豊穣の秋~バッハとヘンデル、とっておきの新譜2枚【三位一体節後第18日曜日】

 今度の日曜日(9月11日)は、三位一体節後第18日曜日。


 カンタータは、
 第2年巻(コラール・カンタータ)、またまたフルートが清々しいBWV96
 後期4年目のアルトのためのソロ・カンタータ(コンチェルト付)、BWV169
 の2曲です。


 BWV169はCDもたくさんある名曲ですが、ぜひ、この機会に、BWV96もお聴きになってみてください。
 冒頭コラール合唱。
 大海原のたゆたう波のように、平原を渡る風のように、さらには光の波動のように、ゆるやかに流れる弦の合奏に乗って、自由に飛びまわる小鳥のごとくさえずる木管。
 この絶対的な平穏さ、清々しさは、いったい何でしょう。
 小春日和。ただの小春日和ではない、天上の小春日和。
 コラールカンタータの年の後半、もしかしたらバッハは、わたしたちには想像もつかないような、とんでもないところ、異次元に足を踏み入れてしまっていたのではないか、
 と、思うことがたびたびあります。
 これも、そのひとつ。


 * 追記

 BWV96、改めて聴いてみました。リリング全集盤。
 冒頭合唱の、やさしさ、柔らかさが、例えようもない。
 フルートが登場するのは第3曲テノールアリアで、
 冒頭合唱で大活躍する管楽器は、もっと高音でキラキラしていて、どうやらピッコロみたいです。
 「バッハ事典」によれば、正確な楽器指定は、フラウト・ピッコロ(ソプラニーノ・リコーダー)で、
 晩年の、ヴィオリーノ・ピッコロに置き換えられた版もあるとのこと。



 同日の記事は、こちらこちら



 *    *    *    *    *    *



 前回の記事に書いたように、台風の影響が心配ではありますが、世の中は、そろそろ実りの秋。

 CDの世界も、芸術の秋、ということで、魅力的なCDが次々とリリースされ始めました。

 今日は、その端緒を飾る、バッハとヘンデルのとびっきり魅力的なCDを、1枚づつだけ、ご紹介。



 LOTTI-ZELENKA-BACH

        ヘンゲルブロック


画像



 * 曲目、演奏者等の詳細は、こちら


 ロッティ、ゼレンカ・・・・。

 どうしてそんなにも、マイナー作曲家、マイナー曲が好きなのか?

 まあ、確かに、ロッティは魅力的だし、バッハのカンタータも、ちゃんと録音してくれてはいるが、

 そのカンタータにしたって、なぜそんなにも初期作ばかりにこだわる?


 だけど・・・・、

 この前リリースしたCDも含めて考えると、

 ヘンゲルブロック、もしかして、万が一、ひょっとすると・・・・、

 バッハのカンタータを、同時代の作曲家のメジャー・マイナー取り混ぜたさまざまな作品と比較しつつ、
 初期作から順番に、最晩年の作品にいたるまで、体系だてて録音していく。


 と、いう、壮大なプロジェクト、野望、ライフワークを、胸に秘めている?

 なんだ、それならそれで一こと言ってくれれば、一生ついていくのに・・・・。

 なーんて、思わず淡い夢を抱いてしまうが、どんなに夢を見たところで、それはおそらくむなしい夢にすぎず、

 天才肌で、とにかく手当たり次第何でもやってきたヘンゲル兄さんが、そんなきちんとした将来の展望を持っているとは到底思えず・・・・、
 なにしろ、突然、ブルックナーなどで定評のある、ドイツの名門モダンオケの音楽監督になってしまうような人なんだから・・・・。


 ・・・・などと、だらだらグチみたいなこと言ってますが、それも、このCDの演奏が、もうあきれてしまうほどに圧倒的だから。


 BWV12、実は、初期のカンタータの中では、割と好きな作品ではありますが、

 まるで、哀愁が涙となって滴り落ちるかのようなシンフォニア、

 そして、心をえぐるように、大地を揺るがすように、うなりをあげるラメント・バス、

 このラメントバス、
 この後、最後のロ短調ミサにいたるまで、バッハが生涯を通じて、ここぞと言う時に必ず登場させた、偉大なるモチーフの、ほとんど最初の登場例に他ならないのだが、
 その記念すべき音楽が、こんなにも鮮烈に、そしてそれと同時に豊かに響きわたったことが、かつてあっただろうか。

 いや、おそらく何度もあったにちがいないんだろうけど、そのように思ってしまうくらいの極上の音楽、ということ。

 切り口の鋭い、見事で「おもしろい」演奏が、それこそキラ星のごとく次々と出現する現在の古楽会にあって、ヘンゲルブロックただ一人が、天性の素養として始めから身につけている、なかなか他をよせつけない美点、
 どんなに鮮烈な、激しい演奏をしても決して失われることのない美点。
 それは、正にドイツの中庸、何よりも自然な「豊穣さ」に他なりません。

