シューマン、ドビュッシー、そしてルソー(チェブ&賢治も)登場~音楽&美術ミステリ【三位一体節後17】

 今度の日曜日(9月22日)は、三位一体節後第17日曜日。


 カンタータは、
 おそらく第1年巻のBWV148、
 第2年巻(コラールカンタータ)BWV114、
 後期のBWV47、
 の3曲。


 過去記事はこちら↓


 <三位一体節後第17日曜>

    涸れた谷川にて鹿が水を慕うように(BWV148他)
    三位一体節後第17日曜(BWV114他)



 今週は、少し遅い、夏休みの読書感想文。今年前半に今読んだ本の中から。

 何度か旅行等にも行ったので、けっこう本も読んだ。


 以前、葛の葉さんのHPのカンタータ掲示板に、「バッハの音楽が登場するミステリー」というのがありました。

 バッハでは、なかなか、これは、というのが無いので、そのほかの音楽、美術がらみのミステリーをセレクトして。

 
 * 以下、ちょっとずつ、ネタばれあるかも。



 「楽園のカンヴァス」 原田マハ
 

画像



 何と、正面からアンリ・ルソーをテーマにとりあげた、本格美術ミステリー。
 こんな作品を、ずっと待っていた?

 「愛すべき我らがルッソオ」の、そしてさらには、美術史の中で形作られた固定観念や虚像ではない真実のルソーを心から愛する人々の、愛が、情熱が、美へのひたむきな忠誠が、ついに、ピカソという巨人に打ち勝つ、という、ルソー・ファンにとっては実に痛快な、感涙ものの作品。

 もちろん、ピカソ本人は、一応ルソーの理解者であり、恩人でもあるのだから、ここで「ピカソ」と言っているのは、ピカソ等の天才=ビッグネームにこそ絶対の価値を見出し、それによって巨万の利を得ようとする、現代美術会にはびこる輩、ということ。

 現在、ルソーの人気はますます高まりつつあるが、その絵の魅力について語られる時には、ピカソに認められ、ピカソを含む現代アートに少なからず影響を与えた、という「伝説」が、いまだに引き合い出されることが多い。
 わたしは、このピカソとセットみたいなルソー評価が、昔からあまりおもしろくなかったので、この小説は、無条件に絶賛したい。

 ルソーをテーマにした、優れた絵画ミステリーであると同時に、ルソーの生涯を正面から描き切った優れた伝記。ルソーの美そのものをしっかりと見据えた渾身の美術論でもある。

 ルソーの最後の数年間を描いた、謎の作者による「劇中劇」のラスト、クライマックスにおける、ピカソとルソーの熱いやり取り、そして、その結果、瀕死のルソーが、ごご~~っと熱く燃え上がり、「最後の大作」に立ち向かうくだりは、さすがに、ルソーはそんな人じゃないんじゃ・・・・、と、ちょっと思ってしまったが、作者のあふれる思いがひしひしと伝わってきて、実に痛快だった。



画像




 「シューマンの指」 奥泉光


 こちらは、シューマンをテーマにした、重厚な音楽ミステリー。

 冒頭、実に印象的な「謎」が提示されるが、その後は、ずっと、主人公の青春時代の、ある「天才少年ピアニスト」との交流の思い出がつづられてゆく。
 思い出、それは、少年どうしではあるがどこか初恋めいた「天才ピアニスト」とのやりとりで、シューマンのさまざまなピアノ曲を骨子にした、青春時代特有の、思い込みが激しいがきらめきに満ちた「音楽論」そのものにもなっていて、圧巻。
 この部分がこの作品のほとんどを占めている。
 読んでいるうちに、次々と登場するシューマンのピアノ作品がどれもみな聴きたくなってきて、ケンプのピアノ曲全集を買ってしまった。作品を読みながら、シューマンの作品を聴き進めてゆくのは得難い経験となった。

