バッハの心の奥を照らす光~昨年印象に残ったCD・カンタータ編【顕現節後第3日曜日】

 今度の日曜日、1月26日(顕現節後第3日曜日)のカンタータは、

 第1年巻のBW73
 第2年巻(コラール・カンタータ)のBWV111
 その翌年のBWV72
 後期のBWV156

 の4曲です。


 究極のゾロ目名作コラール・カンタータ、BWV111以下、冬まっただ中の今の季節にぴったりの、凛とした傑作ぞろいです。


 過去記事は、こちら。↓


 <顕現節後第3日曜日>

    冬のラルゴ・その1(BWV156他)
    顕現節後第3日曜(BWV72、111)
    顕現節後第3日曜(BWV72、111)
    ゾロ目CK、BWV111



 今日は、これらのカンタータの中でも、特に冬の風情あふれる、「冬のラルゴ」、BWV156にちょっと関係あるCDのご紹介。

 久しぶりにとりあげる、カンタータ・アリア集、しかも、とびっきりの名盤です。



 NURIA RIAL

 J.S.BACH ”ARIAS” Chronik der Anna Magdalena Bach

  ヌリア・リアル(S)、J.シュレーダー(Vn、指揮)&バーゼル室内管弦楽団


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 多くのヘンデルのアリア集やオペラ等で、すばらしい歌声を聴かせてくれたヌリア・リアル嬢が、満を持して、ついにバッハのアリア集にチャレンジ。
 これだけでも大注目。
 しかもそれだけではない。

 このCDのまずすごいところは、その考えつくされたコンセプト。
 つまり、わたしの大好きなコンセプトアルバムなのだ。

 CDを実際に聴いてみる。

 BWV82を始め、BWV36、173、そして、BWV208などのカンタータで聞き覚えのある、アリアの名曲中の名曲。
 BWV1056、1060の協奏曲。
 さらには、マタイでおなじみの超有名アリアまで。

 ちょっと見、有名曲を寄せ集めた、いかにもありがちなごった煮的バッハ名曲集。

 だが、なーんだ、と言うなかれ。
 ここに収録された曲は、実はほとんどが、愛するアンナ・マグダレーナがらみの曲、そして、アンナ・マグダレーナが歌手を務めていたケーテンゆかりの曲なのです。

 ケーテン時代は、言わずと知れたバッハの「傑作の森」のひとつ。
 でも、ケーテン時代には教会カンタータはないはずじゃ、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
 しかしながら、ライプツィヒ時代の教会カンタータには、正に泉の水が湧き出るように作曲されたケーテン時代の魅力作を起源として、最高の形で有効再利用した曲が驚くほど多く眠っていて、教会カンタータを聴くことは、永遠に失われてしまったものをも含む、ケーテン時代の珠玉作を聴くことである、ということは、これまで書きつづけてきたとおり。

 実際、BWV36、BWV156、BWV173などの教会カンタータの名作は、このCDに収録された世俗カンタータやコンチェルトをもとにしているのです。

 その他、バッハのカンタータの最高峰、BWV82は、言うまでも無く、アンナ・マグダレーナの音楽帖に書き記されたもの。

 では、マタイのアリアは?
 実は、これ、ケーテン侯が亡くなった時の追悼音楽、BWV244aとして演奏されているもの。
 大恩人であるケーテン侯が亡くなった時、バッハは自身の最高傑作とも言える自信作、マタイと哀悼頌歌BWV198から選りすぐりの曲を編纂し、渾身の追悼音楽を捧げたのです。(関連記事、こちら

 なお、さらにうれしいことに、ボーナス・トラックとして、その哀悼頌歌からの大傑作アリアも収録されています。


 つまり、これらのケーテン作品群、そして、何より、バッハの心の支えでもあった、アンナ・マグダレーナやケーテン侯がらみの作品群は、大バッハの心の最奥に深く連なる作品群、と言っても過言ではないわけですね。


 そして、このような、瑞々しい魅力炸裂のケーテン作品、そして真摯極まりないアンナやケーテン侯ゆかりの作品に、これまたこれ以上ないくらいに真摯な歌声は、ぴったりマッチ!

 どこか地中海の美しい風景を思わせる、まっすぐな、明るく美しい歌声。
 
 あまりにも明るく美しく、何だか悲しくなるくらい。
 従って、どこまでもまっすぐなのに、不思議な陰影にも富んでいるので、悲しい追悼の曲などにも不思議とマッチする。


 水そのもの、あるいは風そのもののように自然に変化しながら疾走する器楽群やオケも見事。
 十分に鮮烈ながら輪郭の淡い伴奏と、十分に温かいのだが芯がしっかりとしてある意味硬質なリアルの歌とのコラボが魅力的。


