名品BWV82を聴く。モントリオールバロック等、(わりと)最近の名盤いろいろ【マリアの潔めの祝日他】

 今度の日曜日(2月1日)は、復活節前第9日曜日。
 今年は顕現節後日曜日は先週で終わり、今週から春へのカウントダウンが早くも始まります。

 カンタータは、
 第1年巻のBWV144
 第2年巻のBWV92
 後期(1927年)のBWV84
 の3曲。

 まだまだ寒さの厳しい日々が続きますが、そんな中にも、春への胎動が微かに感じられ始めた今の季節にぴったりの、凛とした美しさにあふれたカンタータが、今後はしばらく続いてゆくことになります。
 特に、第2年巻、コラール・カンタータ年巻の最後の連なりの、あたりを振り払うかのような佇まいは絶品。そのラストにして最高峰であるBWV1、春の訪れを高らかに告げる名作中の名作に向けて、その美しさは研ぎ澄まされてゆきます。

 過去記事は、こちら↓

 <復活節前第9日曜>

    復活節前第9日曜(BWV84他)
    復活節前第9日曜(BWV92、144)
    CK年巻(第2年巻)最後の大山嶺への登攀開始!(BWV92)


 さらに、翌2月2日(月)は、マリアの潔めの祝日。

 バッハのカンタータを代表するような名曲がずらっと並ぶ祝日です。

 この日のカンタータは、

 【マリアの潔めの祝日・カンタータ一覧】 (一言コメントつき)

 をご参照ください。

 カンタータの王冠、BWV82以下、どの曲も、バッハ渾身の傑作。

 あなたの大切な1曲をぜひ見つけてください。

 過去記事は、こちら↓ 

 <マリアの潔めの祝日>

    マリアとバッハ~はじめて聴くカンタータ
    お気に入りのアリアその3(BWV82)~夕映えのR.シュトラウス
    シメオンの涙~マリアの潔めの祝日 【潔めの祝日・カンタータ一覧】
    お気に入りのアリア・潔めの祝日編 とっておきの1曲(BWV157他)
    カンタータの名演を試聴してみましょう!(BWV82他)
    カンタータの祭典!!マリアの潔めの祝日&五旬節
    雪のエストミヒ
    バッハ入魂!BWV125



 ・・・・と、いつものように書いて、普通だったら終わるところですが、今年は、これでは終わりません。

 この機会に、

 カンタータ第82番 「われは満ち足れり」 BWV82

 を、じっくりと聴いてみました。

 

 今年は年が明けてからずっと、モントリオール・バロックの顕現節後のカンタータ集を聴いてまいりましたが、せっかくなので、まずは同じモントリオールバロックのシリーズから。

 曲の特徴などをふまえながら、感想を。

(なお、この曲、歌詞を含めた内容が、現代日本に生きるクリスチャンではないわたしには、途方も無くややこしいものであるため、ここでは単純に音楽的な側面だけ)


 ☆バッハ マリアの祝日のためのカンタータ集 (BWV147、BWV82、BWV1)

  モントリオール・バロック


 このCD、モントリオール・バロックのカンタータ全曲シリーズの第3弾としてリリースされたもの、
 BWV147BWV82BWV1(収録順)の3曲が収録されています。

 一見、バッハのカンタータのベスト名曲集みたいな並びですが、このシリーズならではの暦に合わせたコンセプトアルバムで「マリアの祝日のためのカンタータ集」ということになります。

 すなわち、

 冬のマリアの潔めの祝日から、BWV82

 春のマリアのお告げの祝日(受胎告知日)から、BWV1

 夏のマリアの訪問の祝日から、BWV147

 バッハのいたルター派教会において、1年のうちにマリア関係の祝日は上記の3つがあるのですが、冒頭でふれたマリアの潔めの祝日でもそうだったように、マリアがらみの祝日になると、バッハは異様なまでの情熱を持って、自身の全精力と全作曲技法を注ぎ込んで作曲を行ないました。
 従って、マリアの祝日のカンタータを並べると、それはそのまんまバッハのカンタータの最高峰、ということになるのですが、
 ただでさえ名曲揃いのそれぞれの祝日から、さらにその祝日を代表する1曲を選りすぐったのがこのCD。
 このように、バッハのカンタータのベスト・オブ・ベストのラインナップになるのも当然なわけです。

 その錚々たるラインナップを、飛び抜けて高い水準の、美しいOVPPで聴くことのできるこのアルバム、
 初心者から愛好家まで、誰にでも自信を持っておススメすることのできる、バッハのカンタータCDの究極の一枚(のうちの一枚)、ということになります。


▽ ジャケットにも徹底したこだわりをみせる本シリーズ

  一見シンプルに青と白の2色に分かれているだけみたいだが、
  よく見ると、下の白い部分は、一面に広がる雲の海。
  これだけのラインナップを表す絵柄としては、確かにこれくらいしか無い?