 終盤、「事件」は唐突におこり、美しく、どこまでも芸術的な気配に満たされた、しかし、どこかおかしなところ、妙なところもあった「思いで」の水面下に、「真実」が2重にも3重にも隠されていたことが暗示されて作品は終わる。

 シューマン入門に最適。
 ただ、シューマンがあれほど熱烈に信奉していたバッハに関する言及がほとんど無い所は、ちょっと不満、というか、おかしく思ってしまった。実際にピアノ作品を聴いてゆくと、わたしにはたくさんのバッハのこだまが聴こえた。
 シューマンにくわしい方の、この作品の「シューマン論」に関する感想も聴きたいところ。


 奥泉光さんの作品は、10年以上前に「グランドミステリー」を読んだだけだが、あの重厚でアクロバティックな独特なパラレルワールドが、現在もなお展開されているのを知り、驚いてしまった。



 「さよならドビュッシー」 中山七里


 文庫版の大森望氏の解説に、「音楽+スポ根+ミステリのハイブリッド」とあるが、正にその通りの作品。

 ベートーヴェンの「皇帝」、ショパン、そしてドビュッシー、言葉による音楽そのものの描写も含めて、演奏シーンは圧巻。
 これを読むだけでも価値がある。ちょっとしつこすぎるところもあるが。
 リハビリ、それと並行しての練習の描写も、この種の作品にしては丁寧で、結果的に壮絶なものになっている。(このあたりが「スポ根」的なところ)
 そして、何よりも、ちょっと反則なんじゃ、と思えるほどの最後の2重の大どんでん返し。
 読み始めてすぐ、何だかあやしいな、と思いながらも、まさかそれはないだろ、と油断していた。
 これに関しては、結末を知ってから、作者がいっしょうけんめいにあちこちにひそませている様々な仕掛けを楽しむため、再読したほど。

 さらにこれらに加えて、遺産相続やマスコミ他、人間のドロドロとして暗い側面、障害者やいじめに関する社会問題などが、これでもか、これでもか、と詰め込んであって、ほんとうに盛りだくさん。ハイブリッドどころか、多機能スマホみたい。

 それらが皆一つの方向に向かって邁進するのならいいが、どうもそれぞれの部分に力が入りすぎ、個々の側面が突出していて、ややちぐはぐな印象がぬぐえなかったのが残念。
 そのような内容から、当然説明調で長いせりふも多く、読後はどどっとつかれてしまった。
 作者の情熱はものすごく伝わってきたが。


 第2作の「おやすみラフマニノフ」は、高価なチェロが密室から消えるという、ずっと「お気楽」な事件が扱われ、(もちろん「さよなら」に比べれば、ということだが)
 主人公の大学生が、バラバラな学生オケを何とかまとめようとするストーリーみたい。
 探偵役の、司法試験をトップで合格した天才ピアニスト(なんじゃ、そりゃ)もそのまま登場するようだし、引き続き読もうと思っている。結局、はまっている?
 ラフマニノフは、浅田真央選手の一世一代の勝負曲、思い入れもあることだし。



 最後に、音楽ミステリでも、美術ミステリでもないですが、


 「ビブリア古書堂の事件帖」


 * 注意!次の写真から、思いっきりネタバレ


▽ 「おれも出てくるよ」

画像



 かなり前の「建築ドラマ」の記事でもちょっと触れた作品。
 TVドラマは、その記事でも予告した通りいきなり脱落してしまいましたが、原作はちゃんと読みました。

 原作の第3巻で取り扱っているテーマとして、

 第1話:ロバート・F・ヤングの「たんぽぽ娘」

 第2話:タヌキとワニと犬が出てくる、絵本みたいなの

 第3話:賢治の「春と修羅」

 と、わたしにとってど真ん中のアイテム?が見事にすらりと並んでいるので、一応ここでもあげておくことにします。


 原作は、文章も読みやすく、けっこうえげつない話が多いもののうまくオブラートに包んでいるので、気軽に読めて、まあ、おすすめ。


 ちなみに、第1話に登場する「たんぽぽ娘」は、「宇宙クジラ」のロバート・F・ヤングによる、タイムトラベルもの。
 「夏への扉」の大事なエッセンスの一つだけを取り出して、やさしい花束で飾ったような作品。