 後半、大活躍のスライド・トランペットも、素朴な音色ながら、思いっきり鮮やかな吹きっぷりで、ストレートに心に響く。


 でも、1点だけ、これはいつものことで、日本でいまいち人気が出ない決定的理由の一つなのかもしれないけれど、
 バルタザール・ノイマン・アンサンブルの場合、ソリストも合唱団員が担当しているようなので、(今もそうなのかどうかはいまいち定かではありませんが、そのため、彼らの声楽作品のCDジャケットには、ソリスト名がクレジットされていない場合がほとんどだと思います)
 いずれにしても、いかにもプロフェッショナルなソロの声楽家の、バリバリの熱唱、超然とした名唱を期待すると、素朴すぎて肩透かしを食ってしまうかもしれません。

 実は、わたしは、むしろこの点も、ヘンゲルブロック&バルタザールの魅力だと思っています。こちらくらいの方が、断然自然で聴きやすい。

 名盤・ロ短調ミサの、ソロを聴いてみてください。
 この演奏、多くの方が、「ソロ歌手のレヴェルがそろってないのが残念」とおっしゃるようですが、わたしたちのまわりに、いつも存在している「歌」とは、もともと、このような「自然」なものではないでしょうか。


 以上、さんざん文句も言ってしまいましたが、ロッティとゼレンカも、もちろん良いです。

 何だかくやしいけれど、結論を言えば、またまた「超名盤」と言っていい仕上がりです。



 HENDEL between heaven & earth

        ピオー


画像



  * 曲目、演奏者等の詳細は、こちら


 ピオーについては、この前、ヘンデルのオペラ・デュエット集が出たばかり。
 かなり前に、オペラ・アリア集もリリース済みで、どちらも、オペラのオペラたる劇的な部分を全面に押し出した選曲、表現のユニークさが、すでに定評のあるところ。
 それでは、このCDはいったい何なのかと思ったら、どうやら、オラトリオも含む宗教的な作品を中心とした、アリア集ということみたい。タイトルもそれっぽい。かなりベタだけれど。

 このようなCD、ありそうで無かった?
 REIKOさんによると、オラトリオや宗教曲などに関しては、このようなCDのレパートリーになりそうな有名ソロ・ソプラノ曲が、そんなにたくさん無いそうなので、(オペラのソロ・バス曲がそれほど無いのと同じように)このような企画自体、難しいみたい。
 それにしては、よくこれだけのものを作ってくれました。
 ちょうど、ヘンデル・イヤーの今年も3分の2が過ぎて、オペラも何曲か聴いたことだし、そろそろオラトリオを聴かねば、と思っていた矢先、よい予習盤になりました。


 ピオーは、最近ではオペラティックな歌姫としても不動の地位を築いているようですが、コープマンのカンタータ全集でもおなじみなように、本来宗教的な真摯な歌を得意としているので、わたしにとっては、ものすごく聴きやすかった。

 それにしても、ここに収録された歌、どれもこれも、とびっきり美しく、温かい。
 そして、宗教曲に対する感想としていいのかどうか、ということはありますが、めちゃくちゃ楽しい曲もある。

 ヘンデルの世界は、とにかく大きく、そして広い。
 さらにまた、これまでなじんできたオペラ・アリアとは、ちょっとちがった世界が見えてきた。

 ヘンデル・イヤー、いよいよ、ラスト・スパートになってきたので、最後の砦、「オラトリオ」の世界へと、このままついに突入していこうかと思います。
 このようなアリアの他に、豊潤な合唱が加わるのだから、わくわくしてきます。


 このCDについては、REIKOさんがくわしい記事をお書きになってらっしゃるので、ぜひそちらをご覧ください。

 こちら

 REIKOさん、このCDに関しては、基本的に絶賛されていて、もちろん、わたしもほぼ同じ感想ですが、
 唯一、ジャケ写に関してのみ、ダメ出しなさっていらっしゃいます。

 わたしは最初にCDを手にした時、

 なにゆえピオー姉さんは、バスタオルを体に巻きつけて写っているのか、??

 と、頭の中が??でいっぱいになってしまった。

 風呂あがりか?


