バッハ没後259年記念 小川の流れる映画SP~「真夏の夜の夢」(無伴奏チェロ組曲)

 ここのところ、ずっと映画の記事を書いていなかったので、バッハの命日(7月28日)には、「小川の流れる映画」(=バッハの音楽が使われている映画)特集をやりたい、と思っていました。

 ただ、一応候補作はあったのですが、ちょっと中途半端で書くことがあまり無く、どうしたものかと困っていたところ、
 前回の記事にも書いたとおり、これまでずっと楽しみにしていて、先週の土曜日の封切初日に観に行った沖縄映画が、とってもスペシャルな「小川の流れる映画」!で、びっくり。
 何て、タイムリーなんだ。

 さっそく、この映画の感想を中心に、記事を書くことにします。
 これで何とか間に合った。



 真夏の夜の夢

        2009年、中江裕司監督作品


▽ 写真左側はパンフ。右は映画のちらし。
  パンフの写真は、ちらしの真ん中に写っているサンカク山のてっぺんに、
  キジムン(精霊)のマジルーが座っているところ。マジルーはここがお気に入り。

画像



 公式HP (予告編、見てね)


 ちょうど2年前のエイサーまつり&オリオンビア・フェストの日に見た、「恋しくて」以来の、中江裕司監督作品。

 とにかく、ずっと待っていました。

 「恋しくて」とはまたがらっと変って、今回は、中江監督お得意、ど真ん中のウチナー・ファンタジー。


 人間と精霊が結ばれて誕生した琉球王朝。
 その琉球王朝の末裔たちが暮らす小さな美しい島、世嘉冨(ゆがふ)島を舞台に、
 キジムン(=島の守り神の精霊)のマジルーと、人間のゆり子の、心の交流を描く物語。

 ゆり子は、子供のころ、マジルーと大の仲良しだったが、成長するにつれ、いつしかマジルーのことを忘れてしまう。
 月日は流れ、都会での生活に傷ついたゆり子は、島に戻ってくるが・・・・。

 悲しいことが多すぎて、ものを忘れないと、とても生きていけない「哀れな」人間。
 そして、そんな人間に忘れられたら、ニーラスク(神の国)へと消え去らねばならない「滑稽な」キジムンたち。

 物語の中心は、タイトル通り、「恋の秘薬」をめぐるハチャメチャ喜劇だけれど、
(原作、一応シェイクスピアで、結婚式での劇中劇もちゃんとあります)
 それが明るければ明るいほど、ラストが胸に迫る。
 「ナビィの恋」の時もそうでしたが、この映画、実は、中江監督の、けっして安直なハッピーエンドで終わらせない、ちょっと怖いくらいのシビアなまなざしに貫かれている。

 書きたいことは山ほどあるけれど、ネタばれになってしまうので、作品そのものについては、これくらいしか書けないのがもどかしい。
 
 いずれにしても、こんなにせつなく悲しい話には、ここのところお目にかかったことがなかった。


 キャストは、みんな、飛びぬけて魅力的です。
 7年前、「ホテル・ハイビスカス」で美恵子を演じた蔵下穂波さん(当時小学3年)は、ものの見事に、たくましい?(失礼)キジムンに成長していましたし、
 映画初主演、ゆり子役の柴本幸(ゆき)さんも、気持のよい体当たり演技。
 (あの「鹿男 あをによし」で、マドンナ役をやった人。お母さんの真野響子そっくりで実に美しいのだが、お父さんの柴俊夫の血もかなり混ざっているのが一目でわかる・笑)

 その他、やはり「ハイビスカス」組の和田聰宏(そうこう)さんは、月9の苦い?経験を乗り越えて、ひょうひょうとした存在感がパワーアップ。かなりかっこいい。
 そして、平良進さん、とみさん夫妻は、ニーラスクへ去りゆくキジムンの王&王妃役で、本来のウチナー芝居の神髄を見せてくれました。
 夫婦の役柄が逆なところが、おもしろい+ちょっと怖い(笑)


 さて、かんじんの音楽。

 中江監督は、とにかく音楽をとても大事にする人で、「ナビィの恋」のすばらしいサントラについては、以前書きましたが、この映画でも、やはり音楽の使い方が見事。

 今回の映画では、これまでのように、さまざまなジャンルの音楽を、まるでおもちゃ箱をひっくりかえしたようにちりばめるのではなく、
 かなり限定的に、絞り込んでいるのが特徴的。

 そして、その中心となるのが、島唄でも、ジャズでもなく、前述のとおり、何と、バッハ無伴奏チェロ組曲なのです。
 全編にわたって、何度も何度も流れる。しかも、いろいろな部分が。ほとんどテーマ曲。
 これほど、バッハの音楽を徹底してBGMに使った映画もめずらしいのでは。
 監督の頭の中には、脚本のかなり早い段階から、ずっとこの曲が流れ続けていたらしい。
 この曲ありき、で、さまざまなシーンができあがった、ということ。
 喜びも悲しみも、常にたった一人で歌い続ける、というのが、この映画の根幹のテーマにもつながる。