 なお、これらのテーマのことが好きだからゆえに気が付いたことは、けっこう多いのですが、一つだけ。

 主人公の栞子さんにダメ出ししてもしかたないし、そもそも、この作品、完璧な推理をパズル的に楽しむというより、主人公たちが推理してゆく過程を楽しむものだと思うので、全く意味はありませんが。

 第3話、「春と修羅」に関して、

 依頼人のお兄さんが、改訂稿の「兜率の天の食」という言葉を例え話に出したからと言って、また、「春と修羅」初版本を「完璧な出来」と評したからといって、お兄さんが初版本などほとんど読んだことも無い、と断定するのは、おかしいです。
 賢治の作品は、読んでいくほどにさまざまな版のことも知りたくなり、読み込んでいる人ほど、他の版のことを知っているものです。(その点、ブルックナーの交響曲と同じ)
 また、さまざまな版を知れば知るほど、たいていの場合は(特に「春と修羅」は)、一番最初に、賢治の心から迸り出した言葉こそが霊感に満ちていて正に「完璧」だった、と感じる人が多いのではないでしょうか。(この点も曲によってはブルックナーと同じ)もちろん、誤字脱字の類は別にして、ですが。
 少なくともわたしは、例え話に使う時には、一般的に普及している「兜率の天の食」という言葉を使うかもしれませんし、しかしながら、詩の表現としては、ややこしい「兜率の天の食」という言葉よりも、心からのやさしさに満ちあふれた、初版本の「天上のアイスクリーム」という言葉の方が、胸が締め付けられるような悲しみが感じられて、「完璧」だと思います。
 そして、わたしは、何にも増して初版本版「春と修羅」を愛していて、熟読してきたつもりです。
 

 ・・・・と、まあ、こんなことをあれこれと考えめぐらせることができる、楽しい作品。



 以上、本のことを書くと、どうも重箱の隅をつつくように、理屈っぽくなってしまうな。



 9月19日、中秋の名月


 明るく街や森を照らす月。

画像
画像



 午後8時過ぎの完全な満月。

画像




そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

画像





この記事へのコメント

ぜば子ちゃん
2013年09月23日 19:50
こんばんは、はじめてコメントさせていただきますが、
こちらのサイトには時々お邪魔させていただいている者です。
「バッハの音楽が登場するミステリー」ということでしたが、
「オルガニスト」(山之口洋/新潮文庫)は読まれましたでしょうか。
裏表紙に書かれた紹介文を少しだけ写すと、
「ドイツの音楽大学で教鞭をとるぼくに、一枚のディスクが持ち込まれた。
ブエノスアイレスで活躍するというそのオルガニストの演奏は、
超絶的な技巧に溢れ、天才の出現を予感させたのだったが・・・。」
というものです。
好き嫌いはあると思うのですが、
ちょっとだけオルガンを齧ったことがある私は面白く読みました。
無理にお勧めするものではありませんが、もしよろしかったら、
お暇なときにでも読んで感想を書いていただけると嬉しいです。
2013年09月25日 01:39
 ぜば子ちゃんさん、興味深い情報、ありがとうございます。

 バッハの音楽がちらっとだけ登場する作品はけっこうあるのですが、教えてくださった「オルガニスト」は、バッハのオルガン作品が重要なテーマのひとつとして正面から取り扱われているようですね。そういう意味で、とても貴重です。
 必ず読んで、いずれきちっと感想を書きたいと思います。

 作者の山之口洋さんの作品は読んだことがありませんでした。調べてみたら、他にも面白そうな作品がけっこうあるようです。
 絶版になってしまっている本もあるようですが、図書館にはほとんどそろっているみたいなので安心しました。
 また何か情報があれば、よろしくお願いいたします。  
 
 

この記事へのトラックバック

過去ログ

テーマ別記事