 なお、この選集に、例の微妙な「快活の人、ふさぎの人、温和の人」(L’ALLEGRO IL RENSEROSO ED IL MODERATO)の、ネクラ姉さんのナイチンゲールのアリアも収録されていて笑ってしまった。
 なるほど、あの曲は、ここに入ってもおかしくないのか。



そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

2009年10月09日 20:01
どうもです。(爆)
「風呂上りか?」には笑いました。
あらためて写真を良く見ると、バスタオルというより「シーツ」に見えます。
何かムフフな?雰囲気が。
(宗教曲にこれでいいのかぁ??)
他にも、左腕にホクロが結構あるとか、見てると色々気になって困ります。
昔、綺麗なストレートのワンレン(←死語か?)だったのに、ザンギリヘアみたいになってるし・・・。
「おばあちゃん」になる前に、一度でいいから綺麗なジャケ写真のが出て欲しいと祈ってます。
ピオー、音楽は十分いいのだから、後はそれだけです。
2009年10月10日 15:25
> バスタオルというより「シーツ」に見えます。

 そうですね。これは、まごうことなきシーツです。
 ただ、「シーツ」と書いてしまうと、次の「風呂上りか?」の突っ込みも当然大きく変わってくるので、青少年育成上、むりやりバスタオルということににしました。タイトルも、一応「カンタータ日記」という、まじめなものなんで。(笑)

 naiveレーベルのジャケは、よくモデルさんの写真を使ってますが、わたしは始め、あれはアーティスト本人の写真だとばかり思ってました。最近の歌手は、美人が多く、おしゃれになったなあ、と感心してたのですが、(バカです)
 そんな中、堂々と本人が登場して勝負しているピオさんは、まあ、たいしたものなんじゃないでしょうか。

 それにしても、REIKOさんのところのコメントも含めて、ジャケだけでこれだけ話題がとれるピオっていったい・・・・。
かげっち
2009年10月15日 13:20
笑ってしまいました<ジャケ論議

よっく考えたらシーツとシャツっておんなじ言葉だけど、日本語ではだいぶ語感がちがいますね。

「ヘンゲルブロックの野望」案外当たっているかもしれないと思いました。

ときどき「バッハはバロック音楽なんでしょうか?」と問われますが、なんとなくYesとは答えにくいですよね。ヘンデルならYesと言うでしょうが、バッハはバッハなのだと思ってしまいます。でも、そんなバッハは後の時代の音楽に多大な影響を与えました(ロッシーニが修業時代にバッハとハイドンの作品を写譜して勉強したとか;リスト、ショパン、ウェーベルンに至るまで)。だとすればバッハも、それ以前の音楽から何か影響を受けているはずではないか?模倣したとは言わないにせよ、同時代の他の音楽と同根の部分があるのではないか?バッハを孤高の人として神格化することなく、そのように探求しようとする意見はあるようですから。

ちなみに横笛のピッコロと音域が同じなのはソプラノリコーダーですが、最低音域を使っていなければ、高音域をカバーするためにソプラニーノリコーダーを選ぶことになるでしょうね。いずれにしても横笛とは音色がかなりちがいますが・・・
2009年10月15日 16:04
> バッハも、それ以前の音楽から何か影響を受けているはずではないか?模倣したとは言わないにせよ

 わたしはむしろ、バッハほど過去や同時代の作曲家から影響を受けた作曲家はいないのではないか、と思っています。当然模倣もしまくってますし。(笑)パロディも自作だけにとどまりません。
 バッハがえらいとしたら、その範囲が地域的にも時系列的にも、異様に広く、それらをすべて吸収して芸術的に高い次元で統合した、ということでしょう。
 よくバッハは、バロックの統合者と言われますが、そんななまやさしいものではなく、時系列的な範囲は、バロックだけにとどまらずに、遠くルネッサンスや中世にまで及んでいます。
 ドイツの特定の都市からほとんど外に出たことないのに、驚いてしまいます。影響を受けた、というより、自分から貪欲に吸収した、という感じです。
 カンタータなどを聴いていると、どれだけ中世のこだまが聞こえることか。 それらが、同時代の最先端の音楽と並んでいるのです。しかも、「ムリ」無く。(その究極の姿が、ロ短調ミサです。)
 従って、バッハは、孤高の人などではなく、あくまでも山脈の連なりの中の高峰だと思います。
2009年10月15日 16:38
 続きです。

 一方、後代への影響ですが、例えば、ギョーム・デュファイは、中世のあらゆる音楽を統合しただけではなく、自らルネッサンスという新時代の扉をこじあけましたが、バッハは、吸収するだけ吸収して、結局何の扉も開かなかったのではないか、と思います。
 平均律の使用とか、近代ソナタやコンチェルトの形式の確立など、さもたいそうなことのように言われますが、これらは単にフォーマット上のことです。
 あらゆるものを飲み込むだけ飲み込んで、ある意味完結させてしまった、という点では、ベートーヴェンが例えた「大河」どころか、「海」みたいなものだと思います。

 とは言え、バッハも、当然後代の作曲家にはかりしれない影響を与えているわけで、
 後代の作曲家たちは、自分から、海にでかけていって、水をくみ、それぞれの流れの源泉にした、という感じでしょうか。

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