第7のブランデンブルクコンチェルト・E君、再び~三位一体節後第15日曜(BWV99)

 今日は、三位一体節後第15日曜日。

 カンタータは、
 第1年巻のBWV138
 第2年巻(コラール・カンタータ)のBWV99
 後期のソロ・カンタータの名曲、BWV51
 です。

 昨年の同日の記事は、こちら


 昨年も書きましたが、
 有名なBWV51では、トランペットとソプラノの華麗な競演で知られる冒頭アリアなどよりも、
 しっとりとした、短調の第3曲のアリアが大好きです。

 さわやかな初秋の高原の奥深く、人知れずひっそりとたたずむ湖、
 そんな清々しく澄み切ったイメージのこの曲を聴くと、
 もう秋かな、などと、しみじみと感じてしまいます。


 さて、今日は、昨年少ししかふれることができなかった、
 コラール・カンタータの名品中の名品、BWV99について、書くことにしましょう。



 よく、冒頭合唱の、ブランデンブルク協奏曲との類似が指摘されますが、
 そうですね、わたしも、この曲を聴くと、どうしても、あのブランデンブルクを連想してしまいます。



 さて、ここで、またまたE君が登場。
 E君といっても、誰もわからないかもしれません。よろしかったら、こちらをどうぞ。


 やはり、秋の始まりの頃だったでしょうか。
 生物部の昆虫班というのに所属していたわたしとE君は、ある日、日帰りの採集旅行にでかけました。
 わたしはもちろん蝶とか甲虫が好きだったのですが、
 E君は、なぜか、土壌生物に異常に興味を持っていました。

 土壌生物の採集調査を御存知でしょうか。
 山奥などに行って、決まった分量の土を掘り起こし、広げたシートの上にのせます。そしてその場で、ルーペを使ってその土の中にいる生物を分類し、数を調べます。
(何でもない土の中に、わたしたちの想像をはるかに超えるほど多くの、しかも不気味な生物がいるので、もう、びっくりしてしまいます)
 そして、それを、条件の異なる場所で、何度もくりかえします。
 わたしはそんなのぜったいにいやでしたが、むりやり連れて行かれたのです。


 どこに行ったのかは忘れましたが、〇〇線のずうっと先の駅で降り、そこからさらにバスで何時間も揺られたようなところだったと思います。
 何でそんな遠くまで、と、思いましたが、E君は、そこじゃなきゃダメなんだ、と、言います。
 おそらく彼にしかわからない何か重要なことを確かめたかったのでしょう。
 E君、いつでもそうです。


 さて、目的自体がそれほど楽しくない、というか、思いっきり憂鬱な上、長旅の疲れもたたり、
 バスの中で、わたしはすっかり気分が悪くなってしまいました。

 真っ青になってうずくまっているわたし。

 E君が突然、自分の聴いていたヘッドフォンをわたしの耳にかぶせました。
 何するんだ、こいつは、と、びっくりしましたが、
 次の瞬間、
 ヘッドフォンから流れてきた音楽が、たちまちわたしの心を奪いました。

 なんて、さわやか!なんて、清々しい!
 顔を上げると、車窓の外を鮮やかな緑が流れています。
 車内をめまぐるしく移動する木漏れ日。
 E君が窓を開けます。たちまち吹き込む透き通った風。

 そして、それらと一つになって、さわやかさをさらに増しながら、いつまでも続く音楽。

 いつのまにか、すっかり気分はよくなっていました。
 そればかりか、その後、わたしは、妙に上機嫌で、奇妙なミミズの仲間たちの数をかぞえたのでした。



 後から知りましたが、それは、
 ブランデンブルクコンチェルト 第6番 変ロ長調 の第1楽章でした。
 中低音の弦楽器だけで織りなす、しっとりと美しい歌。
 演奏は、たぶんリヒターか、レオンハルトでしょう。


 それ以降、ブランデンブルク・コンチェルトが、わたしの大のお気に入りになり、バッハ入門のきっかけの一つになったことは、言うまでもありません。

 今では、シュープラー・コラール集などのオルガンコラールとともに、
 わたしの青春の音楽です。



 このブランデンブルク、
 まったく非の打ち所の無い、誰もが認める名曲中の名曲です。

 もし不満があるとしたら、たった一つ、曲数が少ないこと。
 ヴィヴァルディやテレマンとまではいかなくても、せめて、ヘンデルと同じくらいはあってほしかった。

 どんなに好きな曲でも、長い間聴き続けると、どうしても、他の曲も、と思ってしまいます。
 みなさんも、同じようにお感じになったことはありませんか?



