最近観たアジアの映画・続き~「こころの湯」

 猛暑や天候不順が続いていますが、みなさん、くれぐれもお体には気をつけてください。
 東京は梅雨明けはまだですが、暑中見舞いがわりにちょっとすずしい絵を。



画像




 前回の続きで、アジア映画のご紹介。


 前回、世界4大おじいさんの話をしたところですが、
 今回は、そのうちの一人、中国の朱旭(チュウ・シュイ)さん主役の名作、「こころの湯」について書きます。


 過去に観た映画のことは、きりがないのでなるべく書かないようにしてきましたが、この映画は、別格。
 今回書くに当たってあらためて観なおしてみましたが、やはり、すごい。
 朱旭さんという、どこにでもいるようでいて、実はあまりにも大きな存在が、まるごとそのまんま映画になったかのような作品。
 ともすればくじけそうになる心を、流されそうになる弱い心を、やさしく包み込んで、はげましてくれるような映画。


 日本版予告編に一番始めに出てくる文字。

 万国人民皆破笑落涙

 そのとおりの映画です。
  


 こころの湯 洗澡 SHOWER

        (1999年、中国映画、張揚監督作品)



 中国の、昔ながらの下町にある、昔ながらの銭湯。

 この銭湯の日常、そして、やがて、再開発で取り壊されてしまうまでを、この銭湯を営む老いた父親、リュウさんと、その二人の息子を中心に、銭湯に集う大勢の人たちの悲喜こもごもを交えながら描いた群像劇。


 この銭湯、基本的には日本の銭湯と同じようですが、ちょっとちがうのが、
 散髪、ひげそり、体あらい(あかすり?)、マッサージ、接骨、お灸(壷治療)、
 などなど、さまざまなサービスが充実していること。
 
 つまり、お湯につかるよりも、それらのサービスを受けながらのんびりするウェイトが大きく、中には客同士で、将棋やコオロギ相撲(!)などのゲームを楽しんだり、音楽を聴いたり、読書したり、なんだか半分そこに住んでいるような人までいる。
 したがって、街の最も重要な社交場、憩いの場になっているわけです。


 だから、登場人物も、老若男女、さまざまで、描かれるドラマも、盛りだくさん。
 どこにでもあるような日常的なことがほとんどですが、見ていて楽しくてしかたありません。

 もちろん、その根幹にあるのは、リュウさん親子の物語。

 おじいさんが印象的な映画と言えば、なんと言っても、われらが「東京物語」。

 「東京物語」では、東京で独立している息子たちのところに、老夫婦が訪れますが、
 この「こころの湯」では、リュウさんと障害のある次男のアミン君が仲良く手をとりあって仕事しているところに、
 独立して都会で家庭を持ち、働いている長男のターミンが帰郷してきます。

 つまり逆なだけでまったく同じで、日常的なことをていねいに描いている雰囲気も、どこか似ている。
 よくわかりませんが、影響を受けているのかもしれません。
 
 このリュウさん親子の微妙な感情の移り変わりを柱に、たくさんのドラマが同時進行し、

 最後、それまで、コミカルな脇役的存在だった少年に、にわかにスポットライトが当てられ、
 この少年が熱唱するシーンがクライマックス。
 つまり、ここでも、物語の山に、とってもうまく音楽の演奏シーンが使われているわけで、ほんとうにすばらしい。
 この映画の場合は、「オー・ソレ・ミオ」を歌いまくるのですが。



 特筆すべきは、情緒あふれる中国の古い下町の街並みの美しさ、
 そして、この銭湯、「清水池」の美しさ!

 中国の古い銭湯ということで、中も薄暗いこともあり、はじめは衛生的にはどうなのかな、などと思ってしまったのですが、
 見ていくにつれ、この銭湯、確かに建物は古いものの、実はぴっかぴかで、清潔そのものだということがわかってきます。
 それは大将であるリュウさんの意志が徹底していて、息子のアミン君を始めとする従業員たちが、お客さんのために、心をこめて、ピッカピカに磨き上げているから。

 浴場にある大きな天窓から差し込む、朝の光、夕日、月の光など、
 さまざまな光が、お湯に反射して、古いけれど清潔なタイルにゆらゆらと幻灯のように映るのが、
 もう、夢のように美しい。

 正に、「清水池」。



 「こころの湯」には、
 この銭湯「清水池」を舞台にしたいろいろな人の入浴シーンはもちろんのこと、
 想像の未来のシャワーから、
 中国西域の乾燥地帯、狭北(シャンペイ)地方の婚礼儀式の入浴にいたるまで、
 実にさまざまな、ありとあらゆる入浴シーンが登場します。
 というより、入浴シーンで、映画が成り立っている。
 ありがちな感想で申し訳ないですが、裸だからこそ、生の人間の生き様が伝わってくる。

 そして、途中と最後、2回登場する、
 ヒマラヤ?のふもと、見渡す限りの砂漠地帯、
 この大平原で、一生に一度きり、何ヶ月もかけて行なう、沐浴の巡礼の旅のエピソード。


