緑輝く季節・1718年~今年前半にかけて聴いたCD・ヘンデル編3<特別編>【三位一体節後第2日曜日】

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 バッハ・ファンのヘンデル入門、つづき。



 イタリアン・カンタータのことを書く前に、つい数日前、ヘンデルのすばらしいオペラを聴いたので、そのことを。

 ヘンデルの大規模な声楽作品については、

 オペラ「ジュリオ・チェザーレ」

 カンタータ「クローリ、ティルシとフィレーノ」

 に続いて、ようやく、3曲目。
 
 ヘンデルのオペラ、初体験の後、なかなか2作目を聴けずにいましたが、
 CD2枚で短い(全曲90分弱)ということもあり、勢いで、一息に全曲聴いてしまいました。

 オペラ経験2作目となったのは、これまで狙っていた、錚々たる「NO.2オペラ」ではなくて、
 それほど有名ではない?地味で小規模な作品。

 だけど、すばらしかった!

 未聴の、いや、これまで存在すら知らなかったこのようにステキな音楽が、まるで未踏の山脈のように、目の前に山積みになっているというのは、実に驚くべきことであると同時に、何てしあわせなことなのでしょう。



 「アチスとガラテア」 ACIS&GALATEA

        ウィリアム・クリスティ、レザール・フロリサン

 * 「エイシス」と表記している場合もありますが、
   わたしは、CD検索しやすいように、基本的にHMVの表記にあわせています。




 前回の記事で、何枚ものアリア集を聴いた結果、印象に残ったアリアを最も多く含むオペラ、次にぜひチャレンジしてみたいオペラとして、

 「ロデリンダ」をあげましたが、

 それとともに、妙に気になっていたのが、実は、この、「アチスとガラテア」です。


 前々回の記事でご紹介したATMAレーベルのルブランのアンソジーに、抜粋が収録されていた曲。

 カンタータ・ファンにはおなじみの、ルブランとミルン指揮モントリオール・バロックの颯爽とした演奏で、
 とびっきり楽しく美しいシンフォニアと、アリア数曲、そして合唱が収められていました。



 それで、さっそくどんな曲か調べてみようとしたのですが、この曲、オペラ代表としてこのアンソロジーに収められているくせに、それほど知られていないようで、どうも、要領を得ない。

 そもそも、他のアリア集にはほとんど収録されていませんし、まとまった解説等も少ない。
 頼みの綱のREIKOさんもこの曲そのものについては、ほとんど触れてらっしゃらない。

 それでも、何とか各資料を総合してみると・・・・、

 オリジナルは英語。まず、これ自体がオペラとしては意外です。

 そもそもこの曲、純粋なオペラというわけではなく、厳密には牧歌劇(パストラーレ)、または仮面劇(マスク)と呼ぶのが正しいようですが、後年のオペラに比べて、踊りや合唱(というより重唱。オリジナルでは、登場人物+数名の重唱が多い)のウェイトがやや大きいものの、まあ、オペラと言っても差し支えないみたい。

 作曲が1718年なのに、初演?されて人気が出たのが1730年代で、ヘンデルによるたくさんのバージョンがあるらしい。
 さらには、なぜかモーツァルトやメンデルスゾーンまでが、わざわざこの曲を編曲していて、ドイツ語バージョンやらフルオーケストラバージョンやら入り乱れていて、実にややこしい。



 とにかくCDを聴いてみよう、と、探してみましたがなかなか見つからず、途方に暮れていると、

 いつも、ブログを読ませていただいているrbhhさんが、何と今、この曲を練習中ということを知り、びっくり。

 それで、この曲についておおまかな感じをつかむことができたばかりか、アンソロジーに収録されていなかった、ステキなアリアや合唱を聴くこともできました。


 rbhhさんの「アチスとガラテア」に関するページ →→ こちら


 * 「アチスとガラテア」の映像がリンクされていて、
   そのすばらしいアリアや合唱を聴くことができます。



 映像が始まったとたん、いきなり見覚えのある、というか、忘れもしない顔が。
 まさか!?とは思いましたが、なんと、ガラテア役は、クレオパトラのドゥ・ニース姉さん。
 打って変わって、しっとりとした神話の女神風の衣装を身にまとってますが、相変わらず金魚みたいに口をパクパクさせ、踊りまくっています。すごい!踊りにますます磨きがかかってる?(特に2曲目の合唱)
 感動的な音楽なのに、まず、大笑いしてしまった。
 他にも、1曲目の全身タイツのあやしい人など、つっこみどころ多し。

 でも、ほんとうにすばらしい、感動的な音楽です。

 このライブ、DVDでないのかな。絶対買うぞ。


 rbhhさんには、いつもとてもタイムリーなことや、逆にまったく思いもかけなかったようなことを教えていただき、心から感謝しています。

 