 そんな時。
 迷うことなく、このBWV99の冒頭楽章をお聴きになることを、お奨めします。

 この曲を聴かせて、新発見のブランデンブルク、と言えば、誰もが信じてしまうことでしょう。
 それほどまでに、この曲は、ブランデンブルク。

 カンタータの中に、数え切れないほどたくさんの、未知のコンチェルトが埋もれている、ということは、これまでも、くりかえし書いてきましたが、
 その中でも、特にこのBWV99は、他のどの曲でもない、いかにもブランデンブルク、な1曲なのです。

 しかも、この曲、楽器編成が、fl、ob、vn、そしてさらにホルンが補強、という、元祖には無いような豪華版。
 もちろん、これに、美しいコラール合唱が溶け合います。
 さすが、コラール・カンタータの名品。


 この冒頭合唱に続く、第5曲、ロ短調のデュエット、
 ソプラノ、アルト、それにふたつのフルートが織り成す親密なカルテットも、
 始めに書いたBWV51のアリアと同じく、今の季節にピッタリな、静謐な美しさに満ちていて、すばらしい。


 BWV99、いずれにしても、たいへんな名曲です。



 さて、この曲には、BCJのすばらしいCDがあります。
 BCJのコラール・カンタータはどれも見事ですが、このあたりになると、もうほんとうに独壇場。

 特にこの曲の場合、上記のように、フルートが大活躍するわけですが、
 前田りり子さんのフルートが、野の花のように可憐で、もう、最高!絶品!
 
 わたしは、前田りりこさんの大ファンで、この週末も、あるコンサートに行こうかと思ってたのですが、結局、どうしても都合がつかず、行けなくなってしまいました。
 かわりに、思う存分、このCDを味わおうと思っています。



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 初秋。
 今、東京は、ちょうど、秋の長雨の季節ですが、
 たまに晴れると、びっくりするくらい、気候がさわやかなときがあります。
 木々の緑の輝きなどにはまだ秋の気配は無く、
 初夏に対して、晩夏、とでも言ったらいいのでしょうか。
 わたしは、そのような日が大好きです。

 そんな日には、ブランデンブルクコンチェルトが聴きたくなり、
 ブランデンブルクコンチェルトを聴くと、
 緑の風、というイメージからでしょうか、
 必ず、賢治のこの詩が思い浮かびます。



      高原


  海だべがど おら おもたれば

  やつぱり光る山だたぢやい

  ホウ

  髪毛(かみけ) 風吹けば

  鹿(しし)踊りだぢやい


           
                        春と修羅 グランド電柱より



▽ こちらは、先週、代々木公園、都会の真ん中の緑の風。   

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この記事へのコメント

2007年09月16日 06:24
前田りりこさん、聴いてまいりました。
会場を何の間違いか、オペラシティと勘違いしていたのですが、新大塚のルーテル教会でのコンサートです。
開場を前に早々に並んで最前列を確保いたしました。
柔らかく優しい息吹に満ちた前田さんのルネッサンス・リコーダーを心から堪能してまいりました。
本村さんのリコーダーもまた素晴らしく、リコーダーの音色を髣髴させる上野さんのオルガンもまた始めての経験。
前田さんからはちゃっかりサインも頂いて、夢見心地で帰路に付きました。

>前田りりこさんの大ファンで、この週末も、あるコンサートに行こうかと思ってたのですが、結局、どうしても都合がつかず、行けなくなってしまいました。

これって、このコンサートのことでしょうか?
もしかしたらニアミスしていたかも知れませんね。
2007年09月17日 00:40
 こんばんは。aostaさん。

> 会場を何の間違いか、オペラシティと勘違いしていたのですが、新大塚のルーテル教会でのコンサートです。

 さらに、ルーテル教会は、新大久保だったような気がするんですが。
 ちゃんとたどりつけたようで、よかったです。(笑)