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 いきなり、BWV147の喜びに満ちあふれた冒頭合唱からCDは始まります。
 最先端の古楽オケ、そして錚々たる名歌手たちによるOVPPの演奏は、気持ちはこもっていますが、むしろたんたんとしている。そっけなく感じられる方もいらっしゃるでしょう。
 だけど、音楽はまぶしいほどに輝きわたっている。よくあるような、楽しく、明るく演奏しよう、あるいは歌おう、とした結果の、「表現上の喜び」ではなく、もともと音楽自体に内包している大いなる喜びが炸裂しているのです。

 そんな演奏ですから、演奏を聴いた感銘も、自然と音楽そのものの完成度の順ということになります。
 すなわち、収録されているままの、BWV147BWV82BWV1の順番。
 BWV82BWV1の完成度の高さは、とても比べられるようなものではないだろうという意見もあるかもしれませんが、ここはソロカンタータのBWV82より、やはりBWV1の方が、レヴェルの高いOVPP演奏の力が存分に発揮されて圧倒的。
 クライマックスがCDの最後にやってくるという、これもコンセプトアルバムの常套手段。


 そんな当CDの中での、BWV82の演奏。
 BWV147BWV1という、コラールで有名な合唱が大活躍する2曲の間にはさまれて、見事なアクセントの役割を担っています。
 OVPPの魅力がストレートに爆発し、もうキラキラときらめいて何が何だかわけが分からないような感動に包まれるBWV1に比べると、さすがに一歩譲るものの、そこは、バッハのカンタータの王冠、BWV82、この演奏も決して負けない力を持っているのは、言うまでもありません。

 BWV82、言わずと知れたバッハのソロカンタータの最高峰であるとともに、実は、コンチェルト風カンタータの最高峰でもあります。
 滔々とした大河の流れのような第1曲、静謐な、何もかもが透き通ってしまったかのように清らかな第3曲、そして、狂おしいまでの力にあふれた第5曲、
 それが有機的なレチタティーヴォで連結されているという、まさにコンチェルトそのものというべき楽章構成もさることながら、
 よくぞこれだけ限られた楽器でこれだけの深々とした響きが出せるものだ、と驚嘆してしまうほどの、バッハのオーケストレーションの妙を堪能することができます。
 そして、そこに加わるのが、最強の楽器とも言える「声」。
 声と楽器が一つになった、バッハ究極のコンチェルト。

 そして、そのような性格を持つこの曲においても、モントリオール・バロックの個性は驚くべき効果を発揮します。
 何と言っても、モントリオール・バロックは、カンタータからコンチェルト楽章を取り出して、もう6曲の「新ブランデンブルク協奏曲」をつくりあげてしまったくらい。(こちらのCD
 ここでも、のびやかで輝かしい声のバスのステファン・マクラウドさんとともに、目も覚めるような、華麗で、生き生きとした演奏を聴かせてくれます。
 特に第1曲や終曲は独壇場。
 第1曲、
 複雑な幾何学模様を描きながらどこまでも果てしなく続くかのような弦と通奏低音の波、
 静かにせり上がってはおさまってゆくその波の上を、それぞれ異なる色彩に輝くオーボエとヴォーカルが、これまた複雑に絡み合いながら飛翔してゆく。
 そんな壮麗な光景が目の前にスコーンと広がるほど、ファンタジックで色彩的な演奏。
 第5曲では、歌詞を超越した、次々と湧き上がる根源的な生命力、エネルギーみたいなものを感じさせてくれるのもうれしい。
 大名曲、BWV82、膨大な数の名盤が存在しますが、これほど壮麗な演奏はちょっと他には無いのでは。
 バッハの極上のコンチェルトを聴く喜び!