 冒頭に、中国の銭湯の話からは、まったくかけはなれたようなイラストをのせてますが、
 この砂漠の聖湖こそが、この映画のテーマ、「清水池」、
 リュウさんが、一生をかけて築き上げ、守りぬいたものなのです。


 巡礼の老婆と女の子。
 長い長い旅の果てに、すっかり冬になってしまいました。
 娘が言います。
 「これじゃ、湖についても、寒くてはいれないよ」
 それに対して、老婆が答えます。
 「だいじょうぶだよ。あの湖は意志を持っているんだから」

 エンディング、最後の最後に、リュウさんがずっと直したがっていた、「清水池」のネオンサインが、消え行く運命の真っ暗な街に、高らかに灯ります。 

・・・・号泣。


 ちょっとくわしく書けないので、わけがわからないと思いますが、
 まだ観ていない方は、ご覧になっていただく外ない。



 印象深いシーンは、山ほどあるが、
 その中でも特に心に残ったシーン。

 嵐の深夜、目をさましたターミンは、一人で屋根にのぼってもくもくと雨漏りの修理をするリュウさんに気がつきます。
 自分も屋根にのぼっていき、黙って横で手伝い始めるターミン。
 リュウさんも一言も発せず、そのまま作業を続けますが、ターミンを見た時の、驚いたような、うれしいような表情が、幾千の言葉よりもリュウさんの気持ちを表現していて、すごい!

 屋根の修理が終わるころ。ようやく嵐も去り、屋根に腰掛け、街を見下ろす二人。
 台風一過の夜明けが美しい。


 あとは、親子3人そろって、きゅうりを左手に握ってまるかじりしながら、焼きそばみたいなめんを食べているシーン。
 これは、一般的な光景なのか?男所帯をあらわすユーモアシーンなのか??



 チュウ・シュイさんの主演作では、どうしても、

 「變臉」

 を観たいのですが、いまだに未見です。

 中国の伝統芸能、變臉(へんめん=変面)を題材にした映画で、
 變臉の老巨匠と、その後継者として男として育てられた少女の、愛と感動の物語、とのこと。
 この内容を聞いただけで、胸がいっぱいになってしまう。観たい!
 もちろん、老巨匠が、チュウ・シュイさん。
 (以前、タイの変面みたいのは見ました。こちら。あまり関係ないか)

 ビデオは発売されていましたが、DVDは未発売らしい。
 数年前、某ツタヤにあるのをかぎつけましたが、行ってみたところ、レンタルのまま未返却の状態で、紛失あつかいになっているとのこと。
 そいつの家まで取り立てに行ってやろうかと思ったのですが。



 他に、最近では、

 「王様の漢方」

 を観ました。

 作品としてはまあまあでしたが、チュウ・シュイさんの存在感はあいかわらずすごかった。
 (これは、日中合作)



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

画像





この記事へのコメント

my
2008年07月14日 20:23
 Noraさん、今晩は。昨日からの厳しい時間から、ほっとして少し飲んでいます。素敵なイラストですね。これどちらから? Noraさんがお描きに?
 私のイマジネーション・・・老人と少年・・・青い路は2人の未知の世界に・・・ぼんやりと霞む先は・・・はて、何があるのでしょうか。群立する氷、即ち、都会のビル街、2人は遠くを見つめながら夢を語りあいます。
 汚い老人(私)・・・可愛い少年(公園で出会った子)・・・
 話は変わります、「東京物語」笠智衆、原節子、小津安二郎監督の作品は本当に良き昭和の風物詩です。お若いと思える Noraさん・・・本当に良い映画を見ていらっしゃるんですね。世の中広い・・・
 最後に、Noraさん がご紹介なさっていらっしゃる「さいごの湯」見たいです、ではなく絶対に見ますよ。
2008年07月14日 22:14
 myさん、こんばんは。暑い日が続きますね。
 この絵は、この映画に出てくる1シーンを思い出して、わたしが描きました。「ペイント」という、パソコンについているソフトで、マウスを使って描くのですが、まったく思い通りにいかないところが逆におもしろいです。
 物語の結末にも関係するので、この絵については、本文にはあまりはっきりとは書けなかったのですが、わたしの絵をもとにいろいろなイマジネーションを働かせていただき、とてもうれしく思います。
 実際は・・・・。映画を観ていただければ、すべてわかります。

 「東京物語」、ほんとにすばらしいです。劇場、テレビ、ビデオ、DVD、何度観たかわからず、ほとんどのシーンをおぼえてしまっています。
 この「こころの湯」は、中国の若い監督の作品なのですが、「東京物語」の世界を現代中国に移したような、よい映画だと思います。
 わたしは観てませんが、主演の朱旭(チュウ・シュイ)さんは、NHKのドラマ「大地の子」で話題になった方です。機会があったら、ごらんになってくださいね。

この記事へのトラックバック

過去ログ

テーマ別記事