 オープニング、青い海の彼方から、舞台となる伊是名島(作中では、世嘉冨島)の有名なピラミッド・グスク(さんかく山)が、どーんと登場するところ、
(いきなり、何という美しさ!)
 その他、
 泥酔したゆり子が、夜のしじまの中、マジルーの蛍火に導かれて家にたどりつく場面、
 昔のように心を通い合わせられないマジルーとゆり子が、離れ離れで、さびしく月や星を見つめる場面、
 マジルーとゆり子がたった二人、手をとりあって、島中の山や野原や砂浜を、いつまでもいつまでも駆け巡る場面、
(マジルーは足が速いのだけが取柄のキジムンなので、マジルーと一緒だと、どこでもものすごいスピードで疾走できるのだ)
 などなど。
 
 ト長調(1番、BWV1007)やハ長調(3番、BWV1009)の、プレリュードや、サラバンド、アルマンドなどの舞曲の数々が、重要なシーンになると、必ず流れます。

 しかも、この無伴奏の演奏が、驚くほど透明で軽やか、何とも清らかで美しく、映画の空気感にぴったりマッチしている。
 古楽器というわけでもないのに、いったいどうしたことだろう、と思ったら、
 この無伴奏、川本嘉子さんによる、「ヴィオラ」演奏なのでした。
 うーん。ヴィオラ盤、なかなかよいものだな。

 この映画、森の木々や花々、海や空や雲、夜の月や星、その他島の自然が、実に美しく、ていねいに映されていることでは、これまでの作品の中でも群を抜いていると思います。
 それらの極上の映像を見ながら、極上の無伴奏を聴く幸せ。
 それを味わえるだけでも、この映画、かけがえのない価値がある。


 全曲をとおして無伴奏が流れる映画としては、
 ベルイマン監督の「サラバンド」について、以前書いたことがあります

 あの頃の生意気でアホなわたしは、
 「まあ、全体的には、サラバンドを死ぬほど聴いてみたい、という方には、まちがいなくおすすめ」などと、皮肉っぽく書いたものですが、

 今回は、心から、この映画をおすすめしたいと思います。

 夢のように美しい無伴奏の演奏と、夢のように美しい島の風景を、(そして、愉快だけれど、ちょっとせつないストーリーを)心ゆくまで味わいたいという方、ぜひこの映画をごらんになってみてください。


 音楽的には、他に、もちろん島唄も大充実。
 おなじみ登川誠仁大先生、始まりの口説(クドゥチ)の他、
 「べーべーぬ草かいが」を淡々と歌ってます。
 (但し、今回は本人は登場せず、映画上は、平良とみさん扮するキジムンの王が歌っている)
 他にも、大勢の沖縄の皆さんによる天にも響かんばかりの「弥勒節」の大合唱、
 などなど、
 今回も聴きどころ満載。



 弥勒節歌詞大意(パンフより)

 この世が豊饒になって、あらゆる人が幸せにならないかぎり、
 自分も幸せにはなれません。


 
 ところで、映画を観た後、ぴあの満足度出口調査に、初めて遭遇した。
 こんな風にやっていたんだ。というか、まだやってたのか。

 総合点を聞かれて、わたしが、興奮気味に、「90点!」と答えると、連れが横で、かなり冷静に、「75点」、と、けっこう微妙な点数を付けている。
 なんとなくストーリー展開にぎこちなさを感じたらしい。
 そう言えば、シェイクスピアの原作をなぞるのにこだわったためか、中江作品のいつものような自然な流れがさまたげられている部分があったかも。
 でも、わたしは、この圧倒的な音楽と映像があれば、十分満足。 


    
    小川氏に、深い愛と感謝を込めて。
    あなたの音楽は、こんな、はるか遠い南の島においても、
    このようにすてきな映画の、血となり、肉となって、
    生き続けているのです。

                              ’09年7月28日



 バッハの命日にちなんで、rbhhさんがまとめてくださった、
 「小川の流れる映画」の記事は、こちら



 わたしの方も、あとちょこっとあるのですが、はじめの1作だけに気合いが入りすぎ、えらく長くなってしまったので、分けて書くことにします。

 と、いうわけで、続く。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

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宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

かげっち
2009年07月29日 12:18
Noraさん、こんにちは。そう来たか!という感じです(笑)小川が出てくる映画って他に何があるかな~?
2009年07月31日 23:46
 かげっちさん、
 実は、かなり前からコツコツ探していて、こんなページもあります。
(→右URL蘭→)
 もし、何か発見されたら、こちらのページのコメント蘭に、タイトルだけでも書いてくださるとうれしいです。

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