 さて、このCD、先ほどのべたとおり、有名曲、BWV147もさることながら、BWV1がとんでもない名演です。

 もう少しして、花々や木々、そして風や日の光などが春の訪れを高らかに告げ始めるマリアのお告げの祝日の頃に、またあらためて感想を書きたいと思います。


 本CDのリリース時の記事は、こちら



 引き続き、この機会に、BWV82の最近のマイ・フェイバリットCDを。

 モントリオール・バロックとくれば、リチェルカール・コンソート。


 ☆バッハほか カンタータ集 「深き淵より」から「われ満ち足れり」へ

  リチェルカール・コンソート

  エグモント(バス)、ボウマン(カウンターテナー)、ピエルロ、フォクルールほか

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 リチェルカール・コンソートと言えば、豊かなファンタジーと夢のような美しさが特徴の現在のMIRAREレーベル・シリーズが真っ先に思い浮かびますが、これはそれ以前の、黎明期のベルギーRICERCARレーベルの名演の復刻盤。
 今のところ、リチェルカール・コンソート唯一のBWV82

 ただまっすぐに未来を見つめる若き天才音楽家たちと、20世紀の古楽復興を支えてきたエグモントによる、正に一期一会、奇跡の「レコード」、あのBWV106の超名演に通じるような、真摯極まりない演奏です。
 音楽が始まった瞬間から、厳粛かつ気宇壮大、凛としてあたりを振り払うかのようなただならぬ空気が、聴く者の心を包み込む。

 バッハの最初期のカンタータBWV131と、ある意味、バッハが行きついた究極の最終形であるBWV82を取り上げ、その間にさまざまなドイツ・バロックの作曲家の「深き淵より」を並べた、これも見事なコンセプトアルバム。
 BWV131はもちろん、その他の作曲家の「深き淵より」も、みんな聴き応えあり。


 詳細記事は、こちら。 



 ソプラノ・ヴァージョンの最新の名盤も1枚。

 これはご存知のように、勝手にソプラノ版にしているわけではなく、バッハ自身による版。
 バッハ自身もこのBWV82は大のお気に入りで、初演後もソプラノやアルト歌唱用に(楽器も含めて)編曲され、何度も何度も繰り返し演奏しているのです。
 バス・ヴァージョンとはまったく異なる清楚なひたむきさが魅力。

 ここでは、シェーファーの、新しいソプラノ・ソロカンタータ集を。


 ☆バッハ ソプラノ・カンタータ集(82、84、199番、他)

  C.シェーファー、フォルク&ベルリン・バロック・ゾリステン

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 シェーファーは、最近、ヒラリー・ハーンのバッハ・Vnオブリガート・アリア集アーノンクールのBWV140ほかの新盤(但しシェーファーが歌っているのはBWV2961)などで、バッハのカンタータにおいて驚くべき名演を聴かせてくれているが、その集大成ともいうべきアルバム。

 シェーファーのソプラノ・カンタータ集としては、15年以上前のBWV51、結婚カンタータ他(グラモフォン)に続くおそらく第2弾。(今回はソニー・クラシカル・レーベル)
 第1弾では、当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったゲーベル&ムジカ・アンティクヮ・ケルンが伴奏をしていたのに対し、今回はモダン楽器のベルリン・バロック・ゾリステンが伴奏だが、今聴いてみると、新盤の方がむしろ新鮮で美しく感じる。

 フルートの清らかなオブリガートをまとったシェーファーの歌唱は、決然としたまなざしを感じさせて、実に美しい。
 バス・ヴァージョンと比べると、とても同じ曲とはとても思えないほど。

 第1弾がリリースされた頃、バッハのソプラノ・カンタータ集と言えば、やはりアージェンタ&アンサンブル・ソネリーの存在が圧倒的で、シェーファー盤はどうしてもその影に隠れがちでした。
 この第2弾は、まだソプラ・カンタータ集をお持ちでない方、あるいは、何か新しい演奏を、と言う方に、自信を持ってお勧めできると思います。

 なお、今週、復活節前第9日曜日のための美しいソプラノ・カンタータ、BWV84のこれ以上ないというくらい美しい演奏も収められています。
 カンタータの合間に挟まれた、インストゥルメンタルもよい。



 そして、BWV82の歴史的名盤と言えば、やはりこれ。

 ホッターによる全曲盤


 ☆カンタータ第82番 「われは満ち足れり」

  ハンス・ホッター(バリトン)、アンソニー・バーナード指揮、フィルハーモニア管弦楽団


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 HP「バッハの教会カンタータを聞く」で、全曲試聴&ダウンロードすることができます。こちら
 これまで何度もご紹介してきましたが、また改めて。