 こうなると、何がなんでもCDが聴きたくなるわけですが、
 これを見た翌々日、あれほど探して無かったCDをあっけなくゲットすることができ、
 もうその日のうちに全曲、一気に聴いてしまいました。



 それにしても、なんてステキな音楽なのでしょう。


 物語は、ものすごく単純な、極めて神話的、牧歌的なもの。
 深く愛し合う、幸せなアチスとガラテア。
 しかし、ガラテアに一目ぼれした海の怪物ポリフェーモ(ムス?)に、アチスは殺されてしまう。
 ガラテアは、悲しみにくれながらも、アチスを美しい泉に変える・・・・。

 * なお、前回の記事でご紹介した、ヴァージン・クラシックスのアンソロジーに収録されている、
   「重低音バスアリア」は、「アチ、ガラテアとポリフェーモ」というカンタータのポリフェーモのアリアですが、
   この作品、同じ題材によりますが、まったく別の作品。



 この神話的・牧歌的世界にふさわしく、その音楽は、始めから終わりまで、息をつくヒマもなく美しいアリアや踊りが続き、生き生きとしていて、まぶしい生命力にあふれ、もうはちきれそう。


 ”Hush”や、
 ”As when the done”
  などのアリアの、さわやかなで心地よい美しさ、
 特に後者の、夏のこずえの光のように、キラキラときらめくリコーダー+高音Vnの響きの妙。

 そして、どぎもを抜かれるのが、第1幕エンディングの、ハッピハッピ!の大合唱!
 始めは、何と、歌詞が”Happy we!”だけのアリアで、主人公カップルがいつ果てるともなく、ハッピハッピ!と歌い交わし、あげくの果てには、これに、やはりハッピハッピ!の大合唱が、加わります。

 ヘンデルの底抜けに明るいメロディと合わせて、始めはなんちゅう能天気な、と思いましたが、これだけ明るいと、ある意味感動的。喜びがストレートに脳髄を刺激する。
 まったく、ディズニーランドかい!
 あ、でも、だから、わたしは気に入ったのか?

 その他、そのハッピハッピ!直前に、主人公カップルが、それぞれ恍惚となって歌う、夢見るようなアリア、
 第2幕冒頭の、古風な旋律と近代的な旋律、それぞれのフーガが見事にひとつに重なり合う対位法的合唱、
(バッハ先生、うかうかしていられない?)
 そして、
 悪役ポリフェーモが登場し、アチスがやられた後の、
 ”Must I my Acis still bemoan”を始めとする、
 まるでバッハの教会カンタータの曲だと言ってもおかしくないような、ある種の気高い精神の光を帯びたかのようなナンバーの数々。
 何もかもが、あまりにも美しい。 


 歌詞が英語なのも、始めはやや不思議な感じがしますが、
 その方が、以前REIKOさんがお書きになっていたように、ポピュラーミュージックそのものみたいに思えて、なかなかよい。


 全曲、一息に聴きとおして感じたのは、まるで、バッハの書き得る最高のコンチェルトや世俗カンタータみたいな傑作だな、ということ。
(実際に対位法的部分も多く、さまざまな動機による全体の統一もはかられていて、いかにも「バッハ風」)
 前述の「クローリ、ティルシとフィレーノ」などとともに、ヘンデルのその後の本格的なオペラ・オラトリオ作曲の源泉になったような作品、と言っていいのではないでしょうか。


 
 と、「世俗カンタータ」や「源泉」と言う言葉が思い浮かんだところで、ふと気になって、作曲年代を再度確認したところ・・・・、
 びっくり!

 1718年

 バッハに目を移すと、この年は、ケーテン2年目。

 バッハにとっても、この年は、教会カンタータをはじめとするその後の全創作の源泉ともいうべき世俗カンタータや器楽曲が、汲めど尽きせぬ泉のように、次々と生み出された年です。

 シーザーの記事で、この両巨匠の全創作のピークというべき時期の一致について書きましたが、
 この二人、人生における「若葉の頃」とも言うべき、本格的創作の原点となるような、輝かしいスタートの時期も、ぴったりと一致していた?


 このように不思議な符号がありながら、まったくの平行線のまま、最後まで決して交じり合うことが無かった二人の生涯ですが、
 折りしもこの翌年、二つの線がかぎりなく接近します。
 バッハがヘンデルに会おうとして、ふられたのです。

 会ったところで、どうなるものでもなかったろう、というのが大方の見方ですが、
(大スターヘンデルに、バッハなど、ほとんど相手にされなかっただろう)
 もしかしたら、とんでもないことになっていたかも?