 お正月以降、もうこればっかり聴いていました。

 上記の通り、追悼音楽も含まれているので、お正月の華やいだ気分には合わない、という見方もあるかもしれませんが、基本的には、やはりケーテン特有の華やいだ曲をリアルの華やいだ声がのびのびと歌い上げているので、心配無用。

 それに、昨年中は、バッハのすばらしさ、真の姿をわたしたちに教えてくださったという点で、どれだけ感謝してもしきれない小林義武、川端純四郎両氏、そして年末になって、ムーンライダーズのかしぶち哲郎さん、大瀧詠一さん、さらに、今年になってからは、アバドさんなどなど、自分にとって音楽的にとても大切な人が相次いで亡くなってしまったので、それをしんみりと偲ぶのにも、またふさわしい。


 と、いうわけで、バッハのアリア集数あれど、その中でも、コンセプト、曲そのもの、そして演奏、すべてに飛びぬけた、かけがえのない一枚の登場です!



 もう一枚、

 こちらも、バッハのカンタータからのアンソロジーだが、声楽のアリア集では無くて、インストゥルメンタルに編曲した曲集。

 ジャケットがちょっとこわい・・・・、


 THE SILENT CANTATA カンタータからのコラール、アリア集

  オズデミール(ファゴット)、ムジカ・セクンツァ


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 器楽編曲集ではありますが、ありきたりの器楽アレンジではなく、イスタンブール生まれのファゴット奏者、ブーラク・オズデミールのファゴットをフィーチャーした、ちょっと変わった編曲集。

 構成も、前半、後半の2部に分かれ、どちらも、シンフォニア、あるいはコラール合唱曲に続き、アリアが数曲奏され、最後に4声コラールでしめられる、という、まとまったグループになっている。
 さらに、緩急のアリアが交互に配置されてもいるため、2編の器楽によるカンタータ、というより、2つの大規模なコンチェルトを楽しめるような、とても凝ったつくり。

 オブリガートが弦楽合奏等の時は、それこそコンチェルトそのもの、ソロ楽器の場合も、いかにもダブルコンチェルトみたいな趣なのがおもしろい。
 CDをかけると、はじめのシンフォニアに続いて、いきなり、まるでこれまで聴いたことの無い大コンチェルトの緩徐楽章みたいに装われた、あの超名曲、BWV127のソプラノ・アリアが、静かに静かに響き渡ります。

 これもまた、バッハのカンタータがコンチェルトの宝庫であることを雄弁に語ってくれる一枚。

 曲目は有名曲よりも隠れた名曲が多く、渋い選曲ですが、当然、ファゴットが効果的に使用されるという点が重視されていて、超名曲ばかりです。
 そして、何よりも特徴的なのは、それらの曲目が徹底して短調曲で占められ、ゆっくりとした楽章はしっとりとした美しさ、速い楽章は力強い疾走感をたっぷりと楽しめること。
 当然、バッハには、チェロやファゴットなどの低音楽器のコンチェルトは存在しないので、そういう意味でも貴重。
 ここに含まれているアリア等は、チェロ等で奏するのにも適している、ということにもなるのでしょう。





そのほかの「記事目次」

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カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

ANNA
2014年01月26日 18:46
Noraさん、こんばんは。

 ヌリア・リアルが大好きです!透明感があってあたたかい、暖色系の声。
高音部でも芯はあるけど、真綿のようにやわらかで伸びやかな歌声。
いつかヌリア・リアルがソプラノを歌うカンタータ全集がでないかしら~と本気で思っているほどです。
 なのに、このアルバムが発売になっているとは知らず...
Noraさんのこちらの記事を拝見し先日早速買い求めて以来、何度も聴いています。現在の目覚めの音楽がこのアルバムです。
 大好きなBWV82のアリアが彼女の歌声で聴ける喜び。
おかげさまで新年早々ほんとうにいいアルバムに出会えました。
ありがとうございました!
2014年01月28日 11:36
 ANNAさん、どうも。

> 現在の目覚めの音楽がこのアルバムです。

 BWV208のさわやかなアリアで幕をあげるこのアルバムは、朝の気分にもぴったりですね。これからの季節、春や初夏にも最高だと思います。

 ヌリア・リアル、いいですよね。
 芯があるけどやわらかい、透明感のある暖色系・・・・、
 おっしゃる通りだと思います。
 リアルに関しては、ヘンデルのオペラやアリア集、カンタータなどには、たくさん良いCDがあり、これまで何度もご紹介してきたので、すっかりおなじみの歌手の一人ですが、なぜかバッハとなると、リチェルカール・コンソートとの大名盤(BWV202)以外は、カンタータ全集どころか、録音自体がそれほど無いという状態でした。
 そういう意味で、ずっと待ち望んでいたアルバムでもあったのですが、待った甲斐がありました。ほんとうに、今後に期待したいですね!

 一応参考までに、左URL欄に、リアルのバッハのディスコグラフィをはりつけておきます。
 ヨハネ受難曲など、ものすごく気になりますが。

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