 生演奏を聴いた上に、サインですか。よかったですね。
 初めて聞く曲目だった上に、値段も手ごろだったので、行きたかったのですが、スケジュールが合わずダメでした。

 最近のBCJのカンタータシリーズは、凛とした美しさを増してきたように思いますが、前田さんを始めとするソリストのみなさんの力も大きいと思います。
koh
2007年09月18日 22:44
こんばんは。おじゃまいたします。
ヘンデルの合奏協奏曲は20曲近くあるそうですが、あまり聴く機会はありません。聴いたことのある2、3曲での感想は、あまりおもしろくない感じでした。ソロ協奏曲ではハープ協奏曲(TVの皇室番組のバックによく流されるやつ)など美しい曲ではありますし、ソロソナタやトリオソナタはすばらしいですが、やはりヘンデルは声楽曲の作曲家のように思えます。
まあ、ブランデンブルクに匹敵する協奏曲群などはどこにもないですね。
2007年09月19日 00:46
 kohさん。こんばんは。いつもどうも。
 いつかどこかに書いた、わたしの好きなヌリア・リアルのバッハ・ヘンデルカンタータ集(リチェルカール・コンソート)に、ハープ協奏曲も入っていましたが、確かになかなか美しかったです。
 合奏協奏曲、もちろんわたしは聴いたことありません。(笑)今度聴いてみましょう。
 ヘンデルは、まだ、サンドリーヌ・ピオーや、キルヒシュラーガーのオペラ・アリア集ばかり聴いていて、まだオペラ全曲には進めてません。
 でも、この2枚はすばらしいです。
 リアルのヘンデル・ソロ・カンタータ集(3曲収録)も、リリースされたようなのですが、なかなかみつかりません。
Nacky
2007年09月20日 23:06
Noraさま
ん~。・・・・
E君、それにしても「なんちゅう中学生じゃ!!」という感じですね(爆・。
でも、そのお陰で、バッハに出会えたとなったら、正しくNoraさんの恩人
ですね。
私も、高校時代、生物実験で土壌生物、やりましたよ。
連中は、明るいの嫌いですから、
①広口の三角フラスコにレポート用紙を円錐状に丸めて
ロートのようにしてさします。頂点の部分は、直径3センチくらいの
穴があいた状態で(メガホンのように)。
②そのロートに採取した土をガバッと入れて、その土に上から電球を
照らします。
③すると、フラスコの中にバタバタと様々な土壌生物が落ちてきます。

・・・・・・・・・。

そのお陰で、私は大学に進学して生物化学を専攻してしまいまいした。
でも、私がNoraさんと同じく中学生の時にバッハに出会っていたならば、
今とは、まったく別の道を歩んでいたかも知れませんね。
末筆ながら、カンタータ日記、1周年、誠におめでとうございます。
2007年09月21日 22:36
 Nackyさん、ごていねいに、ありがとうございます。うれしいです。
 Nackyさんも、土壌生物、やってらしたとは!(大笑い)
 でも、まさか、nacckyさん、E君じゃないですよね?だいじょうぶですね?
(それにしても、「土壌生物、やる」というのは、すごい言葉です)

 ご紹介いただいた方法は、ものすごく合理的ですね。文明の香りがします。
 E君は、その場で、ものすごい勢いで種類ごとに選り分けて、数えると、土ごとばらまき、次の場所に移動してました。

 それにしても、土の中にあんなに生き物がいるというのは、驚きでした。
 見えない微生物なんかを含めるとえらいことですね。
 海の中に生き物がたくさんいる、というのは、まだ感覚的にわかるのですが。
 山とかを見て、きれいなけしきだなあ、と思っても、実はびっしりやつらに埋め尽くされてるんだと思うと・・・・。
2007年09月22日 12:19
起き抜けで書いたと思われるaostaさんのフォローを致します。(笑)

ルーテルは新大久保です。
前田りり子さんは、ルネサンス・フルートと、
バロック・トラベルソを演奏されました。

彼女の横笛には感動しました。
エマニュエル・バッハ、素晴しかったです。
2007年09月22日 23:10
 Papalinさん、どうも。
 上のコメントにも書かせていただきましたが、
 ちゃんとたどりつけたか、思わず心配してしまいました。(笑)

 前田りり子さん、
 わたしも、先週、BWV99等の入った、BCJのCDを何度も聴きましたが、ほんとうに心に染み入るようなフルートでした。
 サインもいただいたそうで。
 美しい方だったでしょう。(笑)

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