 もはや何も語りません。とにかく聴いてください。耳を傾けてください。

 その他のカンタータの歴史的名演も聴くことができます。



 おしまいに、単独楽章のみの、最近聴いた印象的な演奏も、いくつか挙げたいと思います。
 どちらも全曲盤ではなく、アンソロジーに単独楽章が含まれているもので、ちょっと変わった演奏です。


 まずは、コンチェルト楽章としての性格を前面に押し出したもの、というか、ファゴット編曲によってコンチェルトそのものにしてしまったもの。
 オズデミールの名人芸で。第5曲の編曲版です。

 ☆THE SILENT CANTATA カンタータからのコラール、アリア集

  オズデミール(ファゴット)、ムジカ・セクンツァ

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 始めからコンチェルトだったみたいな、生き生きと躍動する演奏。 
 このような見事な演奏を聴くと、コンチェルト原曲説も、さもあらん、と思えてくる? 


 お次は、再びソプラノの歌唱による、全曲の白眉とも言える第3曲アリア。

 NURIA RIAL

 ☆J.S.BACH ”ARIAS” Chronik der Anna Magdalena Bach

  ヌリア・リアル(S)、J.シュレーダー(Vn、指揮)&バーゼル室内管弦楽団

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 ヌリア・リアルの心のこもった真摯な歌唱。

 生涯にわたってバッハを支え続けたアンナ・マグナレーナ・バッハの歌は、正にこんな感じだったのでは、と思わせるような、どこまでもまっすぐで美しい演奏。

 これは先ほどのシェーファー盤とはちょっとちがっていて、このアリアが、アンナ・マグナレータ・バッハの音楽帖に記載されていることにちなんだもの。
(そのせいか、フルート版(BWV82a)のフルートによる補強はありません)


 なお、上記二つのCDの詳細記事は、こちら





そのほかの「記事目次」

「全体記事目次」

カンタータ日記・奥の院

浅田真央さん情報・最新版

宮沢賢治記事目次

カンタータ日記・大阪モダン建築図鑑

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この記事へのコメント

ANNA
2015年02月05日 21:53
Noraさん、こんばんは。

こちらでご紹介いただいた「聖ヨハネの日」のカンタータ集を聴いて以来、モントリオールバロックのファンになった私は、あれから1枚ずつ求めてます。「マリアの祝日」
のアルバムも、OVPPひとりひとりの歌唱、器楽演奏ともに素晴らしくて!
繰り返し聴いてます。

それから、お気に入りのBWV82のアリアも、Noraさんがいろいろなアルバムをご紹介下さるので、こちらも少しずつ買い求めているところです。
次は、シェーファのソプラノアリアで聴いてみようかな~と思ってます。
2015年02月08日 01:42
 ANNAさん、こんばんは。

> お気に入りのBWV82のアリアも、

 バッハのカンタータは、お気に入りの曲が見つかると、とにかく聴き比べが楽しくなりますよね。結局は歌がメインですから、歌手によってまったく表情が変わりますし、通奏低音等の楽器編成も指揮者によってまちまちで、そもそもモントリオールバロックなどの古楽器とシェーファー盤等のモダン楽器では雰囲気は大きく異なる上に、さらに、多くの歴史的名演まで存在します。
 その上、BWV82などは、バッハ自身によるヴァージョン自体たくさんあるんですから、本来かんたんにベスト演奏など選べるはずもない、まったく迷宮のような世界ですが、それだけに、はまればはまるほど楽しさが増してゆくのも事実です。
 わたしもほんの一部しか聴いていないので、もし何かお気に入りの演奏にめぐりあったら、ぜひ教えてください。

> シェーファのソプラノアリアで聴いてみようかな~と思ってます。

 バッハのソプラノのソロカンタータは、ちょうどCD2枚分あるのですが、シェーファーは、若いころに華やいだ曲を集めたアルバムを1枚リリースしており、新盤は、それに比べるとしっとりと落ちついた曲中心の1枚にしているところがとても特徴的です。
 年代に応じてほんとうに歌いたい曲を選んでいるようなところがあって好感が持て、実際どちらもよいアルバムになっていると思います。

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