絶え間なく続く水の流れ~エレーヌ・グレモー ピアノリサイタル @ オペラシティ【三位一体節】

 このところ、ブニアティシヴィリの演奏(映像)やCD、ケフェレックさんのライブ等、女性ピアニストの良い演奏に接する機会が多かったですが、
 今回、当代一の人気と実力を誇るグリモーのリサイタルに行ってきました。



 5月16日(月)


 エレーヌ・グレモー ピアノリサイタル
  
  @ 東京オペラシティ コンサートホール  


画像



 曲目:

 (前半)

 べリオ:6つのアンコール~水のクラヴィア
 武満 徹:雨の樹・素描Ⅱ~オリヴィエ・メシアンの追憶に
 フォーレ:舟歌第5番
 ラヴェル:水の戯れ
 アルベニス:イベリア組曲第2巻~アルメリーア
 リスト:エステ荘の噴水
 ヤナーチェク:霧の中~アンダンテ
 ドビュッシー:前奏曲集第1巻~沈める寺

 ~休憩~

 (後半)

 ブラームス ピアノ・ソナタ第2番



 アルバム、「ウォーター」からの小品を連ねた前半、

 「水」をテーマにした名曲中の名曲がズラリと並んでおり、それらを気楽な気分で楽しもうと思っていたのだが、とんでもなかった。

 まずはいきなり、プログラム(順序)の大幅変更、
 グリモー、クラシック演奏会にしてはかなり遅れて(10分ほどだけど)登場。
 登場するやいなやいきなりピアノに向かい、変更された順序に従い、文字通り一音たりとも音が途切れることなく(観客に咳をする間も与えず)、全8曲を弾ききった。
 グリモーと言えば、その外観もあって、はかなげ、やわらかげなイメージもあったが、実際の姿に接してみると、ブニアティ以上の「我が道をゆく」アーティストだった。

 それにしても夢のように美しいグリッサンド、七色の水のきらめきに満ちた、48分間。(正確に計ったわけではない)
 まるで一つの大曲、クラシック音楽の歴史のさまざまなピースを丁寧に丁寧に紡いでできた大きな水の流れ。
 一番楽しみにしていたヤナーチェクなど、強烈な大曲、リストとドビュッシーの間に挟まれて、静謐で美しい経過句みたいになっていた。

 もちろん、美しいだけではなく、時々びっくりするほど強靭な面も垣間見せる。
 何よりも、すべての聴衆に緊張感を持続させるその佇まい、本人自身の一瞬も緩まない緊張感がすごすぎ。


 近現代の錚々たる作曲家の選りすぐりの名曲をぎゅぎゅっと凝縮した前半に比べ、後半のブラームスの曲は、音楽自体がいろいろな意味で若さ爆発。

 もともとこのブラームスのソナタ、若いブラームスがあこがれていた作曲家のいいところを自分なりに咀嚼した上でこれでもかこれでもかと投入、熱い思いがいつまでもいつまでも繰り返される。
 終わったかと思ったらまた盛り上がり、それが果てしなく続いて、しつこさ満点。
 青春のありのままの情熱。これを献呈されたクララ、困ったのでは。

 グリモーの演奏は、若々しい情熱にあふれた気持ちの良いものだった。
 上述した幾人かの大作曲家を思わせる部分を弾く時には、その本家作曲家の作品に接するかのような生真面目さも見せて、興味深い。


 グリモーの演奏に接して何よりも驚いたのが、演奏姿勢の美しさ。
 最初から最後まで、ほとんど背筋をまっすぐに保ったまま。
 全編を彩るグリッサンドの弾き方もすごかった。鍵盤を打鍵するのではなく、しなやかなリズムで鍵盤をなでるようにすると、キラキラとした音がはじけ飛ぶ。

 いろいろな意味でただ者ではない、と思った。


 (参考)

 当初、ちらしにあったプログラム。

 ブラームス:ピアノソナタ第2番

 ラヴェル:水の戯れ
 リスト:エステ荘の噴水
 ドビュッシー:沈める寺
 フォーレ:舟歌
 ヤナーチェク:アンダンテ
 アルベニス:アルメリーア
 べリオ:水のクラヴィア
 武満 徹:雨の樹・素描Ⅱ


 これが、当日のプログラムではブラームスとWATERの部分が入れ替えられていて、さらに実際には、下の写真の順序で弾かれた。
 結果的にアルバムと同じ順序に戻ったことになるが、よほど考えつくされた順序なのだろう。聴いた感銘も圧倒的だった。

 但し、実際に演奏された曲順は、会場に貼りだされていただけ。できればコピーでもはさんでいてくれれば、多くの人がさらにそれぞれの曲を満喫することができたと思う。
 
画像



 アンコールもたっぷりと3曲、心から楽しめた。

 ラフマニノフの2曲は、水の旅をそのまま引き継ぐような音楽。
 見事なショパンで幕。エチュードヘ短調(遺作)。ブニアティシヴィリの生演奏で浅田真央選手が舞ったあのバラード第1番によく似た雰囲気の曲で、うれしかった。真央さんが滑ったらどんなに美しいだろうと思ってしまった。ピリスのノクターンで究極の演技を見せてくれた真央さん、いつかグリモーのショパンでも滑ってほしい。

