本のオケで成し遂げられたことが、たまらなく誇らしい。



 おしまいに、

 今回新しいCDを聴いたわけではないですが、ウェーベルンの最後のカンタータに関して、ブレーズの思い出とともに触れておこうと思います。

 上でもちょっと書いたように、マーラー8番やシェーンベルグの大作等とは対極にある、宗教曲・合唱曲の山脈の果ての一つであることはまちがいありません。
 ウェーベルンならではの結晶化された美しさ、緊張感に貫かれた大曲(ウェーベルンにしては大曲、ということ)。
 もっともっと実演やCDでとりあげられてもいい記念碑的な作品だと思います。

 この曲の美しさ、真摯さを教えてくれたのが、他ならぬピエール・ブレーズでした。
 新旧二つのウェーベルン全集は(全集と言っても数枚ですが)、今でも大切な愛聴盤になっています。

 わたしは作曲家としてのブレーズにはほとんど親しんできませんでしたが、指揮者としてのブレーズはほんとうにすばらしかった。

 上記マーラーの8番にも記念碑的な名演がありますし、バルトークのコンチェルト等のスターソリストとの共演も一種凄味が感じられた。ブルックナー8番のウィーンフィルの演奏で、わたしが最も愛聴しているのはブレーズのものです。

 この場を借りて、心よりご冥福をお祈りいたします。


▽ ブーレーズの二つのウェーベルン全集

 右は新全集。一枚一枚リリースを楽しみに待って揃えた。せっかくなので、バッハのリチェルカーレの編曲版の入った巻を撮影。
 左の旧全集にも、リチェルカーレは収録されています。 

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