 まあ、以上、実際のところは、確信犯的なこじつけではあるのですが、
 まったく無視するには残念なような符号ではあります。  


 
 わたしが聴いた全曲盤は、クリスティ&レザール・フロリサンのCD。

 堂々としていて美しい、実に見事な演奏です。
 歌手も粒ぞろい。bcは曲によって変えられ、特に旋律にやわらかにからむリュートの美しさはためいきが出てしまうほど。
 ポフェーモも、いかにも悪そうな声がいい。

 このBOXセットには、晩年の「セオドラ」や、イタリアン・カンタータなども収められていて、これらを聴くのも楽しみ。
 また、イタリアン・カンタータのコレクションが増えてしまった。
 早く書かねば。ヘンデル・イヤーが終わってしまう。


 ただ、作品特有の若々しさ、瑞々しさという点からは、ミルン&モントリオールの抜粋の演奏の方に、より魅力を感じます。
 リコーダーの響きなど、ほんとうにきらきらとして、まぶしいくらいに輝いている。
 こちらのbcは、オルガン、ポコポコしていてかわいい。

 もちろん、これの全曲盤があるわけですが、なかなか入手しにくいみたい。
 絶対ゲットするぞ!



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  *    *    *    *    *    *



 最後になりましたが、明日(6月21日)は、三位一体節後第2日曜日。
 季節はどんどんめぐっていきます。


 カンタータは、

 第1年間のBWV76
 第2年間(コラール・カンタータ)のBWV2
 の2曲。


 ↓関連記事は、こちら。↓


 <三位一体節後第2日曜日>

      始まりはいつも Overture(BWV2、76他)
      (参考資料) コラールカンタータ年巻 「始まりの4曲」 一覧
      三位一体節後第2日曜日(BWV2、76)



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2009年06月22日 09:36
どうもです♪(^ ^;)
この「アチス~」のクリスティ盤、ボックスになる以前のCDで持ってるんですが、まだ拙ブログでは、オペラだと「リナルド」も「オルランド」も(秋にコンサート?がある)「オットーネ」も、ちゃんと紹介してないし(一応タイトルくらいは言及してますが)、オラトリオもいいのが一杯あって、なかなかここまで手が回らないです。
もうヘンデル・イヤーも半分過ぎようとしてるのに・・・!(大汗)

お書きになっている通り、この作品は分類的にビミョ~ですが、「イタリア語のオペラでもないし英語のオラトリオでもないヘンデル作品」には、意外と傑作が多い・・・の典型みたいなもんだと思います。
これが気に入った方は、「快活の人、ふさぎの人、温和の人」(L'allegro, il penseroso ed il moderato)という、やはり分類ビミョ~作品もいいと思います。
題は伊語ですが台本は英語で、イギリスの田園テイスト満載♪
春に聴くといいんですが・・・これも紹介しそびれてしまいました。(滝汗)
もうこの辺りのヘンデル作品は、Noraさんに紹介をお任せしちゃおうかな?
かげっち
2009年06月22日 12:27
全然見たことがない舞台ですが、演出家ヘンデルの稀有のセンスをうかがい知るような紹介記事でした。どんな場で誰のために上演されたのか?・・・そういえば昨晩の日曜美術館はロダンとカミーユの話で、彫刻「ガラティア」もとりあげられていました。
S君
2009年06月22日 17:46
こんにちはNoraさん。実は僕も最近、ヘンデルにプチはまっています。とはいえ、僕が聴いているのはオペラではなくてオラトリオです。なぜオラトリオかというと、アリアはもちろん美しいのですが、ヘンデル渾身の合唱曲が沢山聴けるからです。メサイアは別格として、ユダ・マカベウス(マギーガン)、イェフタ(ガーディナー)、エジプトのイスラエル人(ガーディナー)、ベルシャザール(クノーテ)など傑作揃いだと思います。良いですねヘンデル。
S君
2009年06月23日 13:56
それからマクリーシュのサウルもすごく良かったです。オラトリオと言っても、アリアはオペラと同じように華麗そのもの、さらに趣向凝らしまくりの合唱曲がふんだんに聴けるのですから、これは最強のヘンデルではないでしょうか。そのうちNoraさんの感想が聞ければうれしいですねー。
2009年06月24日 01:56
 REIKOさん、こんばんは。
 実は、Virginレーベルのアニヴァーサリー盤の中で、「ロデリンダ」のラルゴや、「リナルド」(=「クローリ・・」)のデュエットとともに、最も気になったのが、この「快活の人・・」のデュエットでした。
 このデュエット、のどかで、わたしの特に好きなタイプの曲調なので、たぶん全曲も気に入るにちがいないような気がします。
 良いCDがなかなか無いようですが、この曲は絶対聴いてみようと思っています。まあ、何とかなるでしょ。

 それにしても、早いもので、ヘンデル・イヤー、もう半年過ぎてしまいましたね。
 ほんとは、イタリアン・カンタータの感想などを、どんどん書きたいのですが、ほとんどすべて輸入盤で、そもそも何を歌ってるのやらさっぱりわからず、いったい何を書いていいやら。(笑)
 よく考えたら、今年中に、全部聴いたり感想を書いたりすることもないんじゃないか、という、何でも先送りする、昔からのなまけ心が、早くもむくむくとわきおこりつつある、今日この頃です。
 まあ、できるだけがんばりますので、今後ともよろしくお願いします。
2009年06月24日 02:09
 かげっちさん、
 イタリアで、カンタータや器楽曲などをバリバリ書いて修行したヘンデルは、イギリスに渡り、オペラ作曲家として華々しくデビューするのですが、その直後、イギリスでは、さまざまな理由から、オペラ上演がしにくい状況になってしまったようです。
 そんな時期に、ある大金持ちの伯爵の邸宅で上演するエンターティンメントとして作曲されたのが、この曲みたいです。
 その後、他ならぬヘンデル自身によって、イギリスにおいてオペラ・ブームが再燃するのは、ご存じのとおり。
 以上、にわか知識でした。
2009年06月24日 02:29
 S君さん、こんばんは。
 プチはまり、どころか、あいかわらずたくさん聴いてらっしゃるようですね。

 この「アチス・・」も、一般のオペラに比べれば、魅力的な合唱がたくさん登場する作品だと思います。
 ヘンデルというと、これまでは、やはりオペラのアリアなどの、のびやかな旋律の魅力にとらわれていましたが、この作品を聴いて、合唱のすばらしさや対位法的なずばぬけた実力も再認識すしました。
 晩年のオラトリオなんか、すばらしいんでしょうね。
 ああ、早くそこまで行きたい。
 とりあえずは、REIKOさんのご指示?どおり、ビミョーな作品をおさえつつ、できたら、そちらの方もちょこちょこ聴いていけたら、と思っています。
 一応、今年の目標は、年内にもう一つ、オペラを観ること、
 それから、オラトリオの大作、「サウロ」か「ソロモン」あたりを聴くこと、にしました。(大幅に縮小)
 今回あげてくださったCDは、早速参考にさせていただきます。
 また、いろいろと教えてください。
2009年06月24日 05:48
はじめまして。オランダ在住のレイネと申します。ヘンデル・イヤーも半年を過ぎ、そろそろ来年のことなどを考えてしまいます。今年はヘンデルで散財してしまいました。個人的にはバッハに移行か、と思い、貴ブログを参考に勉強させていただいています。

さて、ヘンデルの「アシスとガラテア」ですが、4月にロイヤル・オペラ・ハウスで実演を観ました。ロイヤル・バレエとの共同プロなので、ダンスが半分くらいの演出で、ダニエル・デ・ニーゼがガラテア役でした。ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサーといっしょに踊ってしまうところが、ダニエルちゃんの面目躍如。彼女、踊りは上手なんですが、あの声と歌い方が、わたしの好みからは非常に外れます。どうも生理的に合わないんです。オランダでは、けっこう聴く機会があるダニエルちゃんなんですが。

カウンターテナーのローレンス・ザゾとヌリア・リアルちゃんの「リチャード1世」は、全幕ものですが、美しい歌声にも変化のある器楽演奏にも惚れ惚れと聴けるので、長さを感じません。ヘンデルのオペラではお勧めです。

これからも、よろしくお願いします。
2009年06月26日 01:31
 レイネさん、はじめまして。

 あれは、本職のバレエ団との共演だったのですね。どうりで踊りがすごいと思いました。
 それにしても、プロのダンサーの手を借りているとは言え、やはり互角に踊ってしまうところは、さすがだと思います。
 ドゥ・ニース(日本のCDショップの表記に合わせています)は、確かにあまりにも個性的なので、好き嫌いがはっきり分かれるのかもしれませんが、
(わたしも、もしCDだけを聴くとしたら、彼女の演奏を選ぶかどうかはビミョーです)
 オペラにほとんどなじみの無いわたしが、「シーザー」などに親しむことができたのは、まちがいなく彼女のおかげだと思います。
 彼女には、歌って踊りまくるあのインド映画にも通じるような、ど根性とサービス精神を感じて、わたしは好感を持っています。

 「リチャード1世」の情報、ありがとうございます。どんな曲だか見当もつきませんが、出演者を聴いただけで、何だかよさそうですね。必ず聴いて、感想を書かせていただきます。

 わたしは、ほとんど手探りであれこれ聴いている状態なので、またいろいろと教えてくださるとうれしいです。

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