 ところで話は飛ぶが、このショパンの「遺作」という表現、どうにかならないのだろうか。単に生前未出版作品ということらしいが、そういうことならバッハなんかほとんどの作品が「遺作」になってしまうよ。

 なお、アンコール曲を確認しようと思って東京オペラシティのホームページを見ると、「ショパン 遺作」と書いてある後に、さらに「ショパン ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作」とある。
 ノクターンの方は一応知っているが、わたしが聴いたのはノクターンではなかった。
 会場が明るくなって客のほとんど席を立ち、外に出始めたのでわたしも会場を後にしたのだが、ひょっとして一部の観客の拍手が鳴りやまず、その後で弾いた???

画像



 前半演奏された曲目がすべて収録されているアルバム、

 WATER ウォーター

 ブニアティシヴィリの「マザー」や「カレードスコープ」と同様、完全なコンセプトアルバム。
 
 アンビエント・ミュージックのニティン・ソーニーによる「ウォーター―トランシジョン」(1~7)という曲が各曲の間に挟まれて、さらに全体を一つの「作品」として統一している。

 実演で体験したこと、水しぶきの虹色のきらめきが見えるような音色の美しさ、息もつけないほどの緊張感、それらはCDではもちろんのぞむべくも無いが、極上の「水」をめぐる旅を堪能できる。

画像


 それにしても、CDと実演両方を聴き比べることができたわけだが、やはり、記録と実演ではまるでちがう。絶対に単純な比較はすべきではない。
 増してや生演奏に接した演奏家とCDや映像だけの演奏しか聴いたことの無い演奏家を比べて(しかも極めて限定的な材料だけをもとにして)優劣を決めるなどはまったく意味の無いこと。
 ブニアティも、結局は実際に聴いて見なければわからないな、と改めて思った。


画像



画像




 ダービー列車でオペラシティに行った。

画像


 ほぼ等身大の歴代の錚々たるダービー馬が、列車の外壁にずらりと並んでいる。
 ホームに立って列車が疾走するのを見ると、これが次々と通り過ぎてゆくので、なかなかの迫力。

画像
画像



 
 最後になってしまいましたが、今日の日曜日(5月22日)は三位一体節。


 カンタータは、

 初期(1715年)の、BWV165、
 2年目、ツィーグラー・シリーズ最終曲、BWV176、
 後期(1726 or 27?)のコラール・カンタータ年巻補完作、BWV129、

 の3曲です。


 過去記事はこちら↓


 <三位一体節>

    クイズ・3枚の絵(BWV165、129他)+新年巻が始まるにあたってのごあいさつ
    始まりはいつも Overture(BWV194)
    BWV190番台の麗しき迷宮・カンタータ奥の院に踏み入る(BWV194)


 早いもので、華やかなカンタータが続いた春~初夏のシーズンも今日で一段落。
 来週からは、1年の後半、夏~秋のシーズンが始まり、三位一体節後第○日曜日という祭日が続くようになります。

 バッハはちょうど今の時期にライプツィヒに赴任したので、それぞれの時期のバッハのカンタータ年巻も、ちょうどこれから始まります。従って、バッハのカンタータ年巻をまとめて聴いていきたいという方には絶好のチャンスになります。

 今後ともよろしくおつきあいください。





そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

画像





この記事へのコメント

2016年05月22日 21:07
Noraさん、ご無沙汰しております。
「クラシック音楽のある毎日」アルトゥールです。
私は最近、約4年ぶりにブログを再開しました!
今回は、そのご挨拶に伺いました。
Noraさんがずっとブログを続けておられるのを拝見すると、励みになります。
今後とも、よろしくお願い申し上げます。
なお昨年12月のサントリーホールでのヴァンスカ指揮読響のシベリウスの5、6、7番は、私も聴きましたよ!
2016年05月24日 22:03
 アルトゥールさん、お久しぶりです!
 ブログ再開、おめでとうございます。またコメントいただいてうれしく思っております。
 4年間というと、短いようで長いですね。以前アルトゥールさんとも語り合ったアーノンクールさんやアバドさんなど、みんな故人となってしまいました。一方、あの頃には思いもしなかった若い実力ある演奏家も次々と登場しています。
 そんな中、わたしは相変わらずで、このブログもほとんど個人的な記録みたいになってしまっていますが、これはこれで自分の生活を振り返るのに便利なので続けています。
 今やツイッター等のSNS全盛の時代なのでブログを続けている方がいらっしゃるとわたしも励みになります。これからもアルトゥールさんのブログを楽しみに拝読させていただきますので、よろしく!
 ヴァンスカ、すばらしかったですね。このように同じ名演を聴いているというのもまた感慨深いものです。

この記事へのトラックバック

過去ログ

